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2022年3