970715


都議選結果は何を示したか


 来年夏の参院選の前哨戦として位置づけられ、各党が国政選挙並みの体制をとって争った東京都議会議員選挙が、七月六日、投開票された。橋本政権によって、わが国多国籍企業が「大競争時代」に勝ち残るための内外政治が本格化し、都政にも、都民各層の営業と生活にも新たな犠牲が押しつけられているさなかでの選挙戦で、首都東京での選択が注目された。

 選挙の結果は、「自民復調、共産躍進」などといわれているが、有権者の過半数を大きく上回る人びとが棄権という形で政治への怒りと選挙そのものへの疑問を表明した。この選挙結果を分析し、適切に読みとって認識面を整とんすることは、いよいよ本格化する支配層、橋本政権の内外政治と闘い、うち破っていく上で、きわめて重要である。

 選挙結果のもっとも際だった特徴は、なんといっても史上最低の四〇・八%という投票率である。

 過去最低だった前回(九三年)の五一・四%をさらに一〇ポイント以上も下回り、これまでの都道府県議会選挙でも全国最低を記録した。九五年の統一地方選挙、参議院選挙(五五・五%)、九六年の総選挙(四〇・四%)と、選挙のたびに増幅してきた棄権票は、今回ついに六割寸前に至った。これをどう見るか、これこそ都議選評価の決定的ポイントである。

 なぜ、歴史的といわれるほど多くの有権者が棄権という選択をしたか。

 産業の空洞化、商店街の没落、企業倒産、消費税五%アップの加重負担、医療・福祉の切り捨て、失業の増大など、八五年プラザ合意以降、「国際化」という名の下に押し進めてきた歴代政権による「改革」政治、その下での都政によって、都民各層の営業と生活はかつてない危機にさらされてきた。政治へ活路を求める思いは本来切実なものがあったはずである。

 にもかかわらず、約九百三十九万人の全有権者のうち、約五百五十六万人もの人びとが投票所に足を運ばなかった。

 NHKの世論調査によれば、「なぜ投票に行かなかったか」の理由をたずねたところ、最も多かったのが「時間がない」で三八%、ついで「投票したい候補者がいない」一六%、「人柄、政策が分からない」一二%、「誰がやっても政治が変わらない」一〇%の順であった。「無関心」と答えたのはわずか九%にすぎない。

 これらから読みとれることは、どれほど意識的か無意識的かは別にして「この種の選挙で政治は変わらない」という疑問が大衆の中に広がっているということである。ここ数カ年、「政治改革」と称してくりひろげられてきた連立政権、相次ぐ新党結成と離合集散劇を経て、大衆の意識状況は急速に変化してきている。選挙制度への疑問が広がり、大衆の議会選挙への幻想がなくなることは、支配層にとってまことにゆゆしき事態だが、われわれにとって悪いことではない。

 今回の都議選では、こうした変化が六割にのぼる棄権という形で衝撃的に表れた。われわれはここに注目している。

 選挙の結果つくられた各党の消長は、こうした議会選挙そのものに疑問を感じはじめた六割もの有権者がいることを前提にして評価されるべきである。「自民復調」とか、「共産躍進」とかいうが、しょせん四割の中の勝ち負けにすぎず、有権者の多数派から厳しい批判を受けたのである。

 議席数でみると、自民五十四議席(前回より十議席増)、共産二十六議席(同十三増)、公明二十四議席(同一減)、民主十二議席(現有議席より一減)、社民一議席(同三減)となった。新進は議席をなくした(同四減)。

 自民が議席を回復し、共産が議席を倍増させて第二党になった。他方、新党の旗を掲げた民主が不振、自民党との政権交代が可能な政党をめざしてきた新進が首都で議席を失った。

 こうした選挙結果を受け、自民党の加藤幹事長は「政治的感度の高い東京での復調は自信になる」と胸を張り、マスコミも「自民復調」を印象づけようとしている。

 議席面での一定の回復は事実だが、それは自民党支持の「復調」を意味しない。得票数では前回よりも二十八万票も減らし、絶対得票率でも三・四ポイント減っている! 昨年の総選挙と比較しても、絶対得票率で四・三ポイント減らしている。そもそもこれまで七十人以上立てていた候補者を、共倒れを防ぐために、過半数以下に絞らざるを得なかった。それに国会議員を動員した業界の徹底的な締め付けなど必死の選挙戦術で、かろうじてせり勝ったにすぎない。自民の中にさえ「敵がだらしなかったから」という意見が出ている。

 六割の棄権票は、なによりも自民党政治へ向けられた怒りである。それに今回は共産党に集まった批判票を合わせるなら、有権者全体の自民党政治への批判は広がっているのである。「自民復調」は、ためにする強弁である。

 共産党は「躍進」した。「オール与党批判」で、自民党政治への批判票(前々回は社会党に流れ、前回は日本新党に集まった)をいくらか取り込めたからである。不破は「東京と日本の政治の建て直しの大きな第一歩を踏み出した」などと自画自賛しているが、共産党もまた有権者の六割をしめる棄権した人びとの批判を受けたという事実に変わりがない。有権者多数の批判を厳しゅくに受け止めるべきである。

