970725


香港返還で強まる中国脅威論

人権、民主は内政干渉の口実


 七月一日午前零時、香港は中国に復帰した。香港の主権は完全に中国に戻り、中国は百五十年余にわたる民族的悲願であった香港回収を実現した。

 香港の中国への復帰は、中国にとって外国帝国主義による植民地支配と領土の分断という「百年余の恥辱をすすぐ」慶事であり、マカオ、台湾を射程にいれた「一国二制度」での祖国統一という、壮大な民族的事業にむけて大きな一歩を踏み出したことを意味する。

 これに対し、米国などの悪意と干渉の意図に満ちた攻撃も強まっている。また、わが国政府、各政党やマスコミも、この歴史的事件に対して様々な論評を発表した。しかし、ここで見過ごせないのは、返還後の香港をめぐって民主、人権などを口実とした、あからさまな内政干渉の動きが目立つことである。

 これを契機にして、中国脅威論を意図的にあおり、内政干渉を合理化する、悪意の宣伝が強められようとしている。この策動を暴露し、打ち破ることは、日中両国の友好を願い、二十一世紀に中国を始めとするアジア諸国との平和と共生の関係を構築しようと願う者にとって、きわめて重要な課題である。

誰のための民主、人権か

 イギリスによる香港強奪と植民地支配の歴史は、一八四二年八月、第き起こしたイギリスが「南京条約」で当時の清朝政府に香港島の「割譲」を認めさせたことに始まる。ついで、イギリスは、一八六〇年、第二次アヘン戦争後の「北京条約」で九竜半島南端の土地を「割譲」。さらに、一八九九年には清朝政府に「香港界域拡大専門

条約」の調印を迫り、界限街以北、深 河以南の広大な中国領土およびその付近の二百三十五の島々(いわゆる「新界」)を期限九十九年で「租借」させることに成功する。恥知らずな帝国主義の植民地強奪の手法であるが、これ以降のイギリスの香港統治もまた典型的な植民地支配であった。

 植民地香港は、イギリス女王の任命する香港総督によって支配され、立法、行政、司法などの権限もこの総督が独占した。一切の政党が禁止され、香港立法局も、総督の諮問機構に過ぎず、その議員も総督に委任される存在であった。司法制度でも香港は最高裁をもたず、終審権はロンドンの機密院司法委員会にあった。政党活動や、立法局議員選挙の実施などいくらかの民主的措置がイギリスによって取られたのは、返還合意以降のことに過ぎない。

 植民地支配は、香港民衆から政治的民主主義も人権も完全に奪い去ったのである。

 また、経済面でもイギリスは香港を徹底的に収奪した。初期のアヘン貿易、あるいはクーリー貿易という名の奴隷(どれい)売買などイギリスがどれほど無慈悲に香港をしゃぶり尽くしたか、その例は枚挙にいとまがない。二次大戦後、イギリスが与えた自由が香港経済発展の条件を作ったなどといわれるが、その「自由放任政策」は宗主国が収奪する自

由を保障することにすぎず、現地住民の利益や福祉は、放任主義でまるで顧みられなかった。最近でも、金融、株などの無形貿易でのイギリスの黒字は毎年二、三億ポンドにのぼっていた。現在でも香港の金融・不動産資産の三分の一はイギリス系資本によって牛耳られているのである。繁栄する香港の、自由の実態はこのようなものである。

 自由や民主、人権などというが、それは植民地支配者にとってのものにすぎなかったことを知るべきである。支配され民族主権を奪われた香港民衆を含む全中国人民にとって、どのような意味でも植民地香港には、自由も民主も存在しなかったのである。香港の祖国復帰、主権確立こそ、中国にとって真の自由や民主の出発点となるものである。

 旧支配国のイギリスや、その後ろだてとなってきた米国に、人権や民主を語る資格などまったくない。また、わが国も太平洋戦争期間の一九四一年から四五年まで香港を占領し、軍政をしいて支配したという事実を忘れてはならない。残忍な日本帝国主義の暴行、略奪のもとで、香港住民は塗炭の苦しみを負った。わが国政府が、中国に対して民主、人権などを押しつける資格がないこともまた明らかである。

