970905


アジア諸国に深刻な脅威

ガイドライン見直しの危険な狙いを打ち破ろう


 九月末に予定されている日米防衛協力のための指針(ガイドライン)の見直し、最終報告の発表に向けて、両政府間の交渉が最後の詰めを迎えている。とりわけ今回の見直しの焦点となる「周辺事態」への対応は、その地理的範囲をめぐって内外の議論が高まっている。

 わが国政府はガイドライン見直しは、「特定の国を想定したものではない」、「日本周辺事態は地理的概念ではない」などと、真のねらいをあいまいにして、国民をあざむこうとしてきたが、七月の訪中時の加藤幹事長発言や、これに反発する梶山官房長官の発言などで馬脚をあらわし、ガイドライン見直しが中国を仮想敵国にした日米軍事協力の体制づくりであることをみずから暴露することとなった。

 二十一世紀に、中国を始めアジア諸国との真の共生を実現し、日本の平和と安全、繁栄を願う国民各層の人びとは、広く連携してガイドライン見直しに反対し、これを阻止しなければならない。

アジアに敵対する安保再定義路線

 今日進められているガイドライン見直しは、昨年の日米首脳会談における安保再定義の具体化にほかならない。わが党が再三暴露してきた通り安保再定義路線は、米国に追随しアジアに敵対する最悪の選択である。

 一九九五年に発表された、米国の「東アジア戦略」報告は、「アジア・太平洋は、世界で経済的に最もダイナミックな地域であり、そのことだけからも、その地域の安全保障は米国の将来にとって死活的である」と、この地域での米国の国益を強調し、「朝鮮は潜在的危険の源泉」、「中国の長期的な目標は不明確」などとありもしない脅威をあおり、十万の米兵力を配置する根拠を合理化した。さらに、昨年四月の「日米安保共同宣言」では、冷戦終結後も「日米安保体制は、アジア太平洋地域の平和と安全に不可欠」と再確認し、条約の範囲を極東から日本周辺地域に広げ、米軍が日本周辺地域、つまり朝鮮や台湾海峡、さらに中東までの地域で軍事行動を起こせば、日本は自動的に米軍の後方支援に踏み込み、米国のための戦争に直ちに参戦することを約束させられたものなのである。ガイドラインを見直しはその具体化の第一歩である。

 わが国政府、橋本内閣は、米国のアジア戦略に従属しながら、アジアを敵視し、軍事大国として積極的にふるまう道を選択したのである。

 新ガイドラインで打ち出される日米軍事協力の具体化は、自衛隊のアジア・太平洋地域全域への出兵を可能とするものである。これが過去の戦争での痛苦な記憶をもつアジア諸国の反発を高めざるを得ないのはまったく当然のことである。発展するアジアに敵対する、この道がわが国の真の国益に反することは明白である。アジアの一員として政治的、経済的な役割を通して、この地域の平和で、自律的な発展に貢献してこそわが国の平和と繁栄は約束される。安保再定義、ガイドライン見直しの道は、これに真っ向から反するものである。

地理的範囲をめぐる悪質なギマン

 このような中で、自民党の加藤幹事長は七月に訪中し、中国側に「朝鮮民主主義人民共和国の動向が非常に心配だ。九〇%の国民は、ガイドラインという場合、北朝鮮のことを思っている」と述べ、ガイドラインの見直しが主に朝鮮民主主義人民共和国を想定したものだとの考えを示すことで、その地理的範囲に台湾海峡が入らないことをにおわした。

 一方、梶山官房長官は八月十七日、テレビ番組で、「私たちの頭の中の大部分を、朝鮮半島が占めていることは間違いないが、地域を限定するとほかは違うということになる」と、加藤幹事長の発言を批判した。そのうえで、「中国と台湾の紛争は当然入る」と述べ、台湾海峡が日本周辺に含まれるとの考えを明らかにした。

