19960725

国土レポート発表

国民大多数のための国土政策への転換を


 国土庁は七月八日、「国土構造の変遷と新たな国土軸」と題する「国土レポート」を発表した。
 レポートは、太平洋ベルト地帯(第一国土軸)の形成から東京一極集中へとつながってきたこれまでの国土構造の流れを、二十一世紀にふさわしいものに転換する必要性を提起した。昨年十二月国土審議会計画部会によってまとめられた「二十一世紀の国土のグランドデザイン――新しい全国総合開発計画の基本的考え方」(以下「基本的考え方」と略)に忠実に沿うものだ。
 すなわち、「二十一世紀文明を構築するための新しい国土軸」として、「北東国土軸、日本海国土軸、太平洋新国土軸」を形成し、「過去の長い歴史・文化の流れと海域を含む多様な自然環境を生かした新しい日本文化と生活様式の創造」をめざす、そして第一国土軸の再生と相互に補完・連携することで「国土の均衡ある発展」を達成し、「生活の豊かさと自然環境の豊かさが両立する世界に開かれた活力ある国土」を構築する、という。
 これは、政府が進めようとしている「二十一世紀の国土づくりの指針」、四全総に代わる新しい全国総合開発計画の方向の世論づくりをねらったものである。新しい全総計画は、昨年末の「基本的考え方」にもとづいて国民的論議を進めている最中なのに、あたかも決定したかのようである。(この秋に新計画中間案を取りまとめ、来年三月末を目途に策定することになっている)。
 レポートが提起した国土政策は、どういうものか。それはわが国土をどのようにつくり変えようとしているか。誰のための、何のための国土改造か。しっかりと見極め、真に国民大多数のための国土づくりへの転換の闘いを強めなければならない。

隠せなくなった国土政策の破たん
 レポートは、現在の第一国土軸を中心とする国土構造がもはや行き詰まったことを認めざるを得ない。
 それは「経済面を中心とする欧米へのキャッチアップという二十世紀の歴史的発展段階を色濃く反映した」もので、一人当たりのGDPが世界第一位となるなど、経済発展の面では大きな成果をもたらしたが、反面多くの問題が出てきたと指摘する。
・都市化、工業化の広がりは、「すぐれた自然環境の喪失を伴い、利便性の向上の一方で、近代的ではあるが無機質な、画一的な地域の形成につながりがち」だった。
・「全人口の六割以上が第一国土軸に居住し、物や情報の流れが大都市中心になるなかで、第一国土軸から離れた地域の活力は低下し、国土の中での暮らしの選択可能性を狭める方向で作用してきた」。
・生活・文化の面でも「長い歴史的な流れの中で培われてきた各地域のつながりを分断し、人びとの暮らしの豊かさを損なってきた」。
 「基本的考え方」ではもう少しリアルに指摘している。「大都市圏」では、「国土の安全性、人の居住環境、環境への負荷等の面」で、また、「第一国土軸から離れた地域」では「地域の自立、国土資源の管理等の面」で、様々な問題を発生させている。さらに、「(1)国としての経済力や所得水準の高さと比べて生活の豊かさが実感できない、(2)多くの地域で自然の量的減少と質的劣化が見られ、また、都市や農村漁村の景観の美しさや特色ある地域文化が失われてきた、(3)国土の自然災害に対する危弱性が高まっている」と。「これまでの四次にわたる全総計画は、過度の集中の是正と地域間格差の是正等について一定の成果をあげてきたが、これらの課題を含め、未だ解決すべき多くの課題が残されているといえる」と結論づけている。
 深刻な反省の弁ではあるが、反省だったらサルでもできる。三全総といい、四全総といい、「分散型国土」「一極集中の是正」「国土の均衡ある発展」がメインテーマであったはずだ。にもかかわらず解決しなかった。とすれば、その原因を解明し、責任の所在を明らかにすることこそ肝心なことであろう。そうして初めて二十一世紀のグランドデザインの方向も見えてくる。
 国土政策破たんの原因は、歴代政府の大企業のための政治にある。その政治は産業政策だけでなく、国土政策にも貫かれ、大企業の産業基盤整備として交通体系、港湾、空港、都市開発が推進された。レポートは、肝心なこの点にいっさいふれることなく、「二十一世紀にふさわしい国土構造への転換」の必要を唱えるというごまかしをやっている。

