安保再定義路線を転換し真の日中友好を

970915

橋本訪中が示したもの

安保再定義路線を転換し真の日中友好を

　橋本首相は、九月四日から七日まで就任後初めて中国を訪問し、江沢民国家主席、李鵬首相ら中国首脳と会談した。
　国交回復以来「最悪」といわれる両国関係の中で行われた首脳会談だが、予測どおり日米防衛協力のための指針（ガイドライン）見直しが最大の懸案として浮上した。橋本首相は、様々に言いつくろって、ガイドライン見直しを合理化しようと努めたが、中国側の理解は得られず、懸案は先送りされた。
　今回の訪中で示されたとおり、安保再定義とガイドライン見直しというわが国政府、支配層の危険な選択に対する、アジア諸国の反発は強い。　中国はじめアジア諸国との共生をめざし、国の進路の転換を求める国民的運動の発展が求められている。

先送りされた最大課題

　四日午後に行われた橋本首相と李鵬首相との首脳会談は、国交正常化二十五周年を機に、首脳の相互訪問を毎年実施することなど、友好交流の拡大の方向で合意した。
　しかし、ガイドラインの見直しに関連して李鵬首相は「日米安保条約が台湾を範囲に入れれば、中国人民は受け入れられない」と強調、「台湾は中国の内政問題である」と日本政府の対応を強くけん制し、「周辺事態（周辺有事）」の対象に台湾海峡を含むとした梶山静六官房長官の発言を厳しく批判した。これに対して橋本首相は(1)新指針は特定の地域を対象としない、(2)台湾は中国の一部分であるとの中国政府の立場を「十分理解し、尊重する」とした七二年の日中共同声明を堅持する、(3)中台間で武力紛争が発生するとは考えていない―などと弁明し理解を求めた。しかし李鵬首相は「（新ガイドラインが）まとまった段階の説明を聞いて判断する」と最終判断を留保した。　
　さらに五日に行われた江沢民国家主席との首脳会談でも、政治、経済、安全保障などの幅広い分野で二十一世紀に向けた新たな日中関係を構築すべきだとの認識で一致したものの、ガイドライン見直しについては「中国は日米安保条約に関心を持っている。なぜ敏感かは理解してもらえると思う」と江沢民主席が中国の原則的立場を強調。橋本首相の数々の弁明に対しても、江主席は「台湾は中国の国内問題だ」「台湾問題をめぐる首相の発言に注目している」と以降のわが国政府の対応に厳しくクギをさした。
　これらの会談の経過を受けて橋本首相は六日午前、北京市内のホテルで記者会見し、焦点のガイドライン見直し問題で「中国側に理解を深めてもらったが、了解されたわけではない。なお中国側に懸念が存在していると感じており、そうした懸念を払しょくする努力を続けていかなければならない」と述べざるをえなかった。
　国交回復二十五周年の節目の年に行われた首脳会談は、改めて両国間に横たわる課題の大きさを印象づけるものとなった。わが国が踏み込んだ安保再定義、日米防衛協力の指針見直しという道が、中国はじめアジア諸国に深刻な不信とぬぐい難い疑念を生んでいることを示すこととなったのである。

