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黒字削減、規制緩和が新たな対外公約に

サミットで陥った支配層の迷路


 六月二十日から米国のデンバーで開催された第二十三回サミット(主要国首脳会議)は、今回から日米欧先進七カ国にロシアを正式に加え八カ国首脳による会議となった。

 サミットは七カ国による「世界経済・金融課題への取り組み」(G7声明)とロシアも含む参加八カ国による共同宣言を採択、六月二十二日閉幕した。

 今回のサミットの特色は、ロシアが正式参加国となったことで、これは、冷戦時に西側先進国の矛盾の調整と対ソでの結束維持を目的とした従来のサミット(先進国首脳会議)の性格が、大きく変質したことを意味している。冷戦後の新たな国際社会の中で、強大な軍事力と、比較的優位な経済力を背景に、自国中心の国際秩序をつくろうとする米国の政治的意図と画策が、今回のサミットの際だった特徴となった。

深まる米欧先進国間の矛盾

 サミットでは、今日、各国が直面する失業問題や財政赤字、世界的な金融不安など深刻な経済問題への対処が大きな課題とされた。しかし、G7声明は何一つ有効な処方せんを示すことがでず、「『経済』を軽視したサミットの怠慢」(日経新聞・六月二十三日社説)と、マスコミも批判するしまつであった。

 経済討議でクリントン米大統領は、「国際化」と「市場経済」を旗印に、「米国は成功のモデル」と得意満面で自慢し「われわれはほかの国よりも速く、かつ力強く経済のグローバル化に対応できた。世界中のすべての国がわれわれと同じ選択を迫られている」とサミット参加国に自由化、規制緩和などの構造改革を迫った。これは米国の多国籍化した大企業のために、有利な市場、投資環境を世界的に拡大、整備することをねらったものである。また、人口高齢化へ対応するなどとして、大幅な社会保障切り捨ての構造改革を、各国に求めるものでもあった。

 仏独などは、この米国流の改革の押しつけに強く反発した。シラク仏大統領は「市場原理一辺倒で貧富の差拡大を放置する米国は、モデルにならない」と反論。コール独首相も、「民間にゆだねる部分と福祉など政府の役割を残す部分のバランスを重視して、市場だけでなく社会の一体感を重視する『社会的市場経済』の構築をめざす」と宣言した。

 仏独らの反発の背景には、EU通貨統合へ向けた国民犠牲の改革政策の下ですすむ、各国の労働者階級など国民各層の反抗の高まりがある。事実、市場重視で規制緩和と福祉切り捨て政策の先頭を走ってきた英国、さらにEU統合の推進役を果たしてきた仏と総選挙でたて続けに政権与党の敗北が続いている。「社会の一体感」を強調しなければならない根拠が、各国の内側にあるのである。

 一方、二酸化炭素など温室効果ガスの排出規制についても対立は激化。取り組みの進む欧州が二〇一〇年を目標とし、一九九〇年比で一五%削減を強く要求したのに対し、米国は自国産業界の意向から、激しく抵抗、日本も同調して今秋の京都での「気候変動に関する国連枠組み条約会議」まで目標決定を先送りすることとなった。

 二十一世紀の世界経済における大競争時代の生き残りをかけ、列強間の利害対立と競争の激化は深刻で、今回のサミットでも、それは、改めて証明されることとなった。

香港問題で中国へ内政干渉

 二十二日に公表されたG8宣言では、「市場経済」とあわせ「民主主義と人権」がサミットの新たな旗印として強調された。米国がこれを積極的に提唱したが、米国の世界支配にとっての戦略的仮想敵とされる中国に向けられたけん制であることは明らかである。中国を孤立化させつつ、積極的関与政策で西側への取り込みをはかろうとする米国の意図が露骨に示されたものといえる。

 記者会見で、中国のサミット参加問題について聞かれたクリントン米大統領は、「サミットは市場原理に基づいた民主主義国のものだ。だから民主的に選ばれた指導者を持っていない国」は参加できないと、中国異質論を展開した。さらに「日米は中国を世界の経済機構に取り込み、平和と安定のため、確固としたパートナーシップを築くために一緒にやっていくことができる」と述べ、積極的関与政策への日本の協力の重要性を強調した。

