970315


窮地に立つ政府、山場を迎えた沖縄の闘い

米軍用地特別措置法を許すな


 橋本政権は、5月14日に使用期限切れとなる沖縄の米軍用地を、期限切れ後も強制使用できるようにするため、米軍用地特別措置法(特措法)の改悪に乗り出した。

 軍用地提供を拒否した反戦地主を中心に米軍基地撤去を求める県民の闘いが発展するなかで、国が沖縄県収用委員会に求めた未契約地主の土地を強制的に使用する裁決が期限切れに間に合わず、しかも国が望む強制使用の決定が下されない可能性も高まっている。そうなれば嘉手納基地をはじめ13の軍事基地の地主3千人の土地を強制使用する、いっさいの法的な根拠(権原)が失われ、不法占拠となって、米軍基地と日米安保体制の運用は深刻な事態に直面する。

 追いつめられた政府は特措法改悪で乗り切ろうとしているのである。これは、土俵際に追いつめられてあわててルールを変え、「徳俵(とくだわら)」を後ろへずらすようなもので、およそ法治国家の名に値しない、でたらめな不法行為である。民主主義と平和を求めるすべての国民は、この暴挙を断じて許してはならない。

130万県民の怒りを聞け

 沖縄では特措法改悪に県民あげての怒りが高まっている。地元新聞社が行った基地をかかえる市町村長へのアンケートでは、特措法改悪に賛成する首長は一人もいなかった。県議会は海兵隊撤退と特措法改悪反対の決議を準備しているし、県知事、県当局も反対の態度を鮮明にしている。

 地主をはじめ県民は土地を平和な生産の場にすることを強く要求している。平和な国際交流拠点としての沖縄の実現をめざす国際都市構想と基地返還アクションプログラムは県の基本方針である。

 政府は、この沖縄の声にこたえるべきである。わが国が法治国家だというのであれば、使用権原がなくなったならば法律に従って米軍基地を撤去し、土地は地主に返すべきである。わが国の法律に従えば、政府にはこれ以外に選択肢はあり得ない。

 特に沖縄には、太平洋戦争では本土防衛の「捨て石」として、日本唯一の地上戦の戦場を強要し、言語に絶する犠牲を強い、戦後は長期間米国の占領下に放置し、異民族支配と軍事基地を押しつけるなど五十年間余も犠牲を強いつづけた経過がある。わが国政府はどうしてこれ以上の犠牲を要求できるのか。

 本土は、いままたその態度を鋭く問われているのである。

追いつめられた政府

 特措法改悪は沖縄県民と全国民に対する橋本政権の攻撃である。しかし、国会の中では、自民党が多数で、野党がいるかいないか分からないような、頼りにならない状況がある。ここだけ見ると状況は、沖縄県民と国民の側に困難で闘いようがないかに見える。だが、一昨年来の沖縄県民の闘いは、自民党橋本政権と日米安保体制を窮地に追い込んできた。この経験と全体状況を見れば、確信を強めることができる。特措法改悪は、攻撃には違いないが、追いつめられた橋本政権の悪あがきともいえるからである。

 1995年9月、米兵による少女暴行事件を契機に沖縄県民は怒りも新たに立ち上がった。10・21県民大会のような大衆行動の発展に促されて、大田知事の「代理署名拒否」など行政の闘争も発展した。こうした、まさに島ぐるみの闘いは、国民の目を沖縄に向けさせ、広く国民の共感を集めた。

 「沖縄県民の一撃」は情勢を一変させ、安保体制と基地問題は、数十年ぶりにわが国政治の、現実の、しかも最大の課題となった。

 しかし、こうした情勢の変化を、当時誰が予測したであろうか。時あたかも、社会党(当時)の村山氏が首相になって、安保体制堅持を誓い、日米両国支配層が「ついに安保に反対する勢力はいなくなった」と凱歌(がいか)をあげていたときだった。国会内での力関係が沖縄県民、国民に有利に変わったわけではない。院外の、沖縄県民の怒りと行動、そして全国民的共感・支持こそが情勢を突き動かしたのだ。

