19960405

沖縄米軍基地の整理・縮小

橋本政権の欺瞞的対応、国民的闘いで打開を


 四月十六日、クリントン米大統領が来日し、橋本首相との日米首脳会談で安保条約の「再定義」を確認し、「日米安保共同宣言」を発表しようとしている。
 それは、米国の国益追求の「東アジア戦略」に追随し、日本がアジアの米軍十万のうち四万七千を引き受け、世界的範囲で米軍の副官の役割を担おうとするもので、「日本の安全」とはまったくかけ離れた「グローバル(地球規模)安保」への再編・強化であり、安保条約の大改定を意味する。この期間そのほこ先が、中国に向けられていることも鮮明になってきた。
 沖縄県民は、この「東アジア戦略」、安保「再定義」が米軍基地の固定化につながるといち早く危惧を表明し、昨年来の島ぐるみの闘いで「基地の整理・縮小」を要求、大田知事は基地強制使用の代理署名を拒否してきた。
 十五日には、日米両国政府で構成する「沖縄施設・区域特別行動委員会」(SACO)で検討してきた整理・縮小問題について、中間報告を発表、日米首脳会談でこれを「評価する」ことになっているという。
 だが、沖縄県民が要求している「目に見える形」の成果など期待すべくもなく、先送りされ、踏みにじられそうなことがはっきりしてきた。
 いっそうの闘いが求められている。国民的闘いの前進だけが、沖縄と全国の米軍基地を縮小・撤去する確かな保障である。沖縄に連帯し、各地で高まりつつある闘いをさらに発展させ、沖縄県民が昨年の県民大会で示したような力を全国民的規模で実現できるかどうか、いっさいがここにかかっている。

踏みにじられる沖縄の願い
 橋本首相は二月のクリントン米大統領との日米首脳会談で、普天間基地の返還問題を口にし、「アメリカ側のよいシグナルを受けた」と述べ、四月の首脳会談まで「成果をあげるようにする」と大見得を切った。
 だが、その後の経過を見るなら何一つ真剣な努力は払われておらず、「成果」などどこにも見えない。
 三月十六日、橋本政権になって初めての第二回沖縄米軍基地問題協議会が開かれたが、政府の回答はゼロであった。
 しかも重大なことは、日米両国政府が合意した「整理・縮小」の基本方針が「既存基地の集約化・効率化」を軸とするという点である。すなわち、あくまでも米軍基地の現有機能を確保することを前提に、「純粋な形での返還」はしない、返還される施設については他の施設内への移設を条件とするというものだ。しかも、本土移設は米軍の機能低下につながり、また本土側市町村の反発が強いことから、「県内移設が中心になる」といわれている。
 現に、沖縄県民が当面最も強く要求してきた普天間基地については、米側が「現段階での返還は困難」(三月二十二日のSACOで)とし、十一月まで先送りとなった。橋本首相は大田知事との二回目の会談の中で、わずか一カ月前の前言をひるがえし、普天間基地返還は「非常にきびしい」と答えた。
 SACOでの日米間の協議がどんなものか当の沖縄県側にさえ明らかにされていないが、新聞報道によれば、沖縄県内にある米軍の三十八施設・区域のうち嘉手納飛行場など十三カ所ははじめから協議の対象外にされ、ブルー・ビーチ訓練場など七カ所は「返還困難」、残りの十八カ所だけが検討対象になっている。
 沖縄県は二〇一五年までを三段階に分けて基地全面返還を実現するための「アクション・プログラム」を政府に提出しているが、二〇〇一年までの第一段階で新たに返還の可能性が出てきたのはわずか一カ所だけで、これとて移設が条件である。
 さらに、県道一〇四号線越えの実弾射撃訓練の本土移転についても、政府は四月に入ってから移転先の自衛隊演習場の調査を開始する方針で、最終決定は夏以降にずれ込む見通しだという。
 これが橋本首相が沖縄県民に約束した「成果」のすべてである。これは「整理・統合」であって、「縮小」ではない。これでは、あり得てせいぜい沖縄県内での基地の分散で、本土への分散でもない。沖縄県民を愚弄するにもほどがある!
 それだけではない。橋本政権は、三月三十一日に使用期限が切れ、違法占拠状態になった米軍楚辺通信所への知花さんの立ち入りさえ認めないばかりか、六カ月「緊急使用」という強権発動の手段に出た。さらに、すでに返還が合意されている那覇軍港を含む十三施設について、十年間の強制使用申請に踏みきった。
 「誠意を示す」どころか、県民の願いを踏みにじり、基地を押しつける以外のなにものでもない。
 橋本政権の姿勢が、米国に対しては何一つ要求できず、まるで米国の下請け役で県民に犠牲を押しつけるだけであることがはっきりした。 

