19960605

大手銀行の3月期決算――史上最高の業務純益

国民の目を盗んで数兆円の銀行救済金


 国会では五月二十八日から、住専処理法案に関する衆院金融問題特別委員会での実質審議が行われている。審議の状況は、政府・与党が一体となって住専処理策の正当性をPRする場となり、八百長試合も同然である。住専処理に六千八百五十億円の国民の税金を投入することは、すでに成立した九六年度予算に盛り込まれており、それを前提にした特別委員会の審議は気のぬけたビールのようなものである。
 バブルに踊った銀行の不始末を尻ぬぐいするために、どうして財政資金を投入する必要があるのか。国民の批判と怒りはこの一点にある。国民の怒りのあまりの激しさに、政府・与党は「母体行の追加負担」などと発言しているが、何の具体策も示さず、財政資金の投入はやめないのだから、リップサービスにすぎない。
 だがさらに国民の前に暴露されるべきは、こうした国民の激しい怒りを買った財政資金の投入も、政府の手厚い銀行救済策の一部でしかないという事実である。それよりも何倍もの巨額の「資金援助」が、形を変え、しかも国会や国民の論議もなしに、銀行に注ぎ込まれている。
 最近発表された大手銀行の三月期決算にもそれを見ることができる。その実態を明らかにし、この国の政治が誰のために行われているのかをあばき、政治の軸を国民大多数の側に移すための一助としたい。

超低金利政策で史上最高の大もうけ
 都市銀行十行(東京、三菱銀行は合併のため一行と計算)は五月二十四日に、長期信用銀行三行と信託銀行七行は五月二十七日に、それぞれ九六年三月期決算を発表した。新聞は「都銀七行、経常赤字に」、「長信銀・信託、全行が経常赤字」などと大見出しをつけ、膨大な不良債権の処理に追われた「惨たんたる内容」を印象づけた。
 だが、それは一面にすぎない。少し注意深く見てみただけで、われわれは驚くべきもう一面の事実を発見する。
 たとえば、東京三菱銀行の業務純益は、前年比五四%増の六千四百五十億円である。第一勧業銀行は一三〇%増の五千百九十億円にのぼった。銀行の業務純益とは本業のもうけをあらわし、製造業の経常利益にあたる。たった一行だけで、住専への財政資金投入額にほぼ匹敵するもうけをあげているのである。ちなみに、上場企業トップのトヨタの経常利益は八%増の三千四百億円で、とても銀行のもうけには及ばない。
 しかもこの二行だけが特別というわけではないのだ。都市銀行十行の合計で三兆五千億円(前期比七〇%増)、長期信用銀行三行の合計で六千二百億円(同一三〇%増)、信託銀行七行の合計で六千五百億円(同四八%)と、いずれも過去最高の業務純益を記録した。
 さらに業務純益とは別に、株価の上昇によって、都市銀行十行の有価証券含み益の合計は十兆七千八百億円と、一年前より五兆二千四百億円増えた。同様に、長期信用銀行三行の合計は六千億円、信託銀行七行の合計は一兆六千四百億円増えた。
 こうした巨額のもうけを背景に、大手二十行は十兆八千四百億円の不良債権を償却した。だから、「経常赤字」というのは、バブルの尻ぬぐいをしたことによって生じたもので、この期間の業務実績とは無関係のものである。
 なぜ、銀行はこれほど巨額の業務純益をあげることができたのか。
 それは銀行が自力で汗を流して手にしたものではない。もっぱら政府・日銀の史上最低の公定歩合、超低金利政策のおかげである。
 超低金利政策によって、銀行が預金者に支払う利息が下がり、貸出金利との利ザヤが拡大した。要するに、いながらにして、銀行のふところに莫大なもうけが転がり込んできたのである。とりわけ昨年九月には、公定歩合がさらに引き下げられ、史上最低の〇・五%にまでなった。銀行が手にする利ザヤはさらに拡大した。
 だが、こうした政策は他面で犠牲をこうむる人びとを生む。当然にも、個人の家計の金利所得は大幅に目減りした。特に、預金金利をあてにしている年金生活者、高齢者への打撃は大きい。また、資金運用を金利にたよる厚生年金基金も打撃を受け、解散に追い込まれるところ、保険料を値上げするところも出てきた。中小零細企業は金融緩和にもかかわらず、銀行に高い利息をとられ、あるいは銀行の貸し渋りで資金繰りに苦しんだ。
 大手銀行二十行の五兆円近い業務純益の増加は、政府・日銀の超低金利政策によって、預金者や中小零細企業からまきあげたものである。