 昨年4月、「ゾウのオリ(米軍楚辺通信所)」が政府の不法占拠となり、追いつめられた橋本首相は、普天間など一部米軍基地の「県内移転」で事態の沈静化を策した。だが、橋本の策動は裏目に出て、むしろ県内移転・固定化反対の運動の発展を促した。また、本土への「基地ころがし」は、全国に「実弾演習移転反対」の世論の火をつけ、さらに昨夏の沖縄県民投票は、基地撤去が県民の意思であることを明確に示した。

 あせった橋本首相は、沖縄の闘いを懐柔(かいじゅう)するためさまざまに画策、こうしたなかで大田知事の公告縦覧応諾があったが、この事態を乗り越えて県民の運動は発展した。他方、9月の米軍のイラク爆撃に際しては嘉手納基地の空中給油機が参戦、また、那覇近海での爆弾投棄事件、米軍が1年以上も隠し続けた鳥島での劣化ウラン弾発射訓練事件の発覚、キャンプ瑞慶覧での高濃度PCB垂れ流しなど、県民生活を脅かし、怒りを高める事件があいついだ。

 4月末の橋本訪米と日米首脳会談を前に、沖縄の事態は日米関係を揺るがせ、橋本政権の命運にかかわる問題となった。政府はまさに進退窮まって、法も正義も無視せざるを得なくなったのである。

 状況を国会の中だけに見るのではなく、力関係の全体を歴史的に見るならば、前進するチャンスである。基地と安保をめぐる闘いは歴史的な局面を迎えている。

許すな基地の長期固定化

 橋本首相は「わが国の国益と沖縄の気持ちをどこで、どう合わせるか、苦心している」などと、あたかも沖縄県民にこたえるために努力しているかに装っている。しかし、実際は「安保は国益」との脅し文句で、沖縄県民と全国民に特措法改悪を強引に迫っている。

 どうして日米安保が国益なのか。「対ソのため」などという論拠は完全に崩れ、昨年の安保再定義では、中国を事実上の仮想敵国にして安保条約を「再定義」し、適用範囲拡大と日米軍事協力の拡大、強化を取り決めた。しかし、朝鮮半島を含めて東アジアには、わが国が武力で備えなければならないような不安定、脅威は存在しない。アジア諸国はむしろ、日本の軍事大国化と日米安保強化にこそ、脅威を感じているのである。大部分の国民は、中国をはじめアジアとの友好、共生こそ国益と考えている。国民大多数からすると、沖縄県民の闘いこそ、真の国益にそうものである。

 日米支配層は、沖縄県民の闘いに譲歩を迫られながら、一方で、市街地の真ん中にあり、老朽化して機能低下した普天間飛行場ヘリポートを海上に移し、機能強化を狙うなど、基地の強化を画策してもいる。「違法状況は避けなければならない」などという衣の下の鎧(よろい)を見てとらなければならない。

 さらに最近、政府、自民党内で在日米軍の兵力構成についての、日米定期協議を求める構想が浮上している。在沖海兵隊の縮小交渉開始を特措法改悪の前提条件に上げる社民党内「柔軟論」などに配慮した小細工だが、これには何の現実的保障もない。これまでも那覇軍港の縮小、返還など基地縮小の「話」はいくつも持ち出された。しかし、現実はなにも実現してこなかった。いわんや、米政府は、在日米軍4万7千人を含む、アジア太平洋地域での10万人体制を維持する方針を繰り返し強調している。追いつめられた政府の、悪質なペテンにだまされてはならない。

急いで声を上げなければならない

 政府は2週間程度の国会審議で、法改悪を強行しようとしている。野党は甘く見られている。それはそうであろう。しかし、新聞社の国民世論調査でも、「法改悪はやむを得ない」はわずか38%しかない。圧倒的な国民が、法案に反対しているのである。

 国民世論を大きく盛り上げ、政府を追いつめなければならない。沖縄だけでなく、全国で国民の意思を声として表す必要がある。労働団体をはじめ各団体には、特措法改悪反対の決議を上げ、世論に働きかける努力が求められる。各政党、とりわけ沖縄の痛みをわが痛みと感じることができる議員たちは、態度をあいまいにすべきではない。沖縄県民とともに、広範な国民運動を発展させよう。   


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