19961125(社説)

東京都の「行革」方針

市区町村と住民に負担転嫁する地方行革


  財界の危機感にかられた要請を受け、第二次橋本政権は「火だるまの決意」で行財政改革を断行すべく、首相直属の「行政改革会議」を発足させた。この「改革」という名の国民への攻撃は、「地方分権」という名分で権限・財政の委譲なしに地方自治体への負担の一方的転嫁を含んで進められようとしている。
 こうしたなかで、すでに始まっている「地方行革」に拍車がかけられている。東京都の「行政改革」は、一つの典型である。

「都民への手紙」で赤字のツケ回し
 東京都の行革は、都財政の悪化についての鳴り物いりの宣伝で始まった。今年六月、都は「青島知事から都民への手紙」という形式をとって、景気の低迷と都税収入の落ち込み、それにともなう都財政の悪化を説き、「厳しい都の台所事情」を都民に訴えるパンフレットを大量に配布した。二月に出された都の行革大綱とこれに基づく五月末からの都区行財政検討委員会と軌を一にした動きである。税収の落ち込みが続くなか、高齢化に備えた施策などを維持しなければならないきびしい状況に対し、「都民の協力を訴える」というのがその内容であり、「財政緊急事態宣言」という仰々しい言葉が使われている。
 しかし、今日の財政事情に至った経過はどうなっているのか、どこに運営上の問題があったのか、そして「緊急事態」を招いた責任はどこにあるのか。こうした問題はいっさい触れられていない。国の橋本行革ビジョンと同じである。
 バブル経済の「恩恵」に最も浴し、固定資産税、法人事業税などの膨大な税収を手にした東京都は、大規模開発プロジェクトに惜しみなくつぎ込んできた。臨海部開発に代表される巨大開発事業や旧都庁跡地の国際フォーラム建設など各種の箱モノ事業は、建設費だけでなく、維持・管理、運営にかかる莫大な財政支出を長期に要する。また、国の公共事業に積極的に「協力」し、多くの予算をさいてきた。こうしたひとにぎりの大企業のための「国際金融都市」づくりに、一九九二年以降、大量の都債が発行され続けた。
 その償還が来年度から開始されるのである。九七年度予算における公債費の一般会計に占める割合は、なんと三五・四%だ。このままいけば公債費比率(標準財政規模に対する公債費=元利償還に充当する一般財源の割合)は急増し、三年平均で二〇%を超えることが予測される。二〇〇一年には、この基準を超える「起債制限団体」に転落し、借金によるやりくりもままならなくなる。
 こうした経過と問題点は都民に明らかにせず、ただ結果としての都財政悪化を煽り立て、ツケを都民に押しつけようというのは、本末転倒、理屈に合わない横暴なやり口だ。都民は、臨海部開発が不発に終わり、誰のために都財政が使われたのかの根本にメスが入らないままの行革方針自体に強い不信感を抱いている。

「役割分担の見直し」で市区町村に負担転嫁
 都の行革大綱は、各種事業に対する補助金のあり方、市区町村との役割分担の見直しを掲げている。
 具体的に都・区間では、総合、福祉、衛生の三つの部会が設けられ、協議が進んできた。やり玉にあげられたのは、私立幼稚園保護者負担軽減補助、生活実習所・福祉作業所・授産場の移管、未認可保育室補助、精神障害者共同作業所の通所訓練事業補助など、福祉、保健にかかわる都民生活の切実な部分、社会的弱者への補助ばかりである。
 都はこれらの事業の責任と財源を、移管や補助率引き下げで市区町村に転嫁しようという方針を打ち出した。これに対し、直ちに東京都市長会は慎重な態度を求めた。九月議会では「都の行革大綱による市町村への財政負担転嫁に反対する意見書」が、武蔵野、調布、町田など十六市からあげられた。
 他方、特別区である二十三区との間では、これまでの都・区間の基本的な財政調整交付金をめぐって算定方法等検討会が設けられ、都は算定対象の見直しと需要の繰り延べを主張、区と真っ向から対立している。人件費の算定人員を七千人分削減する案まで出され、反発を招いている。

