19961105(社説)

ヨーロッパ労働運動の新たな高揚

闘ってこそ活路は開ける


 ヨーロッパ各国の労働運動が新たな高揚を示している。
 フランスでは昨年秋から年末にかけて五百万人が参加するゼネストが闘われたが、この十月十七日にも百六十万人の公務員を中心とする労働者がゼネストに立ち上がった。
 ドイツでは六月十五日、全国から三十五万人の労働者、市民がボンに集結し、戦後最大のデモをくりひろげた。十月二十四日には、金属労組の労働者十万人がストとデモに立ち上がった。イタリアでも九月、金属労働者百五十万がストを打ち抜き、スペインでも十月、六十五万の労働者がデモをくりひろげている。
 労働者のこうした闘いは、大競争時代に労働者・国民に犠牲を押しつけて市場再分割戦に勝ち残ろうとするEU諸国の多国籍企業とその政府に痛打を浴びせ、通貨統合のプログラムを揺るがせている。
 ひるがえってわが国の政局は、総選挙を経て第二次橋本政権が成立、行政改革を中心に経済構造改革、財政構造改革に本格的に着手する局面となる。EU諸国政府がすでに先行して進めてきたのと同様の、「構造改革」という名の、多国籍企業のための労働者・国民各層へ犠牲の押しつけの過程がいよいよ始まる。
 こうした時、海を越えて届けられたヨーロッパ労働者の新たな闘いの息吹は、われわれを励まさずにはおかない。わが国労働者も沈滞を打ち破って、財界とその政府に真正面から対決し、国際的な労働者階級の連帯を示すべきときがきた。

幾百万の労働者がストライキ・デモ 先ずはEU諸国労働者の力強い闘いぶりをみてみよう。
 (1)フランスの昨年末のゼネストは、まさに一九六八年の五月革命に匹敵する大規模な闘いに発展した。十月十日、国鉄、教員、郵便など公務員を中心に約五百万人の労働者が、公務員賃金の凍結と公共料金の引き上げに反対、大幅なリストラ・人員削減計画の撤回を求めて、二十四時間の統一ゼネストに突入した。
 十一月二十四日には、国民の全ての所得への〇・五%の新税の導入、年金や家族手当への課税、公務員の年金支給開始時期の繰り下げなど、ジュペ内閣の社会保障制度改悪攻撃に反対して立ち上がった。国鉄労働者を先頭に公務員を中心として全国数百万人が参加した二十四時間ゼネストを皮切りに、十二月十二日まで六波に及ぶ統一ゼネストが展開された。とりわけ国鉄労働者は、この闘争と結び付け、政府の「国鉄改革」攻撃に対決して二十二日間の連続ストで闘い、「合理化五カ年計画」(六千キロの路線廃止と毎年六千五百人から八千人の人員削減など)を凍結させた。
 今年に入っても闘いは頑強に続けられている。六月にはフランス・テレコムや電気・ガス、国鉄など公的企業労働者が連続的なストやデモを展開。この十月十七日には、教員二千三百人を含む公務員六千人の人員削減を盛り込んだ政府の九七年度予算案に反対して、公務員労組を中心に百六十万人が参加する二十四時間ストが行われた。
 (2)ドイツでは六月十五日、コール政権が提案した福祉削減策(「緊縮パック」と呼ばれている)に反対して、ドイツ労働総同盟(DGB、九百三十万人)がキリスト教団体などと共同して、三十五万人が参加する戦後最大規模の大デモンストレーションを展開した。雇用危機が続くなか、五千四百台の貸し切りバス、七十五本の特別列車、三隻の船でボンに集まった労働者とその家族は「労働と社会的公正のために」を合言葉に、気勢をあげた。DGBのシュルテ会長は、「福祉国家に対する攻撃であり、無慈悲なカタログだ」と政府との対決を鮮明にした。
 この戦後最大のデモを前後して、公務員関係労働者は給与引き上げを要求し、警告ストの積み上げで政府サイドのゼロ回答を打ち破り、法律に先行して提案された病休時賃金継続払いの削減も撤回させている。また、女性労働者を主力とする小売業の六カ月に及ぶ長期争議も闘われた。
 (3)イタリアでは九月二十七日、基幹産業の金属三労組の百五十万人が賃上げ、労働協約締結、政府の年金改悪・福祉削減阻止などの要求を掲げて全国統一ストに立ち上がった。つづいて十月十六日から公共交通機関の労働者もストに入った。
 これは九四年の年末、社会保障切り下げ、労働者の権利剥奪(はくだつ)に反対し、ローマの百五十万人集会を頂点とする全国行動やストライキでベルルスコーニ政権を退陣に追い込んで以来の闘いである。
 スペインでもこの十月十五日、公務員の給与引き上げ凍結に抗議するデモに約六十五万人が参加した。
 ベルギーでも九五年末、リストラ・首切り合理化攻撃に反対して鉄道労働者がスト、社会保障制度の改悪に反対して公務員がデモに立った。
 デンマークでは九五年四月、公営バスの民営化に反対する全国ストが十年来最大の規模に発展している。