3年半で3・6兆円もの税金免除
 それだけにとどまらない。この決算期に大手二十行が処理した十兆八千四百億円という不良債権償却には、さらに驚くべき事実が隠されている。
 銀行の利益には、三七・五%の法人税と一一%の住民税が課税されることになっている。あわせて四八・五%である。ところが、国税庁が銀行の不良債権償却分を非課税と認めれば、その分だけ課税対象となる金額から差し引かれ、税金を免除される。つまり、仮に百億円の不良債権を償却したとすれば、本来払うべき四十八億五千万円の税金を払わずにすむというわけである。
 バブル崩壊後、大手銀行が不良債権を処理し始めた一九九二年に、こうした無税償却の範囲が拡大された。朝日新聞社の調査によると、九二年四月から九五年九月までの三年半に、大手銀行二十一行(当時)は七兆四千七百億円の不良債権を無税償却し、三兆六千二百億円の税金を免除された。
 国税庁はすでに、住専向け不良債権二兆八千四百億円の放棄は無税償却とすることを決めており、一兆三千七百七十億円の免税はほぼ確定している。焦点となった住専以外の不良債権について、国税庁がどこまでを無税償却と認めるのか明らかにしていないが、十兆八千四百億円の不良債権償却の大半を無税償却と認めれば、免税額は実に五兆円にものぼる。
 六千八百五十億円の財政資金投入が国民の憤激を買い、政府・与党はあわてふためいた。だが、それをはるかに上回る一兆三千七百七十億円の税金が、無税償却の名によって、大手銀行二十行に直接「支給」されることが確定している。今後も「支給額」がもっと巨額になることは確実である。国民の知らないところで、銀行へのこうした手厚い救済の事実が進行している。

政治の軸を国民多数の側へ
 三月期決算での不良債権処理によって、大半の銀行は「不良債権はヤマを越した」と発表した。事態は決してそれほど簡単ではないが、もしそうだとするなら、政府・与党が大騒ぎした「金融システムの崩壊」の危険なるものは、何だったのか。国民を脅かして銀行の尻ぬぐいに六千八百五十億円の税金(財政資金)を投入するための方便にすぎなかったではないか。
 国会の審議も経ずに、大蔵省と日銀の判断だけで超低金利政策が進められた。にもかかわらず、もっとも資金を必要としている中小零細企業は高い金利と銀行の貸し渋りに苦しめられた。「景気回復のため」などというのは国民をあざむく方便でしかなかった。実際には、大手銀行二十行が国民のふところから約五兆円の大金をまきあげるのを助けた、銀行救済策であった。
 さらに、無税償却制度などと言って、国民の知らないところで、大手銀行に巨額の免税を行った。昨年九月までの三年半にすでに三兆六千二百億円の税金を免除した。この三月期には、一兆三千七百七十億円にさらに上積みした巨額の税金を免除する。
 他方、政府予算が成立したのを見計らったように、財政再建論議が噴き出し、消費税五%アップは当然、一二%への増税や「効率的な社会保障制度の確立」という名の福祉切り捨てが公然と唱えられはじめた。
 この国では、ひとにぎりの大銀行、多国籍企業にはどこまでも手厚く、社会的弱者、国民大多数には冷たい政治が行われているのである。
 この政治の軸を国民大多数の側に移す政治の変革のために、こうした不平等、格差拡大の実態を暴露し、怒りと要求を組織し、国民運動を発展させよう。このような現状を打ち破り、政治を変えることができるのは国民の団結した力だけである。

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