 新党ブームを夢見た民主党は、まったく不振であった。諫早湾のムツゴロウ問題などマスコミ受けをねらったパフォーマンス、与党か野党か分からないあいまいな政治姿勢、こうした中間政党のだ落に、有権者は厳しい審判を下した。

 総括的にいって都議選の結果は、財界・支配層にとって、昨年の総選挙の結果以上に政治の不安定さを深刻に感じさせるものとなった。

 財界が国際競争に勝ち残るために必要とし、ここ数カ年画策してきた「安定した政治の仕組み」、二大保守政党制への移行は、大きく狂った。九三年夏、自民党を割り、社会党をつぶし、昨年の総選挙に小選挙区制を導入するところまではこぎつけた。だが、自民、新進の保守二党だけでは大衆の不満を吸収できず、「安全な受け皿」として民主をつくらざるをえなかった。それでも、共産党の進出は阻めなかった。今回の東京での新進のざん敗、民主の不振は、都市の富裕層、労働運動の上層を新たな政治的同盟者として獲得しようとしてきた財界にとって、戦略の全面的見直しを迫られる事態となった。

 それに、大衆の中に「選挙で世の中は変わらない」という議会政治への疑問、不信が大きく広がっている。危機の深まりを背景に、「代議制民主主義」の枠をはみ出し始めた大衆の政治意識の発展、これこそ支配層がどんな議会政党の進出にもまして恐れるところであろう。

 この状況は大局的にみて、闘おうとする者にとって確信の持てる情勢である。

 「国政の先行指標」としての都議選の結果は、各党の参議院選挙対策のみならず、政党の相互関係、政治再編にも影響を及ぼさずにはおかない。

 議会政党は早くも来年の夏の参院選に照準を合わせて、準備を始めた。

 自民党は「復調」を大宣伝しながら、新進党を切り崩し衆議院での単独過半数を固めつつ、参議院での単独過半数獲得に向け候補者擁立作業を急いでいる。

 敗北した新進、民主の各党は、戦略練り直しを迫られている。

 惨敗した社民党も、参院選へ向け与党離脱を含め独自性を強めようとしている。

 選挙の結果、政党の相互関係の中で比重を高めた共産党は、「無党派層の獲得」に的を定めて現実路線をさらに推進しようとしている。

 政局は新たな局面を迎える。橋本政権は、中国敵視の日米防衛協力指針(ガイドライン)の見直しや、規制緩和の徹底、「行政改革」、数値目標を含めた財政再建法など「改革」政治に本格的に踏み込む。国民各層に対する攻撃は、いよいよこれからである。かつての保守基盤を形成していた建設業界など各種業界、官僚も含め、新たな犠牲が容しゃなく押しつけられる。貧富の格差が激しくなり、国民各層の間でさまざまな抵抗が起こってくるのは避けられない。

 こうした情勢にどう対処すべきか。

 国民大多数の死活がかかった重大な情勢を前になにがしかの役割を果たしたいと願う者が、なに一つ連携もなく、バラバラでは力にならない。だからこそわが党は、広く団結して闘うことを呼びかけてきた。わが党が「自主・平和・民主のための広範な国民連合」の活動とその発展を支持する理由もこの点にある。

 われわれはこの局面であらためて、社民党、新社会党など議会政党を含め、わが国の自主的で平和な進路の実現と、国民大多数の生活と営業を守るために、闘おうとするすべての党、派、個人に対し、広く団結して闘うことを呼びかける。

 特に労働運動の果たすべき役割は重要である。数十年間も経験してきたように、労働運動が議会の道に従属し、ある種の「政治主義」におちいり、はては与党にあれこれの期待を寄せるようなみじめな事態を打ち破らなければならない。肝心なことは団結した闘いである。ヨーロッパのように労働者の最大の武器、ストライキに頼って悪政と闘う道へ復帰するよう努力しなければならない。ストライキで闘い、他の社会層と積極的に連携して闘おう。

 また、当面小選挙区制度下での国政選挙では、闘おうとする勢力が何らの連携もなくバラバラでは、支配層のしかけた障害を突破して効果的に前進することは困難である。したがってわれわれは、当面する参議院選挙を含む国政選挙でも広く話し合う用意がある。

 今回の都議選で、共産党は議席の上で「躍進」した。しかし、共産党の議席の前進でこんにちの悪政を打ち破れると期待するのは、全くの幻想である。これは、理論上も、内外の歴史的経験でも明白なことである。共産党が自党の前進の先に国政転換の展望があると主張するのは、この党なりの打算であろう。しかし、こんにちの選挙制度の下でどうやって多数派を形成しようというのか。その展望のなさは、かれら自身が一番よく知るところであろう。したがって、わが党はこの犯罪的な見解をばくろするため引き続き闘う。国民の闘いこそ、事態打開のカギであると主張する。

 支配層にとって国際環境は決して楽観できるものではない。支配層の側に余裕はなく、「改革」政治はまさにこれからで、かつて保守の基盤であった人びとも含めて闘わざるを得ない情勢である。闘う側が認識を整とんし、広範に団結・連合を進めて巨大な勢力になれば、彼我の力関係の逆転は可能である。敵の「改革」攻撃をうち破って政治の流れを大きく変え、勝利することはまったく可能である。


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