労資協調路線を突き破る力の成長
 こうした闘いの急速な発展は、新たな高揚と呼ぶにふさわしい。
 第一に、大多数の下部労働者が戦闘性を大いに発揮し、指導部の労資協調を打ち破って前進している。
 フランスの昨年秋の闘いで指導部は、当初二回のゼネストしか予定していなかった。労働者の下からの闘争意欲が、六波三週間ものストライキを主導したのだ。
 ドイツでは政・労・資の合意で「社会福祉国家」を実現し、九五年十月にも組合側から賃金自粛の「雇用のための同盟」を提案、この延長に政・労・資の合意が図られようとしていた。戦後最大のデモは、こうした「協調体制」への異議申し立てである。こうした協調体制批判は、DGBの基本綱領改定をめぐる論戦にも反映している。イタリアの六年ぶりのストも、三大労連指導部が「九三年七月協定」という政・労・資の協調体制を打ち破って闘われた。
 第二に、こうした労働者の闘争意欲を原動力に、共同行動が発展し、広範な国民的戦線が形成されつつある。
 フランスでは、労働総同盟(CGT)や労働者の力(FO)、仏民主労働同盟(CFDT)など三大ナショナルセンターだけでなく、職能労組センターなどが共同して闘った。これはフランスの戦後の労働運動の歴史の中でも画期的なことだ。また、学生、農民、商人などが労働者のストに連帯している。フランス国民のストに対する支持率は、なんと六四%にものぼっている。「明日はわが身」の共感である。
 ドイツのデモは、キリスト教団体との共闘で闘われ、学生や牧師など各層が参加した。また、公務員の賃金引き上げ闘争はDGB傘下の公務・運輸・交通労組と独立系の職員組合の共闘で勝利した。
 ヨーロッパ労働者は、一〇%を超える失業率の危機のなか、政府の強権的な社会福祉切り捨て、首切りの攻撃に真正面から対決し、ストライキとデモという武器を使って政府を追いつめ、攻撃を阻止している。政府・支配層がもくろむ通貨統合のプログラムを揺さぶっている。まさに危機の時代、労働者は闘ってこそ活路が切り開けることを示している。

ヨーロッパ労働者のように闘おう
 ヨーロッパ労働者の新たな高揚の最大の要因は、直接には政府・支配層の財政緊縮策の攻撃である。彼らは九九年の通貨統合を実現するために、「財政赤字は国内総生産比三%以内」という基準を設定し、いっせいに社会保障切り捨て、公務員の首切り、賃金切り下げ攻撃を加えた。グローバル化した市場争奪戦で、日本、アメリカとの「国際戦」に打ち勝つための、「国内戦」である。
 第二次橋本政権も、いよいよ本格的に行政改革、財政改革、規制緩和の「国内戦」に血道をあげようとしている。財界は、EU諸国首脳並みの「政治的リーダーシップを」と叱咤(しった)している。
 「ヨーロッパ労働者のように闘おう」、これこそがわが国労働者階級の唯一の活路であり、回答である。

ページの先頭へ