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アジアに敵対し亡国へ導く新ガイドライン反対

有事法制阻止の国民的闘争を


 日米両国政府は九月二十三日午前(日本時間同日深夜)、米ニューヨーク市内のホテルで外務、防衛担当閣僚による日米安全保障協議委員会(2プラス2)を開き、新たな日米防衛協力のための指針(ガイドライン)を決定した。七八年策定の現行指針は十九年ぶりに抜本的に改訂され、周辺事態(日本周辺有事)における米軍への後方支援、機雷除去など四十項目の具体的な対米軍事協力策が確定された。
 アジアに敵対し、わが国を危険なアメリカのための戦争に引き入れる新ガイドラインに抗議し、政府が急ぐ「有事法制整備」、日米相互協力計画の具体化などに反対する、国民的な闘いを、大きく作り出さなければならない。

許し難い「周辺事態」のギマン

 わが党は、ガイドライン見直しは、昨年四月の「日米安保共同宣言」で踏み込んだ安保再定義の道の具体化の第一歩であるとして、強く反対してきた。それは、アメリカのアジア戦略に従い、日米安保をアジア、世界範囲に拡大し、アメリカとともにアジア各国に敵対する危険な道であり、わが国の真の国益に反するものである。しかし、今回の新ガイドラインの決定は、まさにその選択をさらに一歩進める最悪のものとなった。
 新ガイドラインでいう「周辺事態(日本周辺有事)の協力」は、六月の中間まとめの発表時から、アジア諸国、とりわけ中国の強い警戒感と厳しい批判を引き起こした。日米軍事協力の対象となる、「周辺」の地理的範囲は近隣諸国にとって重大な関心事である。とりわけ台湾問題は中国の内政であり、昨春のアメリカ空母部隊による台湾海峡での挑発、干渉のような軍事的介入を中国が容認できないのは当然である。
 高まる批判を「配慮し」、新ガイドラインでは、「事態の概念は地理的なものではなく、事態の性質に着目したもの」だ、という一節が加えられることとなった。しかし、これこそ最も悪質なギマンであるといわねばならない。安保再定義の前提となった、アメリカの冷戦後のアジア戦略、「東アジア戦略構想」は、「中国の長期的な目標は不明確」などと中国脅威論をあおり、明確に中国を仮想敵と位置づけているのである。
 キャンベル米国防次官補代理は十九日の記者会見で「台湾海峡有事の時に、米軍と自衛隊は一緒に闘うのか」との質問に、「仮定の質問には答えられない」としつつも「米国には台湾への脅威に対処するための台湾関係法がある」と含みを残した発言をしている。ことの真偽は明らかではないか。
 中国外務省の沈国放・報道局長は「日米安保は厳格に二国間の範囲に限定すべきである。そうでないと、アジア近隣諸国に不安をもたらす」と述べ、改めて強い懸念を表明した。また国営新華社通信は「周辺事態の地理的範囲はあいまいなままだ」と指摘「他のアジア太平洋諸国は二大軍事大国が指針をどう実施していくか、関心を持って見つめている」と論評している。また、朝鮮民主主義人民共和国は「日本反動らは、米国とともに、気の向くアジアの地域と国に侵略の矢を飛ばそうとしている。これが『指針』再検討策動の基本目的である」
(朝鮮中央放送)と、この事態を見抜いて警戒感を高めている。ASEAN諸国もまた、「東南アジア諸国との緊密な協議抜きに、日本が信頼をかち取ることは非常に難しくなる」(タイ紙・ネーション)と不信感をあらわにしている。アジアの信頼なくして、わが国の長期の国益が守れるはずもない。アジアとの共生で平和で豊かな、わが国の進路を求める、多くの国民にとって、この新ガイドラインはとても容認できるものではない。

