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2022年6月5日号 1面

日米首脳会談―わが国を中国敵視の最前線に

沖縄を再び戦場にするな

 岸田政権になって初の本格的な日米首脳会談が5月23日行なわれた。
 ロシアのウクライナ侵攻から3カ月、ウクライナの戦乱は米欧各国を巻き込んで長期化している。またコロナ禍で悪化した世界経済は、ロシア制裁によるエネルギー、食料、資源の高騰などいっそう危機的な様相を呈している。
 米国は、眼前のロシアとの戦いに力を割かれ、最大の戦略的な競争相手であるアジアでの中国との争いに力を集中できなくなっている。日本を中国と対立させ覇権を維持しようとしてきた米国は、巻き返しのため、わが国へ軍事的・経済的貢献をいちだんと求めている。また、韓国や米英豪(AUKUS)の同盟国、日米豪印(クアッド)など多国間の枠組みを対中国の前面に立たせようと策動を強めている。
 すでに昨年3月の日米外務・防衛担当閣僚会合(2プラス2)で日米同盟を強化し、わが国を対中国の前線に立たせる方向を打ち出した。4月の菅・バイデンの首脳会談で、それを再確認し、共同声明に「台湾」を明記した。以後、日米共同で作戦計画などが練られ、南西諸島での基地建設とミサイル配備、頻繁な合同軍事訓練などが急ピッチで進んだ。
 ロシアのウクライナ侵攻で、多極化していた世界は軍事力による覇権争奪が公然化する時代に入った。欧州ではドイツが軍備増強に舵を切った。それを横目に岸田やわが国支配層は焦って「ウクライナは明日の東アジア」とあおり立てている。外交では「日本独自の役割」を強調し、岸田首相を先頭にインドや東南アジア諸国を走り回り、米国に代って対中国戦線に引き入れようと狂奔している。
 そういう中での日米首脳会談であり、わが国は以前にも増して米国の先兵としての役割を買って出ることになった。これは最大の貿易相手国である中国との対立を激化させ、アジアに分断を持ち込み、平和と安定に逆行する道である。

対中国の最前線に立つ
 発表された共同声明では、日米同盟を「自由で開かれたインド太平洋」への礎としてかつてなく強化することを確認した。
 声明は、ひと言で言えば中国へのけん制・対抗に満ちたものであった。
 岸田首相は、わが国の「防衛力を抜本的に強化し、その裏付けとなる防衛費の相当な増額」という決意を表明した。同盟国への核攻撃を自国への攻撃とみなして核で反撃するという「拡大抑止」についても踏み込んだ。こうした「抑止力論」は、際限のない軍拡競争となり、緊張を高め、偶発的な軍事衝突を引き起こしかねない。
 また、サイバー・宇宙、新技術での協力や日米で安保戦略を整合させ、日米間の任務・役割の進化、共同の能力強化など軍事面での一体化をさらに進めることを確認した。
 経済分野では、経済安全保障を強化することで一致し、閣僚級の日米経済政策協議委員会(経済版「2プラス2」)についても7月開催を合意した。これは、軍事だけでなく経済でも中国対抗のための日米の一体化を推し進めるものである。またバイデン政権が新たに提唱したインド太平洋経済枠組み(IPEF)への日本の参加も表明した。米国の狙いは中国を排除した経済枠組みの構築であり、地域に分断を持ち込むもので、成功する見込みはない。
 共同声明で、政治・軍事や経済のいずれの分野においても岸田政権が米バイデン政権の対中包囲網に積極的に呼応していくことが貫かれた。岸田首相は対中国の最前線に立つことを宣言したのである。

