19961015(社説)

総選挙の重要争点・消費税問題

消費税の増税阻止、大企業本位の
政治の根本的転換を


 国民の怒りの声が高まるなか、消費税問題が行政改革問題と併せ、総選挙の大きな争点となっている。この六月、住専・大銀行救済のため六千八百五十億円もの税金を投入する法案を採決した直後に、国会での議論もなく連立与党は消費税の五%への引き上げを閣議決定した。
 総選挙で自民党は、その閣議決定を堅持、九七年四月からの五%引き上げを掲げ、橋本首相は「消費税の逆風は強くない」と強弁している。政権奪回をねらう新進党は急きょこれまでの政策を一変、「消費税率三%の今世紀中据え置き、所得・住民税の半減などで十八兆円の減税」を目玉公約として掲げている。さきがけ、民主党、社民党はニュアンスの差はあるが、五%容認。それぞれに国民の八割を超える強い批判の声を無視できず、当面の選挙を乗り切るため大細工、小細工を含め必死である。新社会党、共産党は引き上げ反対、廃止を主張している。
 消費税問題は、単に税率アップの是非にとどまらない。それは膨大な赤字を抱える国家財政の危機をどう打開するのか、さらには内外で行き詰まった日本経済、そのあり方をどう転換するのか、国民の営業と生活の根本にかかわる国政の中心課題である。これまで通りの大企業・財界中心の経済財政運営を続けるのか、それとも国民大多数に軸足をおいたものに転換するのか、内政をめぐっての二つの路線の争いである。各政党はどの社会層の立場で改革しようとするのか、鮮明にし争うべきだ。
 総選挙で消費税増税を強行しようとしている勢力に厳しい審判を下すと同時に、国民の広範な怒りを力に変え、税率アップを阻止し、国民大多数のための政治へ大転換する国民的闘いを急がねばならない。

誰のために財政が使われたのか
 論戦のなかでひた隠しにされているのは、なに故かくも財政赤字が積み上がったか、政治の責任は誰にあるかである。自民党など連立与党は、これまでの財政運営にはまったく口をぬぐい、「財政危機だから国民に負担をお願いする以外ない」と言っているが、それは本末転倒である。 わが国の財政が、主要資本主義国で一番の危機にあるのは事実だ。今年度末の国債残高は二百四十一兆円、これに各種借入金、地方債などを加えると債務残高は四百四十二兆円。国内生産(GDP)の八九%の赤字を抱える「借金大国」である。
 政府が異常な規模で国債を乱発したのは、九〇年代に入ってからである。九〇年末の国債残高は百六十六兆円だった。わずか六年間で実に八十兆円、五〇%増というむちゃくちゃな借金財政、乱脈経営だ。
 いったい何のために、誰のために使われたのか。バブル経済の破綻、長期不況のなかで、それは「景気対策」、「公共投資」という名目で大企業・財界を潤すために使われた。政府は九二年八月の「総合経済対策」をかわきりに六度にわたる「景気対策」を実施、その財源として巨額の国債を発行した。鉄鋼、セメント、ゼネコンなどを潤す建設国債が、この七年間に七十七兆円も発行された。九三年に十六兆一千億円、九四年に十二兆三千億円、九五年に十六兆五千億円である。(九〇年の六兆三千億と対比せよ)。これは「十年間で六百三十兆円の公共投資」という対米公約を果たすためでもあった。
 その結果どうなったか。期待したはずの景気はいまなお低迷、国内産業の空洞化が急進展し、中小企業は倒産の、労働者は失業と生活不安の危機に直面している。景気浮揚のための財政投入というこれまでの政策手法が全く通用しなくなり、戦後の日本経済のシステムそのものの行き詰まりが明らかになった。
 赤ん坊からお年寄りまで国民一人当たり三百七十万円もの借金だけが残った。これはまぎれもなく失政である!宮沢自民党政権と細川以来の連立政権の責任は歴然としている。
 自民党、連立与党が、こうしたもっとも肝心な真実をひた隠しにするのは、自分たちの政治がひとにぎりの大企業ための政治であったことを見破られ、国民の怒りが爆発するのを恐れているからである。この点では、政略的に「据え置き」を唱える新進党もまったく同罪である。

