970615


国民犠牲押しつけの財政構造改革

国民的闘いで改革政策をざ折させよう


 政府と自民、社民、さきがけ三党の「財政構造改革会議」(議長・橋本首相)は六月三日、各歳出分野の削減幅の数値目標を盛り込んだ最終報告「財政構造改革の推進方策」を決定した。報告は、この三月、橋本首相が財政構造改革会議で示したとおり、財政赤字を二〇〇三年度までに対国内総生産(GDP)比三%以内とするという財政健全化目標の達成に向け、九八年度から二〇〇〇年度までを集中改革期間とし、歳出の三年連続伸び率マイナスをめざし、歳出の思い切った抑制を求めている。当面、来年度予算は対前年度比マイナス二千億円程度を目標に編成することとし、一般歳出の規模は四十三兆六千億円前後となる見通しである。

 政府は三日夕、臨時閣議を開き、この報告を政府方針として正式決定した。今後、九八年度予算編成に向けて新たな概算要求基準を作成、また、この報告にもとづいて「財政再建法案」の骨格を今国会会期末までに策定し、秋の臨時国会に提出する予定となっている。

 国民に耐えがたい負担増を押しつける財政構造改革が具体化されようとしている。

国民に犠牲押しつけ―大企業優遇の財政改革

 今回の「方策」の具体的内容を見れば、国民生活分野に直結する財政は「聖域なく」切り捨て、一方で、大企業とアメリカの要求や利害にはあつい配慮を施した、最悪の国民犠牲の「改革」の実態が浮かび上がってくる。

 例えば、最後まで調整の続いた防衛費(九七年度当初予算約四兆九千五百億円)は、中期防衛力整備計画(九六〜二〇〇〇年度、総額二十五兆千五百億円)を当初予定より一年前倒しして見直し、九千二百億円を削減するとなった。これで防衛費を九八年度から三年間伸び率ゼロとした額にほぼ相当するという。

 しかし、今回の中期防自身が、前回中期防より三兆円も増額した大軍拡計画である。しかも、沖縄の米軍基地のたらい回しと機能強化をめざす「沖縄施設・区域特別行動委員会」(SACO)関連事業経費は防衛費とは別枠とされた。普天間基地の代替基地建設だけで一兆円と予測されている。これらを加えれば、軍事費は、マイナスどころか実質増である。

 公共事業関係では、六百三十兆円の公共投資基本計画の総額には手をつけず、三年間の延長で単年度の支出を削減したとしている。しかも、集中改革期間中の公共事業予算の配分は、経済構造改革関連の社会資本(高規格幹線道路、拠点空港、中枢・中核港湾、市街地整備など)について、「物流の効率化対策に資するものを中心として優先的、重点的に整備する」と大手建設資本と大企業の利益への配慮が施されている。さらに、住民に身近な生活関連の社会資本の整備のための公共事業は「国と地方の適切な役割分担」ということで、国の補助対象の削減をあげ、地方自治体に財政負担を押しつけようとしているのである。こうすれば必然、地方の中小建設業者は大きな打撃を受けることとなる。

 一方で、国民生活分野では、高齢化社会の到来などにより、当然増える医療や年金など社会保障関係費の歳出増は、来年度で八千億円が見込まれているが、そのうち五千億円もの大幅削減が明記された。また、集中改革期間に、医療分野では医療保険改悪による二兆円の国民負担増にとどまらず、薬価基準の廃止や診療報酬の定額払いの導入などいっそうの負担増、保険給付の削減もめざしている。年金はさらなる給付水準の引き下げ・支給開始年齢の延長がもられ、雇用保険制度も高年齢求職者給付の廃止や「自己責任原則」をかかげた制度見直し、切り捨てを進めるとしている。教育予算でも、国立大学の民営化や授業料引き上げ、私学助成カットがあげられ、中小企業対策費の削減、農業分野でも米価などの引き下げ、補助金切り捨てが打ち出されている。

 国民各層、とりわけ社会的弱者に対する、まさに無慈悲で限りない負担の押しつけである。戦後、社会的矛盾を緩和したり、弱者がたたかいとってきた既得権でもあった社会保障や様々な補助金などを「財政再建」の名で大幅に削り取ろうとするのが「財政構造改革」の真の姿である。