最後のツケは住民に
 東京都が財政悪化を理由に、これまでの事業や補助金を市区町村に肩代わりさせようとの方針を打ち出してきたことに対して、市区町村が抵抗の姿勢を強めることは間違いない。
 市区町村の台所も不況の影響を受け、ただでさえ税源配分に問題がある税収の落ち込みの打撃を受けているからである。特別区財政を見ると、来年度からの三カ年で見込まれる財源不足は四千五百億円(各区で年間百億円前後)と試算されている。各区は投資的な事業を抑え、基金を取り崩し、区債を発行することで、なんとか住民サービスの水準を図るという苦しい努力が続いている。
 だが、そこをさらに橋本政権の「税制改革」が容赦なく直撃する。消費税五%増税にともない地方消費税の創設などというが、地方交付税の不交付と消費贈与税の廃止によって制度減税による減収や歳出での支出増をカバーしきれない。区財政は二十三区全体で三百四十五億円のマイナスという大きな打撃を受ける。
 地方の過疎町村等に比べれば豊かであるとはいえ、都市生活上必要なサービスを維持していくのは、容易ではない。都区財政調整制度という特別なしくみを持つ二十三区の中には、この制度によってかろうじて生きられる財政力の弱い区も多く、都が制度のしくみを変更すれば直ちに住民サービスが維持できなくなる現状がある。東京独特の産業構造、歴史的に形成されてきた地域間格差は厳として存在し、下請け零細事業者、所得の低い人びとが集中している区にとっては、まさに死活問題である。
 こうした市区町村では、都の負担転嫁を肩代わりできず、住民に最後のツケを回すことになる。しかも、メニューにあがっているのは、社会福祉関連の事業ばかりである。まさに弱いものいじめの行革の本質が、ここに如実に現れている。

都の現業職員の人件費カットも
 都の行革方針は、市区町村に負担を転嫁するだけではない。都の現業職員へのしわ寄せももくろまれている。九七年度予算で厳しいマイナスシーリングをかけた都は、経常経費について対象を一〇%から一五%に拡大、その総体に五%のマイナスシーリングをかけて五百十億円を削減した。投資的経費は五〇%のマイナスシーリングで三千百六十二億円を削減、合計三千六百七十二億円の歳出削減を見積もっている。
 こうしたなかで、現業職員の人件費五億円のカットが提案されている。交代制、夜勤で働く都立病院の看護婦、療育院の保母などの直接処遇調整額の削減である。なぜ住民サービスの最前線の職員ばかりを攻めたてるのか。国や都の行革の第一のターゲットは、いつも現業職員だ。これまでの財政運営、とりわけ問題になっている会議費に対する監査などの実態を踏まえるなら、上級・中枢職員の腐敗と特権こそ問題であり、削減の第一の対象にすべきである。ここにも現場軽視の行革の姿がはっきりと見える。

都民に不要な事業・機構こそ削れ
 財政破たんの根本原因にメスを入れず、責任を棚上げし、市区町村、現場職員、都民に負担を押しつける東京都の行革方針を地方行革の手本にさせてはならない。
 都は月末にも「財政健全化計画」を発表する。この中には、四千五百人にのぼる職員の削減、局事務所の統廃合も含まれている。都民の生活から見て不要な、国並みに肥大化した組織、外郭団体、施設建設のあり方こそ根本的に見直すべきで、都民へのツケ回しは断じて許されない。
 こうした事態を招いた責任の一端は、鈴木都政時代からの都議会にもある。来年は都議会議員選挙の年である。ひとにぎりの多国籍大企業、地域支配層のための都政か、それとも都民大多数のための都政か、二十一世紀の東京のあり方を争う重大な政治戦である。誰のための行革か暴露を強め闘おう。
 地方行革との闘いは、橋本政権の行財政改革に反対する全国民的闘いの重要な一部である。

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