大競争時代を勝ち抜く大企業のため
 自民党をはじめとする連立与党の税率五%アップは、こうした財政運営をなんら反省せず、危機に陥った財政の「打開策」においても、大企業・財界本位の政治を続け、国民へのツケで乗り切ろうとする許しがたい暴挙である。
 消費税の五%へのアップで、勤労者一世帯当たり年間十四万円の負担増になる。それは賃金が低く抑え込まれている労働者の生活を直撃し、中小商店の営業を脅かす。消費を冷え込ませ、景気へも悪影響を及ぼすのは明白だ。しかも「高齢化社会の到来」を口実に、一〇%、一五%へと際限のない大増税の突破口となる。
 国民の厳しい批判にさらされ、「低所得者への配慮」などと言い始めているが、まったくのペテンだ。
 「福祉充実のため」という美名で導入されたはずなのに、年金保険料、老人医療費、医療費の患者負担限度額などが次々と引き上げられている。「先行減税の穴埋めのため」と恩着せがましく「減税の先行」をいうが、最近発表の「民間給与実態報告」によれば、年収百?四百万円の低所得者には増税であったことが暴露された!当時すでに、五%アップを前提にした増減税の差し引きで減税の恩恵を受けるのは、年収一千万円超のひとにぎりの高額所得者だけという試算があったが、現実はもっと厳しいことが判明した。
 もともと消費税は、「直間比率の是正」という名分で、大企業・財界の税負担を軽減するために導入された、低所得者ほど負担が重くなる逆進性の強い悪税である。この負担が、導入後七年間の実生活の中で国民の実感となってのしかかっている。  消費税の引き上げなど言語道断で、廃止すべきである。
 さらに注意を喚起すべきは、自民党などの国民犠牲の政治は、消費税引き上げにとどまらないということである。マスコミを大動員して「財政危機」をあおりにあおりながら、消費税増税を押しつける一方、「財政構造改革」、「行政改革」などと称していっせいに社会保障・医療・教育を切り捨てる攻撃に出ている。 例えば「医療保健審議会」は、保険者本人負担を二割に、薬剤にかかわる患者負担は五割に、風邪など軽医療は自己負担を引き上げ、入院時の食料給付はカットするなど三十八項目のメニューを決め、来年度から実行するという。介護保険制度の導入、年金給付水準の引き下げ、教科書の有償化などももくろまれている。これらが国民生活にはかり知れない打撃を与えることは必定である。
 こうした「財政構造改革」と一体のものとして「行政改革」がいっせいに叫ばれ、総選挙はさながら各政党による行革大合唱の様相を示している。「経済構造改革」という名の規制緩和も唱えられている。だが、これら一連の「改革」は、大企業・財界が大競争時代に勝ち抜くために、自らの負担を減らし、効率的に対処できる国内条件を整備するものにほかならない。自民党などの連立与党、新進党などによる「改革」競争は、この財界の要求に応えるための競い合いにすぎない。

国民大多数の利益第一の政治を
 わが国が当面する危機は、こうしたやり方では解決できない。これまで続いてきた大企業・財界本位の政治を大転換し、国民大多数の利益を第一とする政治が求められている。国民多数の生活水準の大幅引き上げ、これと結びついた徹底した内需拡大。財政危機の打開も、巨額の利益をあげた大銀行・大企業の負担と軍事費の大幅削減で。こうした根本的転換こそ、外政との整合性のある真の打開となる。
 消費税をめぐる攻防は、当面最大の闘いである。総選挙で消費税増税勢力に厳しい審判を下し、国民多数のための政治への転換の闘いを発展させよう。
 消費税を選挙争点から外そうとした連立与党の策略は失敗し、やつらに動揺が見られる。情勢は有利である。九月二十日の「消費税の引き上げ中止を求める国民中央集会」の大成功は、新たな運動の高まりを示した。五十余りの自治体で、「消費税引き上げ凍結意見書」が採択された。フランス、ドイツの労働者が空前のゼネストで闘っているように、断固たる国民の闘いで消費税を葬らなければならない。

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