大競争時代、大企業の国土改造要求
 ではレポートは、どのような国土構造への転換を図ろうというのか。すでに述べたが、昨年十二月の「基本的考え方」が示した、「生活の豊かさと自然環境の豊かさが両立する世界に開かれた活力ある国土の構築」である。第一国土軸から離れた、北東地域、日本海沿岸地域、西南地域(太平洋新)において新たな国土軸を形成し、この発展とともに第一国土軸の過密に伴う諸問題が解決され、魅力的に再生される。こうして「多様性に富んだ国土空間」が実現するという。(1)小規模でまとまりのよい都市と美しい田園、森林、沿岸域が共存し、(2)都市と農山漁村の連携の下で、ゆとりと利便性をあわせ享受することができ、(3)歴史と風土の特性に根ざした文化が育まれた、知的生産性の高い地域としてつくられてゆく、と述べられている。
 だが、これは幻想である。多国籍企業、大企業の自己中心の横暴、それを擁護する政治をそのままにして、どうしてそんなことができよう。 多国籍企業、大企業の元締めである経団連は、二十一世紀の戦略ビジョンとして「魅力ある日本(経団連ビジョン2020)」を発表した。その中で「新首都の建設をプログラムの象徴と位置づける」とともに、「新たな国土軸・地域連携軸の整備と新しい都市の建設の促進。大規模拠点空港の複数整備」などをあげ、大企業が大競争時代に勝ち抜くために都合のよい国土改造を要求している。高速交通網、情報ネットワーク、成田二期工事、関西空港二期工事、中部新国際空港、首都圏第三空港の建設、情報通信インフラの整備などこれまでと変わらないプロジェクトが並んでいる。
 「基本的考え方」自身の中にも、「国土政策の基本的視点」として、「人や企業の活動が国境を超えた形で広がるなかで、わが国を個々人や企業にとってより魅力あるものとすること」と、大競争時代に多国籍企業に気に入られる国土づくりが述べられている。こうした方向に沿うなら、二十一世紀のわが国土はまさにどん欲な多国籍企業の狂宴の跡の荒涼たる山河を残すだけとなろう。

先進的な沖縄県の国際都市構想
 こうした大企業のための国土政策を断じて許さず、国民大多数のための国土政策への転換の闘いが求められている。われわれは「大企業のための国土政策を根本的に転換し、人間優先、地域主体、徹底した分散化で、豊かな自然環境と地域の活力を生かし、地域がアジアと直結する、国民大多数のための国土政策」(日
本労働党政府綱領案)を提唱する。
 そのポイントは、(1)大企業の要求に沿って国が計画のすべてをデザインして地域に押しつけるやり方ではなしに、地域主体での構想を支持し、それを推進する、(2)情報・通信、交通網の構築は、分散型とし、それぞれがアジアとも直結する、(3)産業政策は、輸出大企業奉仕ではなく、国民生活を豊かにし、バランスある産業政策と結合した国土政策(同)である。
 こうした観点から見たとき、沖縄県の「国際都市形成構想」の提起と実践は画期的で、力強い。「二十一世紀に向けて、共生の思想や、平和を指向する沖縄の心を大切にし、本県の自立を図ることを理念に、自らの歴史、文化、自然環境等の特性を生かした多面的交流を推進し、アジア・太平洋地域の平和と持続的発展に寄与する地域をめざす」という方向をまさに地域主体で提起し、住民の合意づくりが進んでいる。それは「歴史的な転換期の中で、歴史を踏まえての沖縄の発言」であり、「それを否定できる人はいない」(下河辺淳国土審議会会長)強みを持っている。国土政策でも、先進の沖縄県に学んで闘うことは重要である。

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