19960515

「極東有事」への日米ガイドライン見直し

対中国の日米軍事協力強化は国益を損なう


 先月の日米首脳会談で発表された「日米安保共同宣言」は、まさに安保大改定であった。橋本政権は米国の「東アジア戦略」への追随を明確にし、アジア太平洋の範囲で日米軍事協力を強化する道、対中国共同対処へと大きく踏み込んだ。
 その具体化として橋本首相は十三日、関係省庁に「極東有事」への共同対処のあり方や国内の有事法制の整備などの検討を指示した。今月末からは日米事務レベル協議で「日米防衛協力のための指針」(ガイドライン)の見直し作業が開始される。日米首脳会談を前後するこの一カ月余、政府首脳、自民、新進などの保守党幹部は入れ代わり立ち代わり「極東有事」への対応と有事法制の必要を強調、マスコミはそれを大々的に報じ、御用学者、評論家どもを総動員して国民世論を誘導した。「集団自衛権の行使」の憲法解釈の見直しも公然と唱えられ、もはやこの問題はタブーでなくなったも同然の状況を呈している。
 わが国の安全保障政策の危険な大転換が図られようとしている。
 国会にもかけず、国民的論議も経ないまま橋本政権は、条約の大改定に匹敵する「安保共同宣言」という歴史的陰謀を強行した。さらにその具体化もまた国民に実態を知らせないままコトを進めようとしている。肝心なことは、議会の外で進められている。
 この暴挙を断じて許してはならない。橋本政権が秘密裡に進めようとしている「極東有事」への日米軍事協力がわが国の真の国益からみるとどういうことになるか、国民の前に広く明らかにし、マスコミも動員しての世論攻勢に対抗して強大な国民的戦線を築かねばならない。

改憲スレスレまで日米軍事協力強化
 「極東有事」への軍事協力強化は、まぎれもなく「安保宣言」による日米軍事同盟強化の柱をなすものである。「宣言」は、「両国間の緊密な防衛協力」を「日米同盟関係の中心的要素」とし、「日本周辺地域において発生しうる事態」に対して日米共同で対処する方策の研究、政策調整を進めることを確認した。
 その一環として、すでにACSA(物品・役務相互提供協定)が調印された。これは自衛隊が米軍に対して食糧や燃料、武器部品などを提供したり、兵器の修理を行えるようにするものである。そのうえに「宣言」では、「日米防衛協力の指針」の見直しを合意し、「極東有事」の日米共同作戦のあり方を具体的に定めることを約束させられた。
 橋本政権は日米会談直後から、急ピッチで具体化を進めている。
 日米両政府は四月十八日、この十一月をめどに見直しをまとめることで合意、以降、日米の事務レベルで「検討委員会」(仮称)を設置する、それとは別に国内体制を整えるため関係省庁による作業部会を設置して有事法制などを検討することを決めた。
 橋本首相は「具体的ケースを想定して、臨場感ある形で十分検討してほしい」と指示した。
 これまでに明らかになっている具体的検討項目としては、(1)在留邦人や米軍家族の救出、(2)大量難民発生時の対応、(3)それ以外の極東有事への対応、(4)施設・区域の追加や米軍への後方支援など対米支援措置があがっており、「想定しうるケースすべて」を検討する方針だという。たとえば、(1)では、朝鮮半島で武力衝突の危険性が高まった場合などの邦人、米国人の避難輸送について、韓国国内の空港や軍事基地に集まった避難民を自衛隊と米軍機が短期間に日本国内の民間空港に輸送する方針を固めている。
 米側が日本に強く求めている(4)の支援策は明らかにされていないが、たとえば水・食料・燃料の補給、米軍物資の輸送、傷病兵の治療、自衛隊基地の共同使用、日本の民間空港・港湾施設の使用、情報の提供、戦闘機・艦艇の修理、弾薬の補給、機雷の除去などが想定されているという。
 橋本首相は「憲法の範囲内で」といい、内外の懸念を考慮して邦人救出、難民救援など低いハードルからはじめることにしているが、これは作戦で、最大のねらいが米軍に対する後方支援の策定にあることは明白である。後方支援がどこまで可能かと関連して宮沢前首相が「『日本は海外で武力行使してはいけない』という物差しに障るか、障らないかを判断することでいいのではないか」と発言しているが、それを基準にするならほとんどの後方支援が可能ということになる。
 「極東有事」への日米軍事協力が、「憲法の範囲内で」と言われながら、限度ギリギリまで拡大するであろうことは梶山官房長官らの発言からも想像に難くない。中国の『人民日報』紙が、集団的自衛権行使に関する憲法解釈見直しについて「日本は護憲と改憲のスレスレをねらう漸進的戦術を表明した」と指摘したが、的をついている。