意図的な台湾有事「失言」
 共同声明では台湾問題について「台湾に関する両国の基本的な立場に変更はない」としたが、バイデン大統領は記者会見で、「台湾有事」の際、米軍が介入するかと問われ、「イエス」と肯定した。
 ホワイトハウスは「従来の政策に変更はない」としたが、バイデンの台湾有事問題でのこうした意図的な「失言」は、今回が初めてではない。
 歴代米政権は、態度を明確にしない「あいまい戦略」をとってきた。この「失言」は、あえて従来の方針を転換したと受け止められるように「意図」されたものである。
 バイデン政権の意図は、ウクライナでロシアを挑発して戦争に引きずり込んだように、「台湾有事」をあおって中国を軍事的にも挑発し、アジア人同士を戦わせようというものである。
 ロシアにとってウクライナの北大西洋条約機構(NATO)加盟が「死活的」な問題であるように、中国にとって「台湾の独立」は中国の主権にかかわる死活的に重要な問題である。ロシアのウクライナ侵攻は明白な「主権侵害」だが、中国にとっては国の主権を守るための「内政問題」である。わが国や米国が台湾の「独立」を唆せているのは明白な内政干渉である。
 だがバイデン「失言」に、岸田首相は米国の意図を承知の上で容認し、佐藤・自民党外交部会長は「最高の失言」と有頂天になっている。「台湾有事は日本の有事」と軍事大国化を進める世論づくりに、安倍や麻生らも「明確なメッセージが発せられた」と大歓迎している。
 わが国のマスコミも一斉に色めき立って「台湾有事」の世論づくりに加担している。
 しかし、台湾問題が中国の不可分の一部であり内政問題であることは、わが国も1972年の「日中共同声明」で認め、以降も再三にわたって日中間の文書でも確認してきたことである。台湾は独立国ではなく、中国の一部に過ぎない。「台湾は中国の一部」という認識は、51年前にすでに台湾「政府」を国連から追放するなど国際的に合意されていることである。中国への内政干渉は到底容認できない。
 中国は「日本がかつて侵略と拡張によって台湾地区を強奪し、50年間にわたり植民地支配し、台湾同胞に甚大な惨禍をもたらしたことは、周知の通りだ。日本には台湾地区問題についてあれこれ言う資格はまったくない」と強く反発しているが、当然である。
 わが国は「台湾有事」で抜き差しならない危険な道にさらに踏み込まされた。だがまだ引き返せる。

独立・自主の国の進路を
 米国は、没落の淵から這い上がろうと死に物狂いである。追ってくる中国を蹴落とすために悪あがきの限りを尽くしている。アジアではわが国を対中国の最前線に立たせ、軍事的緊張をあおっている。
 岸田政権は、米国に追随し、先兵となって中国を敵視する軍事大国化の道をひた走っている。安倍ら右派は、アジアでの覇権を握ることを夢想して、大多数の国民の福祉や医療、社会保障をはじめ国民生活のあらゆるところに犠牲を押し付け、軍備増強を強引に進めようとしている。
 野党も、対米従属に代わる対抗軸を打ち出せず、まさに「挙国一致」とも思える状況である。
 立憲民主党は「米国の日米同盟及びインド太平洋地域への揺るぎないコミットメントを歓迎する」(泉代表談話)と手放しで評価している。相変わらず「日米基軸」を信奉し、岸田自公政権に対する対抗軸を打ち出せぬままである。しかし、岸田自公政権の対米追随・中国対抗の安保外交政策に批判的な議員や党員も少なからずいる。
 日本共産党はバイデン大統領による「台湾有事」発言を批判しつつ、「中国が行っている軍事的圧力や威嚇の強化には断固反対」と言い、果ては「大切なのは台湾住民の自由に表明された民意を尊重すること」(志位委員長談話)などと中国の内政問題である台湾問題に干渉する有様である。この党は米国の対中包囲網の形成が強化され、歴代自公政権が積極的に呼応するなかで、中国非難の旗振り役を演じてきた。わが国岸田自公政権がさらなる対中対抗を強めるなかで、きわめて犯罪的である。
 まさに「台湾有事」が現実味を帯びる状況であり、いったん戦端が開かれれば、真っ先に沖縄が戦場になる。その沖縄から「再び沖縄を戦場にするな」の声が上がっている。またこの間、「台湾有事」を想定して、九州地方における米軍基地の機能強化や自衛隊の水陸機動団の新設など軍備増強が進められ、わが国全土が対中包囲網の最前線に立たされようとしている。
 犠牲にさらされるのは労働者をはじめ国民大多数である。米国に引きずられ、迫られて、国を滅ぼしてはならない。
 わが党は「台湾有事」策動に反対する一大国民闘争を呼びかける。国の命運を決する時期であり、とくに労働運動が「台湾有事許すな」と声を上げることが重要である。またこの状況を憂う政治家、各級議員、学者・文化人にも呼びかける。とりわけ青年が先頭に立って闘うことを訴える。
 今こそ、独立・自主、中国をはじめアジア諸国と平和のうちに共に生きていく国の進路を打ち立てる闘いを全国で前進させよう。


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