最悪の日中関係は誰がつくったか

　今回の首相訪中にあたり、わが国マスコミは、「一連の首脳会談を通じて正常化以来最悪といわれる両国関係の再構築を目指して努力してほしい」（日経、九月六日社説）などと一様に期待を表明した。確かに二十一世紀に向けた新たな日中関係の「再構築」はきわめて重要で、これは、両国国民の共通した願いでもある。
　しかし、ここで振り返らなければならないのは、国交回復以来「最悪の日中関係」は誰によって作り出されたのかということである。
　李鵬首相との会談で橋本首相は、歴史認識問題で、「痛切な反省の意を表し、心からのおわびの気持ちを表明する」とした九五年の村山前首相の談話を引用し「日本政府の立場の表明であり、私の認識でもある」と強調した。しかし、昨年夏、前回の中曽根首相（当時）の公式参拝以来、十一年ぶりにあえて靖国神社に参拝して、日中関係を著しく悪化させた張本人は橋本首相自身である。この首相の下で、一連の保守政治家による悪質な歴史認識発言が相次いだのであった。
　また、両国間で長期棚上げの合意のある尖閣諸島問題でも、政府は右翼団体の無法な挑発を黙認し、はては、現職国会議員の上陸を許すなどして、日中間にことを起こし、両国関係を悪化させようとする勢力の策動を容認し続けたのである。
　今回の首脳会談で中国側が取り上げた梶山官房長官の発言が、悪質な中国への内政干渉であることは自明である。しかもことは発言だけにとどまらない。事実としても、昨年三月の台湾海峡危機にさいして、首相官邸の指示の下でわが国自衛隊が、台湾海峡に派遣された米空母部隊への補給などの後方支援と、極秘の『中国対処』という軍事行動を研究したことが暴露されている。悪質な中国脅威論を流布し、中国敵視政策をとり続けたのは橋本政権自身である。
　「新時代の日中関係―対話と協力の新たな発展」（橋本首相の国家行政学院での講演）を誠実に実現しようとするならば、事実でそれを示さなければならない。問題なのは、どう発言したかではなく、どう行動したか、事実がどうかである。

安保再定義の道からの転換を

　九六年の日米安保の再定義で、わが国政府が踏み込んだ、アメリカのアジア戦略に従属し、中国をはじめとするアジア諸国に敵対する道が、わが国の一連の反中国の策動の根源であることは明白である。
　アメリカは、冷戦後の新たな世界戦略として策定した軍事計画「東アジア戦略報告」で、アジアでの自国の経済的権益を維持するために、この地域に十万の米軍事力を配備し続けることを表明した。このアメリカの戦略にとっての最大の仮想敵は急速に富強化する中国である。アメリカは台湾問題などで軍事的圧力を加えながら、一方で、中国を変質させ、「普通の国」として西側に取り込もうとする「積極的関与政策」を推進している。九六年十一月のクリントン米大統領のオーストラリア議会での演説は、アジア政策の要点を①日米安保を中心とする同盟関係の強化②対中国関与政策③民主主義の拡大（干渉）として、あけすけにその狙いを述べている。
　昨年の安保再定義は、この米戦略にそって日米安保を位置づけ直し、日本にこの戦略の片棒をかつがせようというものであった。
　わが国橋本政権は、この安保再定義の路線に積極的に踏み込むことを決断した。ガイドラインの見直しはその具体化の第一歩である。
　梶山発言は、まさにそのことの正直な表明であった。ガイドライン見直しでいう周辺事態の範囲に「中国を含め特定の国、地域を念頭においていない」などと言い、その場をつくろったところで、その反中国の本質をおおい隠すことはできない。

国民運動を強め真の日中友好を

　二十五年前の国交回復以来、日中両国の幅広い交流は急速に発展してきた。今や日本の対中直接投資は契約ベースで累積二百七十億ドルに達し、先頃中国に復帰した香港と合わせればその投資額は他を大きく引き離し、世界最大となっている。この相互交流の拡大は両国の国益と深く結び付いており、当然の流れである。二十一世紀のわが国の平和と繁栄にとってアジア、とりわけ急速に発展する中国との友好関係が決定的に重要であることは論を待たない。
　アメリカの危険な世界戦略につき従い、中国に敵対するわが国支配層の選択に、保守層の中からも深刻な懸念も生まれている。
　日中両国の真の友好関係の発展にとって、抜本的に問われているのはわが国の進路である。橋本政権が進める、安保再定義の道を根本的に転換してこそ、アジアとの真の共生が可能である。
　日中両国の友好関係の発展を、ぎまん的な支配層、橋本政権に任せることはできない。この重大課題を解決する真の力は国民運動の内にある。
　発展する隣国、中国との真の友好を実現し、アジアとの共生で、自主、平和な国の進路を実現するために、広範な国民的運動の発展をかち取らなければならない。