財政構造改革の真のねらい

 橋本首相は、「財政危機」を騒ぎ立て、「国民生活が破たんする」とおどし、「豊かな福祉社会」「活力ある経済」のために「聖域なく縮減」しなければならないと、国民犠牲を合理化しようとしている。

 しかし、「改革」の真のねらいは別の所にある。財政改革会議のメンバーで長老格の中曽根元首相は、財政構造改革を急がねばならない理由を「外国との競争に負けないため」(中央公論六月号)とあけすけに語っている。中曽根は、アメリカやEU、カナダが増税や補助金切り捨てを断行し、競って改革を進めているとして「日本がここで改革をやらないと国際競争で大きく遅れをとってしまう」と、多国籍化した大企業の危機感をそのまま率直に代弁している。

 今日の「改革」は、冷戦後の大競争時代といわれるような国際競争に勝ち抜くために、国内でのコスト(これは直接の税や保険料などの企業負担というだけでなく、大量の国債発行がもたらす長期金利の上昇にともなう金利コスト増、また高齢社会での労働コスト増などを含む)を最小限に抑えたいという多国籍化した大企業の「小さな政府」の要求に応えるためのものである。また、政府の借金を減らして身軽になることで、「改革」政策の推進の中で予想される様々な社会的危機の深まりに対し、財政面での対処能力をつけておこうとするものでもある。いずれにせよ徹頭徹尾大企業のための「改革」で、「財政危機」の宣伝はこれを合理化するものである。

 財政構造改革といっても国際競争で勝ち残ろうとする支配層、多国籍大企業のための国内再編策で、勤労国民にとっては苦痛以外の何物でもない。今までも財政は様々に大企業の発展に奉仕し、勤労国民にはあるかないかの最低の社会保障があっただけである。「改革」はこれすら大幅に削り取ろうというのである。

 わが国の経済が直面している危機は、わが党が繰り返し指摘してきたように、経済大国へと成長した戦後の米国従属、大企業中心の輸出主導型の経済、社会システムの全体的な行き詰まりにある。したがって、日本の活路は、これまでの経済のあり方を根本的に転換する以外にはなく、輸出主導・大企業優先の経済から国民大多数の利益を重視し、国民生活を豊かにする経済政策への転換が求められている。財政再建も、大企業の富を国民に分配し、消費税を撤廃し、勤労国民の税負担を軽減し、国民活を豊かにする真の内需拡大策の下で初めて、その方途が開かれるのである。

 「危機」の宣伝に惑わされることはない。犠牲を押しつけられる国民は「改革」を挫折させねばならない。それこそ国民多数のための財政を実現する歴史的好機となるに違いない。

危機深める支配層

 財界は、一様に最終報告を評価し、あわせて「画餅(がべい)にならないよう確実な実施を望む」(根本二郎日経連会長)とその確実な実行を迫っている。マスコミも、橋本の政治主導を評価し「族議員批判」の形で農業、公共事業分野などでの、いっそうの構造改革を叫び立てている。

 見てとるべきなのは、その「批判」の中にこそ、敵にとっての「改革」政策の難しさ、それゆえの様々な術策があることである。

 例えば、公共事業の切り捨ては、長く保守支配の基盤となってきた、地方の建設業者に深刻な経営の危機を押しつけている。やむにやまれぬ不満と反抗が各所で高まらざるを得ない。「改革」政策は支配層自身の中に、深刻な対立をうみ、政治支配の不安定化を生み出しているのである。まさに支配層、橋本政権は薄氷を踏んでいるのである。「改革」政策は、国民への攻撃に違いないが、支配層と根本的に闘おうとするものにとって、歴史的な好機でもある。

 労働者階級は、「改革」で切り捨てられ、闘おうとする諸階層、各業界などと積極的に連携を求め、改革に反対する統一行動の発展のために奮闘しなければならない。

 国民犠牲の「財政構造改革」を打ち破る真の力は、国民各層を結集した広範な大衆行動の中にこそある。


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