19961005(社説)

尖閣諸島問題

橋本政権は直ちに改善のための具体的措置をとれ


 日本の右翼団体が七月、尖閣諸島の北小島に「灯台」のような施設を建てたことを契機として、中国、香港、台湾の反日世論と抗議行動がわきたっている。
 中国本土への返還を間近に控えた香港では、市民団体などによる激しい抗議のデモ、集会が連日のように取り組まれている。九月十五日には、一万人にも及ぶ市民が日本総領事館近くまでデモ、百カ所以上で街頭署名も取り組まれた。二十六日には、抗議のため貨物船をチャーターして尖閣諸島に向かった香港の活動家らが、日本の巡視船に阻止され、海に飛び込んで一人が死亡するという痛ましい事態まで起きた。二十九日には、その追悼集会が一万人以上で開かれている。台湾でも漁民を中心に抗議行動が取り組まれ、日本製品の不買運動も始まっている。
 さらに中国本土でも、政府の抑制にもかかわらず、新聞出版界の有志が「灯台の撤去」を求める声明を発表、上海では柳条湖事件六十五周年の十八日、復旦大学で日本の尖閣諸島「侵犯」と橋本首相の靖国神社参拝を批判するビラが張り出された。北京大学では「反日」集会と構内デモが行われた。
 こうした事態は、日中両国と両国人民の友好を望む者にとって憂慮に耐えない。
 中国共産党機関紙「人民日報」はこの問題で八月三十日「日本は愚かなまねをやめよ」と題する論文を掲載、右翼団体の行動と日本政府の対応を厳しく批判、警告した。しかし、このさなか右翼団体はまたしても九月九日、再度「灯台」の建て直しを行った。十日、沈国放中国外務省スポークスマンは、日本政府との交渉を行っている最中にもかかわらず、再びこのような事態が起こったことに「憤慨の意」を表明した。
 また、王毅外務省アジア局長は「日本政府は右翼に対して放任、ひいては慫慂(けしかける)の態度をとり、彼らの行為をいっそう助長した」と抗議、徐敦信駐日大使は日本政府に強い抗議の意を伝えた。
 こうした経過を受けて二十四日、ニューヨークで日中外相会談が開かれた。そこで銭中国外相は、日本政府が右翼団体を「制止しなかった」として、事態を改善するための「有効な措置」を強く求めたが、問題は基本的に解決されないままである。 しかもこともあろうにこうしたさなか、橋本自民党は選挙公約で「靖国神社の公式参拝」と併せ「尖閣諸島は日本固有の領土」とわざわざ盛り込み、事態を深刻化させている。 国交正常化して来年で二十五年になるが、日中関係は一つの重大な局面を迎えていると言って過言ではない。ことは決して「民間の問題」ではない。日中両国関係の友好的発展を阻害することで利益を得ようとする者がいれば、この局面を絶好の機会ととらえるにちがいない。わが国政府が事態を甘くみてこの問題の処理を誤れば、日中両国、また両国人民の間には大きな不信感が広がり、日中関係を損なおう。
 われわれは、橋本政権が政府としての責任を明確にし、事態を改善するための具体的措置を直ちにとるよう要求する。

