970605


すすむ日米防衛協力の指針の見直し

安保再定義路線はアジアの脅威


 日米両国政府が進めている「日米防衛協力のための指針(ガイドライン)」の見直し作業の第二次経過報告書の原案が五月二十二日、明かとなった。これは、六月七日にハワイで開かれる日米防衛協力小委員会で最終確認した後、「中間報告」として発表される予定となっている。

 原案では、朝鮮半島や台湾海峡有事を想定して、米軍に対する自衛隊の広範な「後方支援」がもられ、また「日本有事」では、日本への武力攻撃開始前の段階で、日米両国が情報交換や作戦準備で密接な協力を行うことなどが方針として打ち出されている。

 「中間報告」原案からは、安保再定義の具体化と位置づけられた、ガイドライン見直しの危険な方向、その全体像が明かとなってきた。

軍事協力の飛躍的強化ねらう新指針

 原案によれば、焦点となっている「日本周辺有事」の際の対応で、四分野の検討項目があげられている。第一の人道的活動・国連決議活動協力では、被災地での救援活動のための人員や補給品の輸送とともに、経済制裁・海上封鎖の際の米軍と協力した不審船検査(臨検)などがもりこまれた。第二に、非戦闘員の退避活動。ここでは、「当事国の合意」を前提としながら、自衛隊艦船、航空機の他国領内への派遣が検討対象となっている。第三の米軍への活動支援では、物資の集積・保管や訓練・演習のための民間空港、港湾施設・区域の提供と運用時間延長。米軍艦船・航空機への物資、燃料の補給・輸送、民間車両などの利用。秘匿(ひとく)通信確保のための機材提供と周波数、衛星通信チャンネルの提供。民間を活用した米軍機・艦船の修理。そのほかに医療、警備、物資の陸揚げ作業、給水・汚水処理など、広範な分野での「後方支援」が明記されている。第四の、自衛隊の運用による米軍との協力は、自衛隊による米軍への情報提供や、日本領海内と公海上での機雷掃海などがあげられている。

 さらに、新ガイドライン原案が、明かとされた翌二十三日、在日米軍が支援要求する計千五十九項目ものリストが公表された。そこには、在日米陸、海、空軍、第七艦隊、海兵機動展開部隊、軍事海上輸送軍、軍事輸送管理軍のそれぞれがまとめた、きわめて詳細な要求項目が列記されている。しかも、大半の支援について米軍は、米軍の展開開始日から十日以内の迅速な開始を要求しているのである。また、この米軍の要求に基づいて防衛庁が検討している「米軍支援検討項目」も明かとなったが、これも十三分野計三十六項目にのぼり、米軍が要求する一つ一つについて、逐条的に検討していることが示されている。

 このうち、輸送では、兵員、軍需物資の国内陸送のための民間輸送業者の調達。基地での荷役支援。国内空港、港湾、道路の優先使用、交通統制。施設の一時提供では、新千歳、成田、関西、福岡、長崎、宮崎、鹿児島、那覇など十一民間空港。名古屋、大阪、神戸、水島、松山、福岡など七港湾を想定している。特に朝鮮半島に近い福岡、長崎両空港は、滑走路使用のほかに、事務所や倉庫の新設、そのほかの空港では、米軍機の整備、乗員の宿泊・給食、医療、通信支援などを検討するとしている。補給では、魚雷など対潜水艦用武器や弾薬、機雷掃海具などの提供。運用では、機雷掃海と日本海における救難・捜索。対潜水艦戦指揮システム支援。飛行場運用時間の延長など、官民あげた、わが国領土内外での米軍の作戦行動支援の具体的な姿が歴然と示されている。まさに日米軍事協力の飛躍的強化で、どれ一つも、日本がアメリカのための戦争に自動的に巻き込まれる、りつ然たる内容である。

安保優先で集団的自衛権を合理化

 ガイドラインがあげる、戦闘行動中の米軍に対する「後方支援」や自衛隊によるの機雷掃海などが「米軍の武力行使と一体となるような活動」であり、憲法が禁じる「集団的自衛権行使」にあたることは明白である。