「有事法制」整備を許すな

 新ガイドラインは、その「実効性」を担保するものとして、日米間の「包括的メカニズム」と「調整メカニズム」という新たな機構の構築を規定した。日米共同作戦計画や相互協力計画の策定と、その運用、具体化を両国軍、関係省庁の協議機関で、急速に進める体制をつくろうというのである。さっそくわが国は、国内体制整備を急がされることとなっている。政府は九月二十九日の安全保障会議と臨時閣議で、新指針の「実効性確保」のため「政府あげて取り組む」方針を決定。外務省や防衛庁のほか運輸、警察など関係省庁で現行法上の問題点を洗いだし新たな法整備を進めることとした。
 これまでの政府の検討では、自衛隊艦艇を「民間人救出」で海外派遣したり、自衛隊を臨検に参加させるための自衛隊法や国連平和維持活動協力法の改正、米軍への後方地域支援を可能にする有事版の日米物品役務相互提供協定(ACSA)の締結などの必要性が指摘されている。政府にはこれらを、「緊急事態法制」として一括整備する案も浮上している。しかし、ここで検討されている多くが、憲法が禁止する集団的自衛権の行使に該当することは明らかである。
 危険な「有事法整備」などガイドライン関連法の整備、改悪を断じて許すことはできない。

国民的闘いこそ真の力

 「有事法制整備」を阻止し、新ガイドラインに反対する闘いで、最も有効な力は国民的な運動である。国会内の闘いだけに多くを期待をすることはできない。野党各党は、新ガイドラインについて「有事における日米協力の実効性を高める」(新進党)「わが国の安全確保を目的としている」(民主党)などと評価する立場にいる。いわんや連立与党を構成し、安保再定義を推進した社民党にその力はない。特措法が国民の反対を無視して、難なく国会を通過した通り、支配層には国会運営で多くの手が残されているのである。
 しかし、「改革」で内外の抵抗に直面し、今また新ガイドラインでアジアの反発に直面した橋本政府のかかえる困難は大きい。国民的闘争こそ彼らが最も恐れるものである。
 九月二十五日、本島等前長崎市長、映画監督の山田洋次氏、元総評議長の槙枝元文氏ら著名な十四氏が「新ガイドラインと関連法案に反対の声を上げよう」と共同のアピールを発表した。アピールでは「アメリカ軍がアジアに十万の兵力を維持し、アジアに軍事的なにらみをきかすのは、アメリカの国益が目的であり、……アジアに緊張や対立をもたらす危険があります。アメリカ軍の軍事行動を無条件に支援することは、アジアの平和と安定のためにも、日本を守るためにもなりません」と指摘し「日本の将来を危うくし、子どもや孫の世代にまで大きな不幸をもたらす新ガイドラインに抗議し、政府が関連法案の国会提出を中止するよう求めます」「各政党・国会議員のみなさんは、新ガイドラインの危険性を国民に明らかにし、関連法案を阻止してください。地方自治体は住民の平和な暮らしと民主的な諸権利を守るために、新ガイドラインと関連法案に反対の態度を明らかにしてください」と訴えている。
 まさに時宜を得た呼びかけである。
 米軍基地撤去を闘い続ける沖縄では、すでに抗議の行動が巻きおこった。沖縄平和運動センターは二十六日、全県で宣伝行動に立ち上がり、県民世論を大きく喚起した。親泊那覇市長は、「現在においても巨大な米軍基地の存在に苦しんでいる上に、ガイドラインの見直しで新たな重圧を強いられることにはとうてい納得できない」と強く抗議している。

 米軍による民間空港最多の利用回数を記録する、長崎県・長崎空港の地元大村市議会は十九日、「米軍使用反対」の請願を採択した。自民党を含む全会一致で、国と県に提出する「軍事利用・軍事基地化反対」の意見書も採択された。米軍の軍事利用が予定される港湾、空港などの周辺住民、自治体の反発は全国で強い。東京、大阪など各地で労働組合、市民団体による抗議の行動が取り組まれている。
 先進分子は直ちに街頭にたち、この危険な策動を広く暴露して訴えなければならない。関係港湾、空港を抱える地域では、行政に米軍への施設提供を拒否するよう求め、署名など行動を起こそう。自治体は、住民の平和と安全を守るため、戦争協力に反対の態度を明らかにすべきである。労組をはじめあらゆる団体が声をあげ、行動しよう。
 闘いはこれからが本番である。火の手を上げ、それを押し広げよう。この闘いはわが国の進路を問う国民的運動に発展するに違いない。


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