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アジアに敵対する軍事協力の具体化に

踏み込んだ日米首脳会談


 米軍用地特措法の改悪を手土産に訪米した橋本首相は、四月二十五日(日本時間二十六日)クリントン米大統領と首脳会談を行った。

 橋本はこの首脳会談で「現時点で沖縄における米軍を含め、アジア太平洋地域に展開している米軍の削減や変化を求めるつもりはない」と明言し、またも沖縄の願いを踏みにじる態度を鮮明にした。

 また両者は、(1)当面在日米軍の兵力削減について協議を行わないこと(2)「日米防衛協力のための指針」(ガイドライン)見直し作業を促進し、今秋までに共同作業を終えることなどで一致。(3)経済問題では、米側が日本の財政再建路線が貿易黒字拡大につながる可能性に懸念を表明。日本が内需主導の成長を図ることと規制緩和推進の事務レベル協議を強化することなどを合意したと伝えられている。

 経済問題で新たな干渉の道筋をつけられた今回の首脳会談だが、その最大の特徴、危険な性格は、昨年四月の日米安保共同宣言でうちだした安保再定義の方向を再確認し、具体化を急ぐことを合意するものとなったことである。

 首脳会談で確認された日米の軍事協力の指針の見直しは、今年九月を目標に、いま、日米の事務レベルで急速にその作業が進められており、五月半ばから六月はじめにも中間報告が出される予定となっている。

 朝鮮半島や台湾海峡といった日本周辺の有事を想定し、米軍の作戦行動に日本が直接共同し、掃海艇派遣、武器・弾薬の補給、民間飛行場・港湾の提供などを行えるようにしようというのである。これが憲法が禁じる「集団的自衛権」の行使にあたることは明白である。

 しかし、橋本は「見直しは憲法の枠組の内で」と言いながら、「この地域には不安定、不確実な要因がいくつもある」と、ありもしない朝鮮半島や中国の脅威(きょうい)をあおり立て、「いままで想定していなかった事態もふくめ、日米協力の円滑化を促進するために、大枠を決め」る(共同記者会見での発言)と安保優先の見直しを進めることを言明しているのである。特措法改悪で野党が巻き込まれた日米機軸、安保国益論に立つ限りこれに抗するすべはない。

 共産党などが主張する、護憲か否かという狭い枠内だけでは十分に闘うことはできない。

 外交政策そのもの、「日本がアジアにどのような姿勢でのぞむか」という国の進路こそが問われており、これこそ国民的課題である。

 四月二十九日に発表された、九七年度米国防省報告によれば、短期的な朝鮮民主主義人民共和国からの「脅威」に対処するためだけでなく、長期的には「主要な地域大国の対立によって生ずる脅威の防止」が課題であるとし、中国を明確な仮想敵とした安保政策を堅持することが表明されている。

 橋本首相は日米会談直後、アメリカの緊密な同盟国オーストラリアを訪問し、日豪の安保対話を強化することに合意したが、これを受けてオーストラリアのマクロクラン国防相は朝鮮半島や台湾海峡などアジア地域で紛争が起きた場合、同国軍が出動する用意があると発言している。これを隠された密約と見ることもできる。ことの本質は明かである。

 わが国支配層は、「日米安保再定義」で、中国を仮想敵とするアメリカの世界戦略の重要な一端を担い、軍事面でも具体的な協力関係構築に踏み込んだのである。あわせて支配層は、わが国自身の軍事大国化を進めようとしているのである。

 中国はすでに日米安保が「二国間の範囲を超えれば当該地域の情勢に複雑な要素をもたらす」と警告し、「日本の自衛隊が装備を増強し、防衛の範囲を拡大したら、必ずアジア諸国の重大な関心と警戒を引き起こす」と厳しく批判している。

 この選択とその具体化が、アジア各国の不信と警戒感を高め、経済、政治両面で興隆するアジアに敵対するものとなることは明白である。

 わが国の長期的な真の国益に反する、危険な選択に、保守層の一部も含め懸念が高まっている。

 今回の首脳会談が、あえて昨年の安保共同宣言を再確認せざるを得なかったように、その具体化の推進に大きく立ちはだかったのは沖縄の闘いであった。闘いの力は、国民的運動にある。

 アジアに敵対し、孤立する道を拒否し、アジアとの共生で平和で繁栄する国の進路を切り開くため、広範な国民的戦線を形成して闘わなければならない。


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