970925 解説


アジアに敵対する危険な道

ガイドライン見直しとは(中)


米の狙いはアジアでの覇権確立

 日米両政府は九月二十三日、日米外務・防衛閣僚による安全保障協議委員会(2プラス2)を行い、新しい「日米防衛協力の指針(ガイドライン)」を決定した。新ガイドラインは、旧来のものに比べ、「周辺事態」を打ち出すことで、アジア・太平洋で米軍に全面的に加担し、アジアと敵対することになる。今回は、ガイドライン見直しの背景である米国の対アジア戦略などについてみてみる。

●ガイドライン見直しは、そもそも昨年の日米安保共同宣言によって日米間で決定された

 首相と大統領は、日本と米国との間に既に構築されている緊密な協力関係を増進するため、一九七八年の『日米防衛協力のための指針』(ガイドライン)の見直しを開始することで意見が一致した。両首脳は、日本周辺地域において発生しうる事態で日本の平和と安全に重要な影響を与える場合における日米間の協力に関する研究をはじめ、日米間の政策調整を促進する必要につき意見が一致した。(日米安保共同宣言―二十一世紀に向けての同盟・一九九六年四月十七日)

 これは日本周辺地域で「日本の平和と安全が脅かされる事態」が起きれば、ただちに日米が共同して軍事行動を起こすことを意味している。
 それまでの安保条約でいう「極東」という範囲は「フィリピン以北で韓国、台湾を含む周辺地域」であった。しかし、「日本周辺地域は明確に境界を画せる性格ではないが、極東より広い概念」(村田直昭防衛事務次官)であるとその対象範囲が拡大されている。
 これで冷戦期の日本有事を想定したものにとどまらなくなった。したがって、日米安保の性格は根本的に変わったものとなった。そして不鮮明な日本周辺地域で、米軍がその勝手な判断で行動を起こせば、日本が後方支援に踏み切ることが決定されたのである。

●その米国のアジア政策はどのようになっているのか

 米国は現在、三つの目標を追求している。同盟関係の強化、対中国関与の強化、それに民主主義の拡大である。
 橋本首相と私は今春、両国関係の新たな安全保障合意に調印した。米軍事プレゼンスに対する日本の支援継続と、両国軍隊のより緊密な連携により、われわれはアジア・太平洋地域内外の平和と安定のための協力を強化することができた。(クリントン米大統領のオーストラリア議会での演説・一九九六年十一月二十日)

 米国の対アジア政策は、一言でいって十万米軍の駐留、同盟強化と関与政策である。日本、韓国、オーストラリアなどとは同盟関係をいっそう強化する。日米安保はその中核である。
 一方で、中国や朝鮮民主主義人民共和国、ベトナムなどについては、武力を背景にしながら積極関与によって、資本主義のルールに載せてしだいに取り込んでいこうという政策である。「民主主義の拡大」は、人権問題など、これまで中国やアジア諸国への干渉として行われたことはいうまでもない。

●米国のアジア政策の経済的背景は

 アジア・太平洋地域は現在、世界で経済的に最もダイナミックな地域であり、そのことだけからも、その地域の安全保障は米国の将来にとって死活的である。アジアの繁栄した安定は、米経済の健全性と世界の安全保障にとって死活的である。(東アジア・太平洋地域にたいする米国の安全保障戦略=東アジア戦略・米国防総省国際安全保障局・一九九五年二月)

 世界経済の成長センターとして急速に発展するアジア地域が米国の国家的利益にとって死活的意味をもっているという。すでに米国とアジア諸国との貿易総額は三千七百四十億ドル以上になり、米国の貿易総額の三分の一を超えている。つまり米国は、急成長するアジアでの経済的権益、国益をどんなことをしてでも守る必要がある。

●米国の主たる標的は中国にある

 中国の役割が重要だというのは、世界で最も古い歴史をもつ国家が、世界で最も力強い国家の一つとして台頭しているこの時代において、新たな秩序がアジア太平洋に形成されようとしているからだ。…中国が世界の大国の一つになりつつあるということである。中国はそのような方向で進んでおり、従って中国の国益と米国の国益が、時として一致し、時として摩擦を生じる事態は避けられないということになろう。米政府は、この根本的な事実を認識している。(ペリー国防長官・九五年十月三十日)

 中国がアジアで強大になることは、米国の国益と衝突するものととらえている。「台湾海峡の平和は、われわれの台湾政策の長期的な目標である」と公然と内政干渉の政策を打ち出している。さらに米国防総省の前日本部長のジム・アワーは「中国に対し、前向きな方向に向かう以外、選択肢がないと理解させるために、日米同盟を維持すべきだ」と、米国の狙いを露骨に発言している。

●こうした米国の戦略にわが国支配層は追随することを決定した

 われわれは、中国だけにメッセージを伝えようとしたのではなかった。米国は西太平洋の安全保障と安定をバイタルな国益と見なしていること、そしてそれを守る軍事力を有しており、必要とあらばそれを行使するということをこの地域のすべての国々にわかってもらいたかった。台湾海峡への米空母の派遣について・ペリー米国防長官・九六年四月十五日)

 安保共同宣言を準備するなかで、ガイドライン見直しに積極的だったのは日本ではなく、米国側であった。九五年十一月に発表が予定されていた安保共同宣言には、ガイドライン見直しが含まれていない。
 前記のペルー発言は九六年三月、中国の軍事演習に対して空母部隊を送り、圧力を加えた際の米国の狙いを語ったものである。米国はわが国を含めアジア諸国におどしをかけたのである。
 こうして橋本政権は、安保共同宣言で、ガイドライン見直しなどを約束した。

 まさに昨年の日米安保共同宣言からガイドライン見直しの流れは、米国が自己の世界戦略に沿ってアジア地域で覇権確立を目指していることをはっきり示している。そして、その主な標的は中国である。
 わが国が、米国の戦略に追随し、安保共同宣言・新ガイドラインによって、アジアとりわけ中国と敵対することは、わが国の繁栄や平和に役立つどころか、まったく逆に国益を損なうものである。新ガイドライン反対、日米安保破棄の国民世論と国民運動がまさに求められている。


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