衆議院は四月十一日、七日の審議入り以来わずか五日、まともな議論もせずに、沖縄の声をふみにじる米軍用地特別措置法(特措法)改悪法案を自民、新進、民主、太陽など各党の賛成で可決、参議院に送付した。
特措法改悪案は、収用委員会の審理中に使用期限が切れても、また、収用委員会から申請を却下されても、国が米軍用地を自由に暫定使用できるというしろものである。しかも、施行以前にさかのぼって、昨年四月に使用期限が切れた米軍楚辺通信所(ゾウのおり)にも適用できるというでたらめなものだ。こうなれば、県収用委員会が何をどう判断しようとも、それは実質意味がなく、契約を拒否している地主の土地を国が思うままに強制使用できることになる。特措法改悪は米軍基地の固定化、永久化にレールを敷くものである。
しかも、特措法は現在、七五%の米軍基地が集中している沖縄だけにしか適用されていない法律である。今回の改悪の対象も、五月十四日に使用期限が切れる嘉手納基地など米軍の十二施設と、前述した不法占拠状態が続いている米軍楚辺通信所である。まさに沖縄だけに苦難を強いる徹底的な差別立法だといえる。
しかも、橋本首相は衆院本会議で、「(米軍用地確保は)本来、国が執行責任を持つ性格のものだ」と述べ、特措法改悪による暫定使用にあきたらず、米軍用地の収用権限そのものを県収用委員会から完全に奪い、国に移管する特別立法の設定まで考えているのである。
このわずか一カ月半の間に、米政府はあいついで政府高官を日本に派遣した。二月二十四日にオルブライト国務長官、三月二十三日にゴア副大統領、四月七日にコーエン国防長官が来日し、口々に「アジア・太平洋地域の米軍十万人体制を維持する」と、在日米軍の削減を否定した。米軍用地の使用期限切れについて「日本政府がうまく取り扱うことを期待する」「米軍用地問題が成功裏に終わることを期待する」と、日本政府に圧力をかけ続けた。
橋本首相は、オルブライト国務長官来日の際には「軍事態勢について緊密に協議したい」と、海兵隊など米軍兵力の構成について協議することに含みを残す発言をしていたが、ゴア副大統領との会談では手のひらを返したように「日本政府として在日米軍の削減を求めない」と述べ、対米追従の本性を丸出しにした。米軍用地の収用問題についても「日米安保体制に支障が生じないよう最大限努力する」と、特措法改悪を米国に約束したのである。
コーエン発言について、中国の国営通信新華社は「米国がアジア太平洋地域での影響力確保のため、軍事力誇示を決して放棄しないことを示している」と、強い警戒心を示した。日本は米国に従い、中国はじめアジア諸国に敵対する立場に立っているのである。
冷戦後の今日、在日米軍の存在理由は、わが党が重ねて暴露してきたとおり、米国のアジア・太平洋地域での支配力を維持、確保するためのものであり、徹頭徹尾米国の国益にそったものである。昨年の日米安保「再定義」は、この米国の戦略にそって安保条約の枠組みをアジア、世界規模に拡大するもので、この米国の戦略への日本のいっそうの追ずいと、その下での日本の軍事大国化が真のねらいであった。
この安保再定義にそって、日米軍事協力のための指針(ガイドライン)の見直し作業が、今年の秋の期限に向けて本格化する。日米共同作戦体制は、憲法の禁ずる集団的自衛権の壁を越えて、実践的に拡大されようとしているである。
しかし、この日米両政府のもくろみの前に沖縄の闘いは大きな壁となって立ちはだかった。だからこそ日米支配層はどんなことをしても、なりふりかまわずこれを押え込む必要があったのである。
既に述べたように特措法改悪そのものが、追いつめられた橋本政権が打った窮余の策、悪あがきである。この法改悪には何の道理もなく、およそ法治国家の名に値しないことは、政府も与野党の共犯者たちもよく知っている。橋本首相は「批判は覚悟の上で」と言わざるを得なかった。新進党は沖縄選出議員の造反を黙認せざるを得なかった。彼らは後ろめたさを隠しきれず、抽象的で具体性のない沖縄振興策の国会決議で特措法改悪の犯罪性をうすめようとしている。だが、それはむだな努力である。
琉球王国への薩摩藩の武力侵攻、明治政府による琉球処分、本土防衛のために捨て石にされた悲惨な沖縄戦、沖縄を切り捨てた講和条約調印、銃剣とブルドーザーによる土地の強奪、人権をふみにじった米軍の支配、犯罪や事故、基地公害。本土政府による犠牲と差別の押し付けによる苦難の歴史は、沖縄県民の心に深くきざみ込まれている。政府は特措法改悪によって、その苦難の歴史に新たな犠牲と差別の一ページを書き加えたのである。政府の仕打ちは「平成の琉球処分」として、県民の心に深くきざみ込まれた。沖縄県民は、政府に対する幻想を捨て去り、より本格的な闘争を準備するであろう。
「日米安保条約上の義務履行」のために沖縄県民の犠牲はやむを得ないという政府の弁明は、「国民を犠牲にまでしてなぜ日米安保が必要なのか」と、日米安保に対する国民の疑念を拡大した。
支配層にとって最も恐ろしいのは、「保保連合」や部分連合など、あれこれの政権構想や取引材料でコントロール可能な議会での抵抗ではない。人心が彼らから離れ、決定的な国民の反撃が始まることである。
長期にみるならば、力関係の全体は支配層に不利に、沖縄県民と闘う国民の側に有利に変化しているのである。
沖縄では政府の仕打ちに怒り、これまで軍用地の契約に応じてきた地主の中からも新たに契約拒否の火の手が上がりはじめた。十五日には大規模な県民大会も予定されている。最近の神奈川や大阪をはじめ、全国各地でも沖縄に連帯し特措法改悪に反対する集会が開かれる。
闘いは全国に広がっている。国会の状況がどうであろうと、広範な国民運動の発展こそが彼我の力関係を変え、日米安保を破棄して在日米軍を一掃する国民的な合意と運動の基盤を形成する。
わが国の自主的で、平和な進路を望む人びとは、行動に立ち上がり、国民世論を盛り上げ、この闘いをさらに全国に広げよう。わが国の国益をそこねる日米安保のために、沖縄に差別と犠牲をおしつけ、土地を強奪する売国的な政府に対する怒りを、広範な国民の心にきざみつけよう。これこそが最終的な勝利へ通じる確かな道である。
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