19960525

「地域経済レポート」発表

深刻化する空洞化、多国籍企業の責任追及を


 九州松下電器の熊本磁気ヘッド事業部(熊本県菊水町)は、五月十五日、海外工場設立などで主力のパソコン部品の生産が減少していることを理由に、女性パート六十数名を解雇した(西日本新聞)。解雇されたパート労働者は五十才以上で、平均勤続年数は十二年にもなり、パート全体の実に四分の一にあたる。
これは、「平成不況」と呼ばれるなか、全国で繰り広げられているリストラ、首切り事件の一つの典型的事例である。
 こうした折、経済企画庁は「地域経済レポート」を発表した。「空洞化の克服をめざす地域経済」と副題がつけられているレポートだが、図らずも急激に進行する産業の空洞化、出口なく苦境にあえぐ地域経済の実態を告白する書となっている。

大都市圏で雇用が過去最悪
 「九六年には景気は緩やかに回復する」との政府の楽観的見通しとは裏腹に、わが国経済は平成不況の暗いトンネルの中で出口が見つからないまま、すでに六年目に入っている。九二年から九五年まで〇・四、〇・二、〇・五、〇・三%と、実質経済成長率は四年連続ゼロ成長。「景気回復」といわれながら、倒産や失業が増え続け、雇用不安はいっそう深刻化している。戦後、日本経済が経験したことのない異様な事態である。
 その特徴の一つ、あるいは要因をなすのが、いわゆる「産業の空洞化」である。
経済企画庁レポートは「産業の空洞化現象」を、「円高を要因に、(1)輸入浸透度の上昇、(2)輸出比率の低下、(3)海外生産比率の上昇といったルートを通して、国内生産が縮小し、その結果製造業をはじめその周辺産業の雇用の減少が起きること」と定義づけて分析している。
 円高は九五年前半、一ドル=八〇円を切る水準にまで急激に進んだ。後半から多少もち直しているものの、これを背景に産業の空洞化がハイテンポで進行した。工業出荷額、付加価値額は九二年以降三年連続マイナス。製造業の事業所数は九〇年以来廃業率が新規開業率を上回っている。地方の産地組合企業の廃業数が過去二番目の高水準を記録するなど空洞化現象を示す指標が散見され、「楽観できない」と指摘している。
 まず第一に、アジア諸国から安い輸入製品がどっと入ってきた。レポートによれば輸入浸透度は、九四年から製造業は全体として緩やかに上昇しているが、繊維、電気機械、一般機械など特定の業種で顕著に上昇している。具体的には、加工組立型の製造業を支えてきた金型、電気機械ではカラーTV、ビデオ機器、磁気テープなどのAV・音響関連や扇風機、掃除機などの家庭電機関連が急上昇した。カラーTVなどは、高級品を国内で生産し、普及品を海外で生産する構造へ変化した。
 第二に、加工組立型を中心に海外生産が一挙に進んだ。素材型では繊維が急速に海外生産比率を上昇させ、輸出比率の低い紙・パルプでも海外生産比率が高まっている。加工組立型では、自動車が輸出比率を一定にしたまま海外生産比率を上昇させ、海外現地生産へのシフトを強めた。電気機械は海外現地生産により輸出向けの国内生産を大幅に縮小させている。
 円高の直接的な影響が、繊維、音響機器、家電、精密機器、自動車など特定の業種で集中的にあらわれている。
 レポートは、これら業種の国内生産の急速な縮小と「雇用減少」には相関がみられると指摘している。
 輸入浸透度の急上昇した電気音響機器やビデオ機器では実に五割近い従業員が削減され、九一?九四年の三年間で従業員が半減した。その他の品目でも軒並み二ケタの削減で、円高が電気産業労働者に極めて大きな影響を与えた事実に触れている。 また、海外生産比率が急上昇している自動車をみると、自動車本体では九一?九四年で雇用の減少は四・七%と特別多くはない。しかし、本体を支えている基盤業種、鋳物製造、プレス製品、金型などの労働者数は一〇? 二〇%も大幅に減少している!親企業の海外生産によって、下請や系列企業、広い裾野産業の雇用が打撃をこうむっている。
 事業所規模別に見ると、従業者が五?十九人の、中小規模企業での雇用の減少率がとりわけ高く、五十人未満でもかなり高い。その結果、上位規模からの移動がおこり、一?四人規模の事業所数が「増加」という現象さえ生じている。地場産業も深刻で、九五年に廃業に追い込まれた企業は全国で二千三十三件、過去二番目の高水準である。
 地域的にみるとどうなるか。
 四国、近畿で繊維、東北、北陸、関東で電気機械、関東臨海、東海で自動車の影響が出ている。特徴的なのは、今回の円高が地方圏に比べ大都市圏の製造業により大きな影響を与えたという点だ。しかも、今後は地方圏でも「同様の雇用問題を抱える可能性は少なくない」と深刻な先行きを指摘せざるをえない。
 レポートの「官庁表現」を使えば、「雇用の減少」という上品な表現になるが、その実態は「まず残業規制、臨時・季節・パートタイム労働者の再契約停止・解雇、中途採用の削減・停止といった応急的な方法」「次に出向、配置転換といった長期的対応手段」による、労働者に対する過酷な犠牲の押しつけ以外のなにものでもない。その結果は今や三・四%をこえる高失業率であり、さらに世帯主の失業率の高まりという注視すべき深刻な事態の発生である。