日中関係損なう右翼の挑発行為
 尖閣諸島の領有権について、日中両国の間に意見の違いがあるのは、すでに明らかな事実である。日本が固有の領土として実効支配する尖閣諸島は、中国側は釣魚台と呼んで自国領土であると主張している。
 この両国間の複雑な問題の解決は容易ではない。だからこそ一九七八年、日中平和友好条約調印に当たって「長期たな上げ」で解決に当たるという合意が両国政府の間で確認されたのである。
 ト小平副首相(当時)は、この問題について「(両国政府は)国交正常化交渉の時、この問題に触れないと約束した。今回の条約交渉でも、この問題に触れないことで一致した」「挑発する一部のものは、こういう問題を借りて中日関係に水をさしたがっている。両国政府が交渉する際は、この問題を避け、一時たな上げする方がいい。十年たな上げしてもかまわない。われわれの世代は、知恵が足りない。この問題の話をまとめるには、次の世代が賢くなるだろうから、その時は必ずや、互いに受け入れられる方法を見つけられるだろう」(一九七八年十月二十五日)と両国政府の確認として説明している。この「領土問題は長期たな上げ」方式は、両国関係が発展し、国際環境も落ちついて相互信頼が確立した下で解決しようという、日中友好を願う立場からの「知恵」であり、適切な「妥協」だった。
 以降、日中両国はこの合意にもとづいて、紛争を避け、うまく対処してきた。だからこそ、長く友好的な両国関係が保たれてきた。
 こうした一連の経過を踏まえれば自明なように、今回先にことを起こしたのは日本側である。右翼団体は「灯台」を建てることで、中国人民がどんな反応をするか、両国間にどのような事態が生ずるか、十分承知していたはずである。
 当然、中国人民は反日感情をつのらせ、中国政府は領土と主権の問題として、一定の反応をせざるを得なくなる。今回の事態の発端となった右翼の行動が、尖閣諸島問題での両国間の合意を乱暴に踏みにじり、友好的な日中関係を壊そうという意図にもとづいた悪質極まりない挑発行為であることは明らかであろう。

日本政府の無責任な態度に疑念
 だが、もっと重大なことは、この問題に対するわが国政府、橋本政権の態度である。池田外相は「民間の政治結社のやったことで政府は関与も支援もしていない」「民有地であり、介入できない」などと言い、木で鼻をくくったような態度をとり続けている。沖縄の米軍基地「ゾウのオリ」では、「日米安保の安定的運用のため」などと理屈にならない理屈をつけて、民間の土地を違法状態を犯してまで強引に取り上げている政府が、すでに日中間の外交問題にまで発展し、中国側からの再三の抗議を受けている問題で、こうも形式的な態度をとるというのはどういうことか。ことの重大さにふさわしい、政府としての責任ある態度ではない。
 このような政府の態度が、中国側に疑念をつのらせるのは当然である。
 ふりかえって四月の日米首脳会談での日米安保共同宣言以来、中国の日本に対する警戒は急速に高まっている。日米当局の周辺から公然と「共同宣言の最終的狙いは中国」との発言が聞こえ、安保条約の適用範囲の拡大、「極東有事」への日米軍事協力の強化が目の前で具体化しているのをみれは、当然である。国連での日中外相会談でも銭外相は「適用範囲の拡大があると人びとの不安を呼ぶことになる」と改めて懸念を表明した。
 また、この間も中国核実験を利用するなどした、「中国脅威論」が意図的にふりまかれている。「従軍慰安婦問題」でも保守政治家の歴史の事実をねじ曲げる悪質な発言は後を断たない。
 こうしたなかこの七月、橋本首相が過去の慣例を踏みにじって、十一年ぶりに現職首相として靖国神社参拝を行ったことは、中国の疑念と警戒心をさらに刺激した。
 こうした流れの中での政府の回答である。中国人民ならずとも、疑念を持つのは当然である。

国民は無関心でいられない
 われわれは政府のこのような態度に、断じて同意できない。
 今回の事態の背後には、中国をめぐって台湾問題、南沙問題以外に、もう一つ尖閣問題という緊張の種があることを改めて示し、そのいわば時限爆弾の安全装置を外しておこうという反中国の国際的策略があったと見ることもできる。 したがって、日中両国の末永い友好とアジアの平和を望む多くの国民にとって、この問題は決して無関心ではいられない。日中両国間の友好関係を破壊しようとする輩の策動を許してはならない。
 橋本政権は、態度を問われている。政府としての責任ある態度を明確にすべきである。「領土問題は長期たな上げ」という、両国合意済みの「知恵」にもとづいて、真剣に対処しなければならない。「灯台」の撤去など事態が悪化しないための具体的措置を急いで講じなければならない。

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