 また、二十二日の首脳会議では、香港返還が大きなテーマとなった。共同宣言には、一九八四年の中英共同宣言と中国の香港基本法にもとづく香港返還後の「高度な自治確保」と新たな立法府構成のための選挙が早期に行われることを期待する、などが盛り込まれた。中国はすでに「一国二制度」での香港の統一政策を明らかにしており、来年五月の立法会選挙の実施も予定されている。香港問題は中国の内政問題であり、ことさらにこれをサミット宣言で取り上げ、「真剣に留意する」などと脅迫めいたせりふで介入することは明白な内政干渉である。米国はこの問題で、英にかわって中国へ圧力をかけつづけることを表明した。オルブライト米国務長官などは、「人権問題で米国のメッセージを伝える」などと語り、香港返還に際しても、臨時立法会の宣誓式典をボイコットするなど、露骨な干渉を続けている。

 中国は、「各国は内政に干渉すべきではない」と、今回のサミットで「香港特別行政区の自治」が議論されることへの懸念を表明している。サミット参加についても「発展途上国を唱える中国は、誘われても参加することはできない」「少数の大国が討論して世界をリードするようなことを望まない」と自国の立場を表明している。

 橋本首相は、中国やアジア諸国への独自な影響力を強調し「柔軟な関与」政策などという立場で、米国の戦略に追随し、内政干渉に加担する態度を示した。しかしどのような言葉でいっても、国家の統一という民族的大事業に取り組む中国に、敵対、介入する道がわが国の真の国益につながらないことは明らかである。発展する中国をはじめとするアジア諸国との共生こそ、わが国外交の取るべき道である。今回のサミットは、わが国外交の幅を、また一つ狭めるものとなった。

新たな対米公約で規制緩和加速

 G7共同声明では、九三年の東京サミット以来四年ぶりに国別の優先すべき政策を明示したが、日本については「内需主導型の力強い成長を達成するとともに対外黒字の大幅な増加を回避する」として「広範な規制緩和」と構造改革の実行が明記された。これを受けてルービン米財務長官は声明発表後の会見で「黒字が再拡大せずに目標が達成できればわれわれも満足だが、達成できなければ、日本がどのように目標を達成するのか迫ることになる」とさっそくおどしをかけた。

 また、サミットに先立つ日米首脳会談でも、橋本首相は、規制緩和による貿易黒字削減を公約した。首脳会談では、電気通信、医療機器・医薬品、建設・住宅、金融サービスの個別四分野と流通や行政透明性など五つの構造問題について日米間で協議をはじめることでも合意、七月にも専門家会議を開き、一年以内に結論をまとめ、規制緩和で具体的な成果をあげることを約束させられたわけである。

 超緊縮財政下での内需拡大、対外黒字削減は、支配層にとって至難の技である。規制緩和など、あげて国民犠牲の押しつけを強める以外に抜け道はない。これは広範な国民の反抗を呼び、関連業界など支配層の一部を含めて深刻な抵抗に直面せざるを得ない。橋本政権は一層困難な局面にたたされることとなった。

 二十三日、橋本首相が米コロンビア大学での講演で「何回か日本政府が持っている米財務省証券を大幅に売りたいとの誘惑にかられたことがある」と発言し、米株価の暴落を招き物議をかもしたが、これは、改革と黒字削減という抜け道のない対米公約への、せめてものうらみを示したものであろう。

 対外黒字削減は、国民生活を豊かにする真の内需拡大策による以外にない。世界で荒稼ぎする多国籍大企業のためのわが国政治を、根本的に転換する以外、それは実現できるものではない。今回のサミットを通し橋本政権が直面した課題、その危機はきわめて深刻である。

 改革政策はいよいよ本格化する。改革が誰のためのものかを広く暴露し、その一つひとつに反対する世論と行動を組織し、広範な国民運動に発展させ、窮地の橋本政権をさらに追いつめよう。


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