970215


 沖縄米軍の劣化ウラン弾事件発覚

怒りを米軍基地撤去の国民運動へ


  またしても、である。沖縄県民にはむろん、日本国民全体にとって憤激(ふんげき)にたえない事態が発覚した。二月十日、米海兵隊岩国基地所属のハリアー機が沖縄県久米島沖の鳥島射爆場で劣化ウランを含有する徹甲焼夷弾千五百二十発を発射したことが、なんと一年余も過ぎて明らかになった。

 この焼夷弾は二十五ミリ弾で、貫通力を高めるため比重の重い劣化ウランが百四十七グラム含まれているという。米国側は「人体および環境への影響はない」と打ち消しているが、湾岸戦争で誤って味方に劣化ウラン弾を撃ち込まれた戦車が、米国本土で放射性廃棄物として保管されている事実がある。また復員軍人が肉体的不調や精神的不安定を訴える「湾岸戦争症候群」の原因ではと疑われているシロモノである。だからこそ、米国本土内でも特定の訓練場以外では使用が禁止されていた。

 そんな危険な、わが国に持ち込まれるはずのない弾を、岩国基地や嘉手納弾薬庫に貯蔵し、沖縄の海で発射した!まるで占領地さながらの米軍のわがもの顔の振る舞いではないか。発射した千五百発余の劣化ウラン弾のうち、千三百発はいまなお放置したままである。

 しかも、である。あろうことか米政府が日本側に通報したのは、事件発生後一年以上も過ぎた今年一月十六日であった。米国がひた隠しに隠そうとしていたことは歴然としている。昨年四月の日米安保共同宣言では、盛んに日米安保の「信頼性の強化」を唱いあげ、十二月の日米特別行動委員会(SACO)では、沖縄県の強い要求で「通報体制、情報提供の改善」を約束しておきながら、この対応である。

 橋本首相は「劣化ウランが問題というより(日本への)通報が遅れたことが問題」と怒ったポーズをして見せる。だが、この属国にも劣る扱いに、独立国家の指導者らしく体を張って抗議する気概などみじんもない。

 さらに、ある。通報を受けた日本政府も三週間もひた隠しにし、米紙ワシントン・タイムズの報道にあわてて、沖縄県に通報、公表した。米紙報道がなければ、事件のもみ消しを図ったことは疑いない。

 沖縄では昨年十二月、米軍機が爆弾を不法投棄し、通報が遅れて大問題になったばかりである。

 沖縄県民を愚弄(ぐろう)するにもほどがある。

沖縄は終わっていない

 今回の事件は、沖縄県民を二重三重に愚弄するものであるが、われわれを教育もしてくれる。

 第一に、この事件は昨年秋以来、政府とマスコミが結託してつくりあげてきた「沖縄は終わった」という虚構を一挙に突き崩した。米軍基地の中の沖縄、米軍の勝手放題の沖縄の現実に、国民を連れ戻した。

 沖縄県民の島ぐるみの決起に日米安保体制の危機を感じた橋本政権は、普天間基地の「返還」を持ち出し大々的に演出することで、またいくらかの沖縄振興策と引き替えに、乗り切ろうとしていた。マスコミはこれに呼応し「沖縄は終わった」といっせいに沖縄報道から手を引いた。

 だが、米軍による事件・事故は後を絶たず、沖縄県民の生命と安全が脅かされている現実は何一つ変わったわけではない。

 昨年十二月だけでも米軍による事件・事故は、減るどころか増えている観さえある。十二月十三日、米海兵隊のヘリコプターが久米島の民間地に不時着した。十六日、沖縄本島東沿岸で米海軍と海兵隊の合同演習中に水陸両用輸送車が浸水し沈没。三十分後には別の水陸両用輸送車が火災を起こして沈没した。十日には、米海兵隊の戦闘機が那覇空港の西十キロの海上に四百五十キロ爆弾を投棄した。事件の公表まで丸二日かかり、現場付近を航行する漁民や船舶会社に警報が遅れ怒りが爆発、橋本首相が政府の対応を陳謝したばかりである。

