19961115(社説)

第二次橋本政権の使命

財界と米国の要求に応えて国民を攻撃


 第二次橋本政権が七日、発足した。宮沢政権以来、三年三カ月ぶりの自民党単独内閣である。今回の総選挙で自民党は、大政党に圧倒的に有利な小選挙区制度の助けを借り議席を増やしたものの、過半数を得られず、社民党、さきがけは「閣外与党」にとどまり、少数内閣になった。
 にもかかわらず、この政権の使命は、米国と財界の要求に応えて政治的リーダーシップを発揮し、内外の山積する課題に本格的に着手することである。「改革」という名の国民への痛みを伴う攻撃が本格的に始まる。沖縄も含め、日米安保共同宣言にそい中国をにらんだ日米軍事協力の具体化が迫られる。
 危機が深まるなか、国民各層、アジアの反発は不可避であり、わが国政治はいっそう不安定化しよう。労働者階級と国民各層の断固たる闘いが求められている。

「火だるまの決意」とは
 橋本首相は政権発足にあたって記者会見し、「これをやらなければ日本の明日はなくなる」と行政改革に政権の命運をかける決意を表明した。そのために、首相直属の行革推進機関を今月中に発足させ、「規制の撤廃・緩和、地方分権で中央省庁の仕事をスリム化、効率化する」「そのうえで中央省庁の統合再編、官邸機能の強化について一年以内に成案を得て九八年の国会に法案を提出する」「新しい行政体制は二〇〇一年一月スタートをめざす」と手順・目標を明確に言い切った。
 さらに、「既存のシステムをゼロから見直し、再構築する」と述べ「行革を含め、経済構造改革、金融システムの改革、財政構造改革、社会保障改革」の「五つの改革」をあげ、「強い決意で実行するべき時だ」と同時並行的に取り組む姿勢を示した。
 橋本首相の「火だるまの決意」は、激化する「大競争時代」の市場争奪戦で立ち遅れを挽回しようと必死のわが国多国籍企業、財界の要求に応えようとするものである。
 財界は選挙以前からしびれを切らして「政治的リーダーシップを」と言い続けてきたが、自民党単独内閣の発足をいっせいに歓迎、「首相の公約実現への決意が表れている」(豊田章一郎・経団連会長)とほめあげた。マスコミも「首相の行革決意を高く評価する」(日経)、「火だるまの決意を実行に移せ」(読売)などと後押しの世論づくりに懸命である。
 だがいったい、この橋本首相の決意は、国民にとって何を意味するのか。「日本に明日はない」などと国民を動員しようとしているが、真っ赤なぺてんである。
 国民の大多数、労働者、農民、中小商工業者にとって、これらの「改革」は、生活と営業に対する本格的攻撃以外のなにものでもない。「行政改革」などと、国民の官僚機構に対する不満を吸い上げるようなポーズだが、最大の狙いは、財界が「大競争時代」に勝ち残るのに有利な、コストがかからない「安上がりの効率的な政府」の実現である。表だっては大蔵省改革、中央省庁の半減などがいわれているが、他方で山崎自民党政調会長は「三百三十万人いる地方公務員のスリム化こそ効果があがる」と公言している。自治体労働者に対して首切り、人員削減攻撃をもくろんでいるのである。
 また、この行革は弱肉強食の規制緩和と不可分で進められる。経団連は早速、金融など六百九十九項目の規制緩和計画をまとめ、「行革、規制撤廃や財政、税制などの構造改革を今こそ断行すべきだ」と要請した。規制緩和が、中小企業や商店主、農民をいっそう廃業の危機に追いやることは、この間の大店法の緩和などで経験済みである。
 行革の旗の後ろに隠しているのは、財政構造改革という名の医療・福祉、教育の切り捨てである。財政赤字の危機をあおりたてて、国民には消費税の五%アップにはじまる増税を押しつけながら、国民負担による介護保険制度導入、医療費負担の増大など福祉の大幅な切り捨て計画が目白押しに並んでいる。
 こういうわけで、橋本首相の「火だるまの決意」とは、まさに国民大多数の営業と生活に対する本格的な攻撃宣言に他ならない。

