自民党行政改革推進委員会の規制緩和小委員会は三月十四日、「規制緩和推進重点事項」を打ち出し、三月末に予定されている「規制緩和推進計画」の再改定に、この内容を盛り込むよう政府に申し入れた。
この申し入れは、すでに取りまとめの過程で、政府、各省庁と非公式折衝が進んでおり、多くが政府計画に盛り込まれるものと伝えられている。財界の指図のもとで、自民党としてそれぞれの規制緩和項目について、着手時期と具体的な緩和策を明示したのが特徴で、これで業界や省庁の抵抗を押え込もうという意図が見て取れる。
マスコミ各社は、いっせいにこれを取り上げ「既成緩和は計画段階から、消費者にどこまで恩恵が及ぶのか、実効性が問われる段階にはいる」(日経)、「省庁や業界の抵抗で当初の方針が後退した例も少なくない。改革姿勢の真価がわかるのはこれからだ」(朝日)などと、自民党の尻叩きをする始末である。
だまされてはならない。マスコミ、政党あげての規制緩和の大合唱を打ち破り、橋本の進める改革路線を挫折させなければならない。
今回の、自民党「重点事項」では、「基本原則として自己責任原則と市場原理に立つ自由で活力のある経済社会」をめざすとして金融・証券、運輸、土地・住宅、法務、労働、医療・厚生、農林水産、電気通信、競争政策、教育、少子化の十分野について七十七項目の具体的な規制緩和策が打ち出されている。
しかし、この取りまとめ過程でも、犠牲を強制され存亡の危機に立たされる中小商工業者、各業界団体の激しい抵抗が見られた。
今回の「重点項目」の目玉であった金融システム改革「日本版ビッグバン」の早期実施をめざした参入規制緩和策では、大手証券、保険業界からも激しい反発が起こった。
銀行が証券、保険業務に乗り出すことに「必然性はない。銀行窓口での保険販売は銀行の手数料収入を増やすだけだ」(波多健治郎・生保協会長)、「銀行は産業に対し強い支配力を持つ」(鈴木政志・野村証券会長)などの声が上がっている。
農業分野でも、株式会社の農地取得の自由化という自民党案は、農協などから強い抵抗にあった。農業新聞は「農地法改正こそ内需拡大の突破口」「住宅関連をはじめ、さまざまなニュービジネスの登場が見込める」との永野前日経連会長の発言をとらえ、「これが本音であろう」と批判している。
医療分野の規制緩和も同様である。医療・福祉分野は、二〇一〇年には現在の二・四倍、約九十一兆円という基幹産業にも等しい市場規模になるといわれる。株式会社による病院経営の自由化は、そこへの参入を狙う財界の意向に沿ったものである。医師会、社会福祉諸団体は、当然反発を強めている。
医薬品販売規制の緩和も、ビタミン剤、ドリンク剤をコンビニエンスストアで販売できるようにしようとするもので、薬局の経営は大きな打撃を受けることになる。
これらの抵抗はみな当然であり、切実なものである。戦後、長く保守政治の支持基盤となってきた、さまざまな業界団体、大手企業の一部をも巻き込んだ規制緩和反対の動きは、自民党、橋本内閣にとって薄氷を渡るに等しい深刻な事態である。
一方、かねてから日本に規制緩和と市場開放を迫ってきたアメリカは、ここにきて、いっそうその声を強めている。サマーズ米財務副長官は二月末、ワシントンの日米協会での講演で、規制緩和を促進させ、日本市場への参入を図ろうという、第二期クリントン政権の対日経済戦略を明らかにした。また、米通商代表部(USTR)は三日、エンジンやブレーキなど特定部品専門の自動車分解整備工場を認める日本の運輸省の規制緩和措置を歓迎する声明を発表した。
政府は国民世論を味方につけるため、規制緩和でアメリカはじめ外国企業、製品の参入を促して内外価格差をなくし、競争を促進することが消費者の利益につながると、さまざまな宣伝をくりかえしている。財界首脳は、「改革に伴う不況まで覚悟」(稲盛・京セラ会長)しなければならないと語り、今年二月の関西財界セミナーでは、既得権益の温床となりがちな業界団体のあり方を見直すとまでいって、規制緩和に反対する中小商工業者や、その業界団体に圧力を強めているのである。
政府と大企業は国際化、自由化は時代の流れで、規制緩和に反対するのは、規制に守られてきた業界の甘え、エゴであると決めつけている。
確かに戦後、諸規制は競争力の弱い特定の産業を保護してきた。しかしこの政策の根本的狙いは、そういう中小業者を「助けよう」というものでは決してなかった。それは、基本的には国家戦略として、国際的競争力のある大企業を育てることを目的にとられた輸入代替政策の結果であった。外国から買った方が安くつくものでも、なるべく国内でつくれるものはつくって外貨を節約し、国外の資源、高い技術の獲得に資金を集中的に使う。そのために参入規制その他で国内の産業を保護、育成する。これは資源もない日本が、競争力のある大企業を育てて国際市場に進出するための支配層にとっては当然の政策であった。「内外価格差」はここから生まれたのである。これは国策でやられたもので、中小零細業者が怠けていたからなどというのは、まったく正確ではない。
今日、規制が多すぎる、内外価格差が大きいなどと騒ぐ大企業こそ、この国策のおかげで巨大に繁栄し、多国籍化するほどになり、今では儲けすぎて貿易黒字で国際的批判にさらされるほどになったのである。諸外国との経済摩擦は激化し、市場開放要求を迫られるなど国際環境は激変した。引き続き世界でぼろ儲けを続けるためには、国内を明け渡し、世界の批判をかわさなければならない。そこで、これまでの規制政策はもはや支配層にとって有害なものとなった。だから、これを壊そうというのが今日の規制緩和、経済構造改革などの改革政策なのである。
どの事業家、業界も大企業の食い逃げの犠牲に甘んじることはまったくない。業界諸団体は闘おうとすれば、いまさら多国籍化した大企業の番頭の役割を果たしている自民党や、その族議員に期待をつなぐのでなく、自ら立ち上がって行動で政府に要求を突きつけなければならない。そうしてこそ、同様の改革攻撃で苦しむ国民各層の支持と共感を得ることができる。
労働者、労働組合はこの中小商工業者、事業者や業界団体の闘いに注目し、支援と連携を深めなければならない。
支配層、保守政治はその支持基盤の再編に直面して揺れているのである。支配層はその内部に新たな敵をつくり出さずにはおれなくなっている。「改革」は、本質的に敵にとって支配を揺るがす深刻な難事業である。これはまた、闘うものにとって大いに有利なことである。
さまざまな業界団体などの抵抗と闘いを熱心に支持しなければならない。とりわけ活動家、組織者は改革で切り捨てられようとしている中小業者、あるいは業種ごと淘汰に直面している業界団体を訪ね、実情をつかみ、激励しなければならない。
そして、改革攻撃を打ち破る国民的戦線を形成し、敵のもくろみを打ち破らなければならない。
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