 しかし今回、むしろこれらは積極的に検討事項に明示されている。防衛庁筋の報道として「従来、憲法判断を曖昧(あいまい)にしてきた部分を極力明確にする」のが目的という発言も伝えられている。政府は、特措法国会にみられたように、日米機軸と安保国益論で国会内の与野党をとりこみ、事実追認の拡大解釈で憲法の枠を突破することをねらって「中間報告」を大胆に提起しようとしているのである。

 ガイドライン見直し完了後には、日本周辺地域の「日米共同作戦計画」の研究が開始されることがすでに両国間で確認されている。米国国家安全保障会議(NSC)アジア部のクリストフ上級部長は、「米国と日本の今後五十年の役割を規定するものとなる」とガイドライン見直しの意義を強調し、「日本は、安保条約上の役割を、米軍の後方支援のなかでどのように果たしていくか明確に示すだろうと期待している」と述べている。久間防衛庁長官も、「必要なものはできるだけ早く整備する」とし、新ガイドラインに基づいて、有事法制の整備を始め、あらゆる軍事協力の具体策の検討を進めることを明言している。事実上の解釈改憲はすでに始まっているのである。ことは、憲法の規定の範囲かどうか、さらには護憲か否かという狭い枠内では闘えないところにきている。安保再定義の方向、日米機軸で安保国益論にたつ、この国の外交政策の根本が問われているのである。

アジアに敵対する安保再定義路線

 九十五年に発表された、米国の「東アジア戦略」報告は、「アジア・太平洋は、世界で経済的に最もダイナミックな地域であり、そのことだけからも、その地域の安全保障はアメリカの将来にとって死活的である」と、この地域でのアメリカの国益を強調した。さらに、「朝鮮は潜在的危険の源泉」「中国の長期的な目標は不明確」などとありもしない脅威(きょうい)をあおり、十万の米兵力を配置する根拠としたのである。さらに、昨年四月の「日米安保共同宣言」は、冷戦終結後も「日米安保体制は、アジア太平洋地域の平和と安全に不可欠」と再確認し、条約の範囲を極東から日本周辺地域に広げ、米軍が日本周辺地域つまり朝鮮から、中東までの地域で軍事行動を起こせば、日本は米軍の後方支援に踏み込み、直接戦闘する以外の一切の協力を可能にすることを表明したのである。ガイドラインを見直しはその具体化の第一歩である。

 米国防省は、五月十九日、国防計画見直し(QDR)を発表したが、ここでは、世界で同時に発生した二カ所の大規模な地域紛争に勝利するという「二正面同時対応戦略」に従って、沖縄を軸とするアジア地域への十万の米兵力の前方展開を維持することが再度明示されている。国内兵力の削減など、国防費圧縮のなかでも、アジア地域での軍事的支配力を死守しようというアメリカの戦略的意図は明白である。そしてこの矛先は、朝鮮半島、そして長期的、戦略的には中国に向けられている。

 橋本首相は、日米首脳会談の後、オーストラリア、ニュージーランドを歴訪し、日米会談の成果を報告し、両国との安保協議の定期化などを合意した。さきごろオーストラリアの国防相が、台湾海峡などの有事に対して同国軍の出兵の準備があると発言したが、これらの一連の動きに対して、中国が軍事的包囲網の形成ととらえるのは理由のあることである。

 橋本内閣は、アメリカのアジア戦略に従属しながら、アジアを敵視し、軍事大国として積極的にふるまう道を選択しているのである。中国は、日米安保の拡大について、重ねて警戒感を表明している。新ガイドラインで打ち出される日米軍事協力の具体化は、自衛隊のアジア・太平洋地域全域への出兵を可能とし、過去の戦争での痛苦な記憶をもつアジア諸国の反発を高めざるを得ない。

 発展するアジアに敵対する、この道がわが国の真の国益に反することは明白である。アジアの一員として政治的、経済的な役割をとおして、この地域の平和で、自律的な発展に貢献してこそわが国の平和と繁栄は約束される。

 問われているのは、この国の進路である。橋本政権の進める、安保再定義、日米軍事協力強化の道に反対し、独立・自主でアジアとの共生を求める新たな国の進路を対置し、国民的運動を強め、闘わなければならない。


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