19960415

沖縄・普天間基地の返還合意発表

闘争だけが事態を前進させる力


 橋本首相とモンデール駐日米大使は十二日夜緊急に共同記者会見を行い、沖縄県の米軍普天間基地を五ないし七年以内に日本に返還することで正式に合意したと発表した。これまでの日米特別行動委員会(SACO)の協議では「困難」といわれてきていただけに、大きな政治的演出効果を持つものであった。
 大田沖縄県知事は「普天間基地返還は沖縄県が最優先課題として取り組んできた。二十一世紀に向け明るい沖縄をつくる第一歩を踏み出せそうだ」と歓迎の意向を表明した。
 われわれもこうした沖縄県知事の立場での率直な感情は理解できるところである。この合意は、まぎれもなく昨年来の沖縄県民の島ぐるみの闘いがあったればこその成果である。だが合意内容を子細にみるなら、彼我の力関係の現状を反映しており、遺憾ながら限界も歴然とし、重大な問題も含んでいる。
 闘いは新たな局面に移った。われわれは、これを突破口に米軍基地の沖縄と全土からの縮小・撤去をめざして一段と闘争を発展させなければならない。併せて安保「再定義」に反対し、極東有事の日米軍事協力体制づくりに反対する闘いを発展させねばならない。

手放しで喜べない合意の中身
 日米合意について、自民党はいうまでもなく連立与党は最大限の賛辞を送った。新党さきがけは「外交姿勢としても、国内問題としても画期的なことだ」と絶賛、社民党も「沖縄県民の強い願いと与党の努力にこたえるもので、日米両国政府の努力を高く評価したい」と天まで持ち上げた。
 だが、果たしてそれほど評価に値するものか。
 橋本首相の共同記者会見での発表によれば、普天間基地の返還には厳密に四つの条件がつけられている。 (1)沖縄の米軍基地の中に新たにヘリポートを建設する、(2)嘉手納基地には追加的な施設を整備し、普天間基地の一部機能を統合する、(3)普天間基地の空中給油機を岩国基地に移しかえる、(4)危機が起きた時の米軍による基地施設の緊急使用について、日米両国が共同で研究を行う、というものである。
 第一に指摘しなければならない問題点は、この合意があくまでも米軍基地の現有機能を確保することを前提にしたものであり、「純粋な形での返還」ではないということである。返還される普天間の施設は、米国へ持ち帰るのではない。沖縄県内、本土の他の基地へ移転され、そこには新たな重圧が加わるのだ。
 普天間基地は海兵隊の緊急展開作戦を支える基地で、まさにアジア太平洋に前方展開する米軍の核心的機能を担う重要基地である。米国側はその機能を維持するために、代償として沖縄の嘉手納基地の強化、ヘリポートの新設、それに岩国基地の強化を要求した。
 モンデール大使はわざわざ「今回の計画で米国は兵力水準を減らすわけではないし、日米安保条約のもとで、果たすべき能力や即応力を劣化したり軽減するものではない」と強調した。
 要するに、米国側は一見大きな「譲歩」をしたかのような印象を与えているが、実質的に何一つ譲ったわけではない。日本に配置している四万七千の米軍兵力は一兵も減らしておらず、普天間基地が持っていた機能はそのまま沖縄県内、本土へ移転されるのである。移転先の嘉手納、岩国の首長がいち早く「本質的な解決ではなく、基地のたらい回しだ」と批判したのは、この問題点を鋭くついたものである。
 第二に、普天間返還の「見返り」として米国が日本に要求した代償はそれだけではない。
 第4項の条件、すなわち、緊急事態が発生したとき、米軍の展開を容易にするために、日本国内の民間空港、自衛隊基地の使用解禁について共同研究することを日本にのませた。これは極東有事の際、九州や山陰などの広い範囲で、しかも民間空港なども含めて米軍の作戦行動の拠点として提供することを日本政府に約束させたことを意味する。
 それは日米軍事協力を一挙に極東有事の危険な段階へ引き上げる暴挙であり、本来安保条約の改定に匹敵する重大な変更である。そしてそれは、今回の日米首脳会談で安保条約を「再定義」しようとする米国側の最大の狙いの一つでもある(もう一つの柱は、安保をアジア太平洋、世界的規模に拡大適用すること)。
 そのために、米軍と自衛隊が物品などを融通し合うACSA(物品役務融通協定)の調印を行い、「日米防衛協力の指針」(ガイドライン)を見直して、米軍と自衛隊の共同作戦計画を含む「日米共同対処計画」の策定作業開始を合意することになっている。
 したがって、米国は普天間返還の「見返り」として、安保「再定義」で実現しようとしている極東有事の日米軍事協力の突破口を開いたことになる。これは日本側からみれば、これまで憲法が禁止してきた「集団的自衛権の行使」という新たな軍事協力に踏み込むことである。日本側はとんでもない重大な課題を背負わされることになった。
 さらに合意の三点目の問題として、「五ないし七年後」という期限の問題がある。
 最近の台湾海峡の緊張で、米国の「東アジア戦略」は長期的に中国に対抗するものであることが鮮明になった。中国は九七年に香港返還を実現し、さらに富強化しながら台湾の祖国統一に向けた具体的な動きを強めてこよう。米国の台湾問題を利用した中国を「取り込む」積極的関与政策との対立は不可避である。短期的には朝鮮情勢もある。
 「五ないし七年」は、そうした情勢の緊張(有事)を織り込んだもので、その期間は普天間基地を手放さないので十分対処できると計算しての判断だとみてよい。しかし予想が外れ、仮に五年後に事態が緊張していた場合には、どうなるか。この合意が反故(ほご)になる可能性は大いにありうることである。二十二年前に合意した三事案すらいまだ解決していないのである。だから、今回の合意もきわめて当てにならない約束にすぎない。
 こうみてくるなら、この日米合意はとても手放しで喜べるものではない。日本にとって極東有事の軍事協力が義務づけられ、米国の対中国、朝鮮軍事干渉、戦争に自動的に巻き込まれる道に踏み込むことになったのである。
 「橋本首相の政治的英断」などとはとんでもないことである。