中国関与政策で強まる米国の干渉

 一九四九年の中華人民共和国建国以来、香港が帝国主義の反社会主義、反中国の干渉工剛を果たしてきたである。英国情報機関は香港島南端に政府通信本部(GCHQ)という電波傍受基地を設け、一貫して中国へのスパイ活動を続けてきた。最近米国が騒ぎ立てた、パキスタンやイランへの中国のミサイル・核技術輸出疑惑なるものは、香港税関からパッテン総督を通じ米中央情報局(CIA)に伝えられた秘密報告を根拠としてでっち上げられたものである。

 香港返還で、帝国主義はこの干渉の道具を失うこととなった。イギリスは、米国と密接に連携しながら返還合意以降も、帝国主義の干渉の芽を香港に残すことを画策した。返還合意後、イギリスが民主改革なるものを急いだのは、このためである。

 長い香港支配の歴史の中で、圧政を続けてきた帝国主義者が手のひらを返すようにして「民主の足取りを早める」(パッテン総督)などと叫び立てるねらいは明らかではないか。帝国主義者にとって民主は干渉の口実である。

 イギリスが去った後、米国は香港問題の当事者になったかのごとく振舞おうとしている。先頃のサミットでも、米国は香港問題を取り上げ、立法会選挙の早期実施などを中国に迫った。また、香港民主党党首と会談したクリントンは「中国が中英合意の内容を守らなければ、なんらかの対抗措置をとる」とまで明言した。返還以降の香港の問題が、中国の内政問題であることは明白である。中英共同宣言が国際条約というなら、当事国は中国とイギリスであり、米国が発言するなんの根拠もない。

 オルブライト国務長官は「香港を訪問するのは、返還を承認するためではない。中国に関与していくためだ」(デンバー・サミットでの発言)とその意図を公言している。米国は、その東アジア戦略計画で示しているように、アジアでの自国の支配力を確保するため、最大の仮想敵中国に対し、長期にその政権の変質、瓦解をねらって「関与政策」を貫徹しようとしているのである。香港問題はその重要な駒につかわれているのである。

 わが国政府もまた、米国の東アジア戦略に深く組み込まれ、安保再定義と日米軍事協力の指針(ガイドライン)見直しで、中国敵視を強め、内政干渉の先棒を担ごうとしている。尖閣諸島問題など昨年来の最悪といわれる日中関係は、この流れの中で意識的に作り出されてきたものである。

 久間防衛庁長官は、最近の講演で中国の軍事力をにらみながら防衛力整備をはからなければならないと発言した。中国脅威論をあおりたてガイドライン見直しの具体化を急ごうとしているのである。

許し難い日本共産党の反中国策動

 このような敵の画策の中で、許し難いのは日本共産党の主張である。彼らは機関紙「赤旗」で、「中国への香港返還が当然だということと、中国の現在の政治・経済制度を香港にそのまま適用することの是非とは、自ずから別個の問題」(党国際委員会責任者談話)などと、帝国主義者ばりの内政干渉の言いがかりをつけ、「香港住民の基本的人権と政治的民主主義を制限する動きが、返還を前に強まってきた」(七月一日、赤旗主張)などと中国への攻撃を強めている。彼らの「植民地からの解放・民族の自決とともに、基本的人権の尊重・民主主義の拡大は、二十世紀の歴史の重要な内容をなしている」(同)という主張は米国とわが国政府の人権、民主を口実とする内政干渉を容認、奨励するもの以外の何物でもない。

 この党の、悪質な反中国の主張を徹底的に打ち破らなければならない。

 米国に追随し、中国脅威論をあおり立て内政干渉の先棒を担ぐことが、発展する中国、アジア諸国に敵対し、二十一世紀のわが国の国益を根本的に害することは明らかである。

 今こそ反中国の、悪質な内政干渉に反対し、日中両国の強固な友好をかち取るための、国民的な戦線を強めなければならない。


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