東アジア戦略、中国敵視が鮮明に
 他方この期間、台湾海峡の緊張と関連して米国の「東アジア戦略」のねらいが鮮明になった。そうした米国の戦略からして、沖縄の米軍基地はまさに「かなめ石」で、なくてはならない存在であることが浮き彫りになった。
 ジム・アワー元米国防総省日本部長は、「朝鮮民主主義人民共和国は短期的な問題だが、中国は中長期的にもっとやっかいな問題になる」「中国に対し、前向きな方向に向かう以外、選択肢がないと理解させるためにも、日米同盟を維持すべきだ」と「東アジア戦略」、安保「再定義」のほこ先が中国に向けられていることを強調した。そのうえで、「安保体制は台湾だけでなく、ほかのシナリオのためでもある。沖縄の米海兵隊は日本が攻撃されることだけを想定して駐留しているわけではない。彼らは米第七艦隊の一部であり、朝鮮半島や東南アジアや中東にも出動し、危機に対応するものだ」と沖縄米軍基地の役割を述べた。
 実に露骨で明快な言い方である。最近の台湾海域への米第七艦隊の出動で明らかになったように、沖縄の米軍基地はまさにアジアから中東までを守備範囲とする第七艦隊と結びついた決定的に重要な出撃拠点である。したがって、米国の「東アジア戦略」に追随する限り、安保「再定義」に踏み込む限り、基地の「縮小」など問題にならないのである。
 『沖縄タイムス』が社説で、この肝心な問題を指摘し、橋本政権に沖縄の基地と日米安保の関係をとらえるビジョンも構想もないことを厳しく批判している。「基地の整理・縮小を本気で求めようとするなら米国防総省が編んだ『東アジア戦略報告』の内容にも日本としての検討を加えるべきである。単に米国の言いなりになるような下請け的になるようでは沖縄の基地問題は、解決への糸口すら見いだせないだろう」。まったくそのとおりである。

アクションプログラム支持の国民的運動を
 最近発表された米国の国防報告でもあらためて「東アジアでの米軍十万体制」堅持を強調し、四万七千の在日米軍の縮小はありえないといっている。
 橋本政権の「東アジア戦略」への追随、沖縄基地問題は「あくまで国内問題」という態度では「解決への糸口すら見いだせない」。橋本政権のぎまん的、売国的対応を暴露し、国民的闘いで事態の打開を図るべきである。
 米軍基地の固定化に反対し、沖縄県が提起した「国際都市構想」と基地返還の「アクションプログラム」を支持し、政府に実行を迫る広範な国民的運動を全国でまきおこそう。
 基地をなくし、アジアとの共生の中で発展しようとの構想は沖縄の経済界、自治体関係者を含む広範な県民に支持されているだけでなく、本土の財界の一部や学者文化人の間にも、自治体関係者の間にも関心、共感、支持の機運が広がっている。
 この運動は広範な人びとをとらえ、「基地のない平和な沖縄」づくりの推進力となろう。さらに、安保「再定義」によって、わが国が米国の「東アジア戦略」に深く組み込まれ、中国と対立し、アジアから孤立する道をはばむ大きな力をつくろう。
 昨年来の沖縄県民の闘いは歴史を切り開く巨大なエネルギーが国民の中にあることを示し、以降沖縄に連帯する全国での闘いが広がっている。沖縄基地の移転候補地、岩国市や湯布院町では自治体ぐるみの闘いが開始された。楚辺通信所は違法占拠状態となり、政府は窮地にたたされている。情勢は有利である。

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