反撃に転じた日米政府
 この合意がなぜ日米会談を前にして突然発表されたか。
 それは何といっても、沖縄県民が要求している「目に見える成果」を示すことなしに日米首脳会談を乗り切れないと日米政府が判断したからであろう。別様にいえば、昨年来の沖縄県民の怒りと高まる基地の縮小・撤去の闘いが日米政府をここまで追い込み「譲歩」させたのである。  だがそれは一面である。彼らは転んでもただでは起きない。金曜日の夜八時、テレビのゴールデンタイムを選んでの意表をついた重大発表という演出までして、「沖縄基地返還」を大々的に国民に印象づけ、闘争を分断、切り崩す攻勢に転じた。
 日米政府はテレビでの記者会見を通じて、安保「再定義」への世論誘導を意図的に行った。モンデール大使は、クリントン大統領の訪日の意義を強調、「次の世紀に向けてわれわれの永続的な同盟を構築する一助となることを希望する」と述べた。橋本首相は日米合意が「日米両国がアジア太平洋地域の安定と繁栄のために日米安保体制を積極的に生かしていく意思を明らかにするものだ」と強調した。
 読売新聞は、「『普天間』返還で安保の安定化を」との社説を載せた。
 われわれは日米政府にいかなる幻想も抱くこともできない。彼我の攻防は、まさにこれからが正念場である。敵の反転攻勢に、本格的な国民的闘いの構築で応えなければならない。昨年来の沖縄県民の闘いが示してくれた、闘争だけが事態を前進させる力だという教訓をもう一度肝に銘じて広範な戦線を形成しよう。
 嘉手納、岩国の基地強化に反対し、沖縄と全土から米軍基地の縮小・撤去を実現する闘いを一段と強化しよう。安保「再定義」に反対し、極東有事の日米軍事協力体制づくりに反対する闘いにたちあがろう。

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