地方自治体、住民各層は広く連携し、
国を挙げての「改革」大キャンペーンのなか、地方自治体は一九九七年度当初予算案を審議する定例議会を迎えている。多くの自治体で地方財政の困難を理由に、大幅な歳出の削減、「行政改革」の断行が強く押しだされている。
県、市町村の予算がどうつかわれるか。これは住民の生活、営業に直結する地方行政がどうなるかを規定する核心問題である。しかも長引く不況下、地域住民各層にとってきわめて切実となっている。
予算議会の場を、国と地域支配層の政治の実態、「地方行革」のねらいを暴露し、住民大多数の要求を反映させる重要な闘いの場にしなければならない。
全国の地方自治体は、九七年度当初予算案を編成するにあたって、この地方財政計画にもとづいた国からの「指導」を受けている。財源の多くを国に依存する地方自治体は、事実上この、国・自治省の「指導」監督の名で予算編成の枠がはめられている。「三割自治」と言われるカラクリの一面である。
では、今年の地方財政計画のポイントはどんなものか。
第一に、地方一般歳出を七十四兆五千百九十二億円、伸び率〇・九%と徹底して抑制した。これは実質的に一九八三年度以来の低い伸び率である。地方単独事業は前年度同額と抑制し、実質マイナスだ。ただ、ふるさとづくり事業は三%増と重点化され、起債できる自治体とそうでない自治体の格差を増長するようなものになっている。
第二に、借入金を二兆七千五百四十二億円減額し、「財政体質の健全化」をはかっている。
第三、四月からの消費税五%にともなう地方消費税収がすぐには見込まれないことから、一兆二千億円の臨時税収補てん債を単年度限りで措置している。
第四、地方交付税総額を十七兆千二百七十六億円、伸び率一・七%に抑えている。
第五に、地方債総額を十二兆千二百八十五億円、六・四%減額としている。対前年度伸び率は六年ぶりにマイナスとなる。
このような地方財政計画の徹底した抑制策は、地方自治体の予算を圧迫、住民各層への犠牲をもたらすことは必至である。
例えば福岡県では、一般会計当初予算案は、一兆五千百三十三億三千二百万円規模となったが、歳出面では公共事業費の一・四%削減、事務事業の五百九十件の廃止・縮小による二百四十七億円の削減となっている。
歳入では、借金体質が強まり基金もほぼ底をつき財政事情はますます硬直化した。県債発行は二千億円を越え、県債依存度は一九七五年度以来最高の一三・六%となり、県債残高は当初予算規模を上回った。県民一人当たり三十一万三千円の借金を背負うことになった。
住民へのしわ寄せの一例を挙げれば、使用料・手数料の全面改定が五年ぶりに盛り込まれ(六九件、平均四・七%)、車庫証明手数料、普通・死亡診断書、看護専門学校授業料などがのきなみ値上げされる提案だ。
ここには、「火だるまの決意」で「行政改革」に踏み切った橋本政権のねらいが色濃く反映している。
九四年十月、自治省は「地方公共団体における行政改革推進のための指針」を策定し、都道府県知事と指定都市市長に対し行政改革を推進することを求めた。これにそって、全国の自治体は新たな「行革大綱」を策定し、三年から五年の期間を設けて行政改革を推進しようとしてきた。
昨年七月蔵相の諮問機関・財政制度審議会(会長は豊田経団連会長)が発表した「財政構造改革白書」は、世界で一、二の国家財政の危機を地方財政の負担で乗り切ること、地方財政の財源の重点的・効率的配分、歳出の抑制を具体的に打ち出した。ポイントは、人員配置の抑制・効率化、給与水準の適正化、単独事業の見直し、上乗せ福祉の見直し、使用料・手数料などの確保など。
第二次橋本政権による「改革」の決断は、この流れに拍車をかけた。昨年十一月自治省は地方行革推進本部を設置、「タイムスケジュールを伴った行政改革実施計画」の策定を、各自治体に改めて要求した。
「行革大綱」にもられた「事務事業の見直し」は、「行政運営の効率化、民間事業者の活性化」という口実で民間委託を徹底しようとするものである。
福岡県では例えば、自動車運転手や用務員、学校用務員、電話交換手などの民間委託やパート化がもくろまれている。また、保育所の民間委託や保母の合理化、学校給食調理事業、し尿処理場、浄水場、公民館などの運転、運営管理も民間委託されようとしている。
補助金等についても、総額を抑制、整理統合を含めた見直しを検討するとされているが、もう一つの目玉は、自治体職員の人減らしである。
「定員管理の適正化」として、OA化、民間委託、組織の簡素化などで人件費の抑制がもくろまれている。東京都の「行革大綱」の例では、総定員の一割に近い四千五百人もの定数削減が打ち出されている。各所で「機構改革」という部局の統廃合、役所のリストラが打ち出されている。
自民党の山崎政調会長は「中央の役人は八十三万人だが、地方は三百三十万人もいる。地方自治体の行革の方がもっと重要だ」と「行政改革」のターゲットについて本音をもらした。中曽根元首相も「今回の行革では公務員の雇用問題が生じる。対策を先回りして提案することが、成功のための不可欠の条件」と述べている。
こうして「地方行革」が本格化されれば、行政の住民サービスの低下は必至である。公務員労働者にもいよいよ民間並みの人減らし攻撃が襲いかかる。
そのためには第一に、「地方行革」とそのおおもとにある、橋本政権の「行政改革」が誰のために行われているか、徹底して暴露する必要がある。
財界、学会、マスコミ、与野党挙げての「改革」大キャンペーンで、闘おうにも認識面がズタズタにされている。「借金残高、GDP上回る」、「地方職員削減進まず」、はては「地方は分権に耐えられるか」などのキャンペーンで、地方は包囲されている。一斉に「摘発」された自治体の不正支出問題もその一環である。
いったい橋本政権の「六つの改革」は、誰の要求によるものか。
るる述べる紙幅はないが、それは冷戦崩壊後の「大競争時代」に生き残りをかけた多国籍企業、国民の中のほんのひとにぎりの層の要求である。かれらは国際競争を有利に展開するために、国内でのコストを最小限に抑えたいと、税負担、社会保障負担の軽い、「安上がりな政府」を要求しているのである。
国家財政の危機をあおりたてているのは、その口実にすぎない。戦後五十余年、産業育成、景気対策といっては国家財政、地方財政をさんざん食い物にし、果ては世界一の赤字財政をつくり出した張本人・財界、大企業にそんな資格はない。ましてや、この危機を、地方、あるいは国民多数の犠牲で乗り切ろうなどはもってのほかである!
こうした真実が、地方議会の場で徹底的に暴露される必要がある。ねらいは、多国籍企業が国際化時代に対応するための、安上がりな、しかも強力な中央政府の構築である。「地方分権」のねらいも、負担を地方に押し付け、効率的に権力支配を維持する体制の確立にある。
第二は、この攻撃が地域支配層の一部、地方自治体を含む広範な人々をも攻撃の対象にせざるを得ない点を見抜き、これを打ち破る広範な戦線形成が可能だという点を確信することである。
住民各層の抵抗は不可避で、すでに保育所、保育料など地域住民の闘いは始まっている。それに留まらない。これまで地方の支配層の一角を占めてきた土建業者なども、不満を高めている。自治体自身も国の負担押しつけに反発がある。
求められているのは、地域でこうした具体的な怒りと要求を組織し、連携させて闘いを推進する力強い組織者である。
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