 今回の事件は、米軍基地を撤去させることなしに、あれこれの小手先の「改善策」では事故・事件は後を絶たず、沖縄県民の生命、安全を守れないことを、いま一度教えた。

化けの皮がはがれた橋本政権

 第二に、橋本政権のぎまん的な姿が沖縄県民をはじめ国民の中に浮き彫りになった。

 橋本首相は「総理就任以来、沖縄問題を国政の最重要課題として取り組んできた」(通常国会での施政方針演説)とアピールしてきた。沖縄問題は、橋本政権の最大の「政治実績」であった。

 今回の事件は、そうした橋本政権の化けの皮をはがした。どんなに慇懃(いんぎん)なもの言いをしようが、橋本政権が米国には卑屈で、沖縄県民をないがしろにする政権であることを自己暴露した。沖縄県民の味方づらしながら、事故の事実すらひた隠しにしようとする卑劣な正体を見た。この政権はいっさい信用ならず、この政権に頼って沖縄の基地問題を解決しようなどと考えることはまったくの幻想である。

大衆運動だけが事態を決する力

 今回の事件を契機に、沖縄県民の日米政府に対する不信は増幅し、新たな怒りと闘いが沸きおこっている。

 久米島の具志川、中里の両村長は直ちに「演習中止」の要請行動にたった。

 「海を住民に帰してほしい」と漁業関係者からは猛烈な抗議の声が上がり、県漁連では今週中にも緊急対策会議を開き、抗議行動を展開しようとしている。

 大田知事も、「あってはならないことが次々と起こってくる異常事態だ。県民の生活や生命に危険を与えている海兵隊にはぜひ米国に帰ってもらうしかない」と批判した。

 沖縄県議会は、全会一致日米政府に厳重に抗議し、劣化ウラン弾の即時撤去などを求める意見書を採択し、政府への抗議行動を予定している。

 平和運動センターでも早期に県民大会規模の抗議集会を開こうとしている。

 この怒りを大きく結集し、再び隊伍を整えて、沖縄と全土から米軍基地を撤去する国民的闘いへ発展させるよう全力をあげよう。

 情勢は闘う側に有利である。政府は今回の事件とその影響を危機感をもって注視している。『読売新聞』は早速、社説で「事件を日米安保への批判に結びつけるのは、あまりに短絡的だ。『反安保・反基地』運動への利用を狙う一部の勢力に加担することにもなる。沖縄県や県民には冷静な対応を望みたい」と露骨に牽制した。

 政府、支配層には、普天間「返還」の代替ヘリポート建設問題が地元の反対で暗礁に乗り上げていることが気になっているのである。さらには、十二施設約三千人分の沖縄の米軍用地の使用期限切れが五月に迫っており、特別立法を検討していた矢先に今回の事件が起こったことであわてているのである。

 戦後五十二年間、復帰後も二十五年間、沖縄県民は日米安保と米軍基地の存在ゆえに、犠牲にされ続けてきた。一昨年の少女暴行事件を契機に米軍基地の縮小・撤去や地位協定の見直しを求めて島ぐるみの画期的運動を展開、その運動は全国に波及し、政府を窮地に追い込んだ。にもかかわらず、昨年十二月のSACO最終報告は、「基地のたらい回し」で県民の要求を大きく裏切った。そして今回の事件である。

 闘いはいまだ半ばである。日米安保体制を前提にした対症療法では、国の主権はもちろん、国民の生命も安全も守れない。日米安保体制を強化しようとする橋本政権に頼っては、現在の生命も安全も守れないばかりか、二十一世紀の基地のない平和な沖縄など実現できない。

 一昨年来の沖縄県民の経験が示しているように、事態を前進させ、未来を切り開くのは、県民自身の闘い、これと連帯する本土人民の闘いだけである。県民規模の大衆行動で、劣化ウラン弾を即時撤去させよう。ヘリポート建設を阻止しよう。米軍用地特別措置法(特措法)改正で強引に土地を米軍に提供しようとする政府の企みを打ち破ろう。安保条約を破棄し、沖縄をはじめ日本全土から米軍基地をたたき出そう。


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