対米追随で中国、アジアに敵対
 第二次橋本政権の使命のもう一つは、米国の要請に応え日米安保共同宣言に沿って日米軍事協力を具体的に進めることである。この点は、マスコミでは大きく取り上げられていないが、本来内政のあり方とも絡み、わが国の二十一世紀の進路にかかわる最も重大な問題である。
 橋本首相は、この点でも「日米安保体制は日米関係の根幹だ」と述べ、その枠内で沖縄問題を重要課題として取り組むと述べた。これは、普天間基地「返還」を海上ヘリポートに移し返る類(たぐい)の沖縄米軍基地の固定化・強化の推進である。基地縮小・撤去なしの沖縄振興策は、県民の闘争を鎮静化する策略に他ならない。
 問題の根源は、橋本首相が四月の日米共同宣言に沿って米国の要求に応えようとしていることである。中国、朝鮮をにらんだ日米軍事協力強化の体制づくりをこの一年で具体化しようとしている。最近の八十万人にも及ぶ日米韓の合同軍事演習は、いわばその予行演習であり、重大な挑発といわなければならない。
 こうした日米軍事協力体制を固めながら、「日中関係は国際社会にとっても重要だ」と言ったところで、どうして中国との信頼関係が築けよう。安保共同宣言を前後して台湾問題、橋本首相の靖国参拝、尖閣諸島問題など、日本の側の責任で日中関係は国交回復以来最悪の状態になっている。これをわずかばかりの無償資金協力の再開や円借款のゼニカネで解決しようとするなら、とんでもない了見違いである。対中国関係は、ひとり中国との関係にとどまらず、アジア全体に大きく影響する。
 橋本首相は、米国のために犬馬の労を取り、「火だるまの決意」で安保共同宣言の血道を突き進み、中国、アジアに敵対する覚悟があるのか。この道が、国民大多数の利害に反し、国益に背くことは明白である。

「改革」スローガンの徹底暴露を
 橋本首相をして並々ならぬ決意に追い込んでいるのは、他でもなくダイナミックに変動する大競争時代に立ち遅れを感じ、必死に挽回をめざす財界の欲求、野望である。
 戦後彼らが主導してつくりあげてきた日本の政治・経済システムは、すでに内外でゆきづまっている。対米追随、輸出主導の経済、そのシステムは、危機におちいっている。
 「改革」とは、その危機を打開し、財界の世界市場争奪戦に国民を動員するための、翼賛的スローガンに他ならない。第二次世界大戦に「聖戦」と称して「欲しがりません勝つまでは」といって国民を動員したと同じように、「改革」なる大キャンペーンがやられている。しかも、多くの政党、労働組合がこれに追随している。だが、橋本政権につき従って行財政改革をやれば、どうなるか。財界は、「国際戦」で有利になろう。しかし、財界が万一勝利したところで、労働者や国民は財界と同じように「勝利の美酒」を手にすることにはならない。
 したがって闘おうとする者は、「改革」のぺてんを見抜き、国民に徹底的に暴露することを重視して、国民の不満とエネルギーを別の旗の下に結集しなければならない。国民大多数の利害が考慮されたもう一つの日本の進路――安保条約破棄、アジアの共生・平和の外交、国民大多数がより豊かになる内政、財政政策――を掲げ、当面する切実な要求で闘わなければならない。
 第二次橋本政権に対する国民の唯一の回答は、断固たる闘いである。国民の闘いの発展で火だるまにしなければならない。すでに闘いは始まっている。沖縄では海上ヘリポートに反対する新たな闘いが広がり、戦線再構築の闘いも始まった。大分をはじめ本土各地で、演習移転に反対する闘いが継続している。来月には、消費税増税に反対する国民的闘いが準備されている。日中関係を打開しようとする広範な各界の動きもある。
国民の広範な不満、要求を国民運動として結集し、各界の連合した力で政治の変革をめざす広範な国民連合の全国総会も準備されている。
 彼我の状況は決して支配層の思惑通りではない。欧州のように確固として闘えば、前進は可能である。

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