 さらに、「われわれは中国が台湾を武力解放することには、大変な懸念をもっている」と中国脅威論をあおり、公然たる内政干渉を行い、台湾海峡で「米軍が行動を行う時に、日本は『水もあげません。何もしません』と拒否できるのか。そうなると日米安保条約は有効に作動しなくなる」と述べ、台湾海峡の紛争に米軍が軍事介入すれば、日本はガイドラインに基づく米軍支援を行うということを明らかにしたのである。

 梶山官房長官の発言は、加藤幹事長がガイドライン見直しの焦点を北朝鮮に向けさせて、中国始めアジア諸国と日本国内の抵抗をおさえようとするのはけっこうだが、日本周辺事態に台湾海峡を含まないかのようにいえば、安保再定義でのアメリカとの確認を裏切り、日米関係を危うくすると反発したものである。

 米国が引き起こしている朝鮮半島の「危機」を口実にする点では、両者ともに共通し、許し難いペテンであるといわねばならないが、梶山発言は、よりストレートに支配層の狙いを表現しているということができる。

 池田外相は八月十九日の記者会見で、「極東の範囲(フィリピン以北で韓国、台湾を含む周辺地域というのが、六〇年安保での政府統一見解)はどこかで話していた」として、梶山発言について「これまでの政府の立場を踏まえている」と説明した。また、昨年三月には、中国の演習に対抗して米国が台湾海峡に太平洋艦隊を派遣した際に、首相官邸の指示を受けて、防衛庁は極秘に米中の衝突も想定して自衛隊による米軍への後方支援を検討している。

 梶山の発言こそ支配層の本音であり、安保再定義の本質である。ガイドライン見直しが台湾海峡や朝鮮半島の事態を想定したものであること、そこで米軍が行動を起こせば日本がその後方支援を行うことは、政府の内部では共通の認識なのである。

加藤発言の犯罪性

 しかしより悪質なのは加藤幹事長のペテン的発言である。加藤発言の犯罪性は、すでに反中国で自明のガイドライン見直しの目的を、中国の厳しい反発に「対応」し、台湾海峡を「地理的範囲から外す」などという表現上の操作でおおい隠し、当面を取りつくろい、乗り切ろうとするところにある。事実、加藤は訪中後直ちに訪米し、ガイドライン見直しにともなう有事法制の整備について、「若干のものについては必ずしも社民党が賛成するとはまだ言いきれない」と米国側に報告し、「台湾をどう取り扱うのか、橋本首相の訪中前に日米政府間でつめてもらう必要がある」などと要望しているのである。

 これらの発言は、あまりの露骨な反中国に対する国内の危機感や、動揺に対処したものである。これは、国際的には中国の反発をそらし、国内的には与党内に社民党を引き続き抱き込み、労働組合などがこの問題で騒ぎ立てないようにしようとする、支配層主流派の策略を代弁しているのである。

 ことは、周辺有事の範囲をどのように言うのかなどという、表現の問題ではない。どのように言っても梶山らがあからさまに言うように、すでに安保再定義の路線の下で中国敵視は、現実のものとして進んでいるのである。

高まるアジアの警戒感

 英字紙インターナショナル・ヘラルド・トリビューンは「マレーシアやインドネシア、タイなど数カ国は、日本の動きが必要以上に中国の神経を逆なでし、アジア太平洋地域の不安定要因になるのではないかと、懸念している」と報じている。
 ガイドライン見直しは、すでにアジアの国々とわが国の関係を悪化させ、この地域を不安定にする要因となっているのである。

 アジアの国々との良好な関係、とりわけ中国との友好関係をぬきにして、わが国の二十一世紀の安定も、平和もあり得ない。

 支配層、橋本政府の悪質なギマンを徹底的に暴露して、安保再定義で踏み込んだアジアと敵対する道を転換し、自主、平和な国の進路を確立するために奮闘しなければならない。

 今こそ、国民各層は広く連携し、ガイドライン見直し反対の国民運動を 大きく発展させなければならない。

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