大企業は空洞化の中で暴利
 いったい誰に責任があるのか。「産業の空洞化」は不可抗力の現象なのか。レポートは肝心なこの問題になに一つ触れていない。
  自動車、電機などの多国籍企業は大競争時代の市場争奪戦に打ち勝つため、国内では過酷なリストラを強行、これまで以上の低コスト体制をつくりながら輸出を維持し、他方で「最適な事業環境」を求めて積極的な海外生産という戦略をとってきた。この大企業の国際化戦略こそ、産業の空洞化、地域経済の疲弊、失業の増大をもたらしている諸悪の根源である。
 しかもこうした中で、これら一握りの多国籍企業、大銀行は、莫大な利益をあげ肥え太っている!金融を除く主要七百三十九社の昨年九月期の中間決算でみると、売り上げは〇・八六%減ったのに、経常利益は実に二二・八%も増えている。住専問題で国民の血税をかすめ盗ろうとしている銀行、その都市銀行十一行の業務純益は過去最高で、実に七一%も増やしている。
 彼らは国内のリストラで利益をあげる一方、海外投資を加速させ、各地に子会社を多数形成し、海外生産を増大させ、巨額の利益をむさぼっている。トヨタの九四年度の輸出額は約二兆八千四百五十億円、海外生産比率は二四%、ニッサンは一兆四千四百四十億円、四〇%である。電機では松下電器が一兆五千六百七十億円、四二%である。そして、それぞれこの期間に、三千三百人、七千七百人、千五百七十人もの人べらしを強行した。それにとどまらず、先に述べた下請けの倒産、さらには地域での商店街の廃業の深刻化、自営業主と家族従業者数の激減をもたらし、地域経済の疲弊を招いている。 こうした利潤追求に狂奔する大企業の利己的な行動によって、貿易黒字は減らず円高が進行した。さらに海外生産で産業空洞化、失業が深刻になっている。告発されるべきは、こうした一握りの多国籍企業の、「あとは野となれ」式の手前勝手な行動である。
 レポートはこうした真実をおおい隠して、空洞化克服の処方箋を説く。「空洞化を制度的強制によって無理やり止めることは企業や地域経済の活力を減ずることになる」、「地域経済の今後は元気の良い企業を育てること」などなど。昨年末政府が策定した「構造改革のための経済社会計画」による規制緩和、行財政改革などの国策を前提にした、まさに多国籍企業本位の処方箋である。   日本経済は今、二十一世紀にむけ分岐点にある。一握りの多国籍企業だけが栄え、産業が空洞化し、国内経済と国民生活が疲弊する道を進むのか、それとも国民の生活水準を大幅に引き上げ、真の内需拡大を推進し、バランスある国民経済と産業構造を実現するのか。国民経済を損なう多国籍企業の自己中心の企業展開を断固規制すべきときである。当面の地方政治でも、多数派を形成して争うべき重大な課題となっている。

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