米国の国益のための軍事協力
 橋本政権が世論を見極めながら、軍事協力を具体化するのは必至で、われわれの闘いは急を要している。 どう闘うべきか。
 われわれは何よりも第一に、「極東有事」への日米軍事協力が必ずしも国益にそうものではなく、長期的に見るならかえって国益を損なうものであることを暴露して闘わなければならない。
 はっきりさせなければならないのは日米軍事協力は、米国の「東アジア戦略」の枠内でのそれであって、とどのつまりは米国の国益のための軍事協力であるという点である。日米の利害が一致する場合はよいとして、利害が一致しない場合はどうなるか。「東アジア戦略」が、短期的には朝鮮を、中長期的には中国をターゲットにしていることは次第に明らかになってきた。ジム・アワー元国防総省日本部長は「中国に対し、前向きな方向に向かう以外、選択肢がないと理解させるために、日米同盟を維持すべきだ」と露骨に述べた。米軍十万の関心がますます中国に向けられるのは、疑いない。
 だとすると日米軍事協力が進めば進むほど、中国は脅威を感じよう。中国が「二国間の範囲を超えれば地域情勢を複雑化させる」といち早く厳しく批判をしたのは、当然である。ましてや、台湾での危機が発生した時、米国は第七艦隊を出動させようが、これへの後方支援がわが国に要請されたらどうするのか。中国は「台湾問題は内政問題」と強調し、「極東有事」の対象から外すよう警告している。米国の要請に従って後方支援を行えば、中国と敵対し、関係は一挙に後退しよう。これが国益を損なうことは火を見るより明らかである。中国との経済関係は、わが国の投資が百億ドルを超え、政府開発援助が一兆五千億円にのぼっている事実で明らかなように、まさに抜き差しならぬ所まで深まっている。これをだいなしにしかねないのである。
 日経新聞の五月八日の社説が代弁しているが、日米軍事協力を進めていく際に「中国を必要以上に刺激したり追い込んでいくような取り決めはすべきではない」という意見が財界、保守層の一部にも出ている。
 二十一世紀に向けてますます興隆する中国、アジアと対立することは、わが国の真の国益から見て百害あって一利なしというべきである。
 橋本政権の国の進路の選択、米国の「東アジア戦略」への追随、その具体化としての日米軍事協力強化は、まさに中国に敵対し、国益を損なうものと言わなければならない。
 この点を明確にして根本的に争わなければ、敵の世論攻勢に有効に対処できず、歯止めのない軍事協力の議論に引き込まれる結果となろう。
 第二に、やはり平和憲法への重大な挑戦である点を暴露して闘うことは重要である。
 先に述べた米軍への後方支援が具体化されるなら、「米軍の武力行使と一体の後方支援は、憲法が禁止する集団自衛権に違反する」としてきた、従来の政府の憲法解釈を踏み越える。これを機に公然と憲法解釈を変えようとする動きもある。憲法施行五十年、平和憲法は国民の中に定着しており、集団的自衛権問題と関連して、国民の危機感は高まっている。
 闘う方向が鮮明であるなら、強大な戦線を形成して闘うことは可能である。
 中国、朝鮮、アジアとの友好、共存の道こそ、わが国が長期に平和な国として繁栄する道であることを鮮明にして、対米追随の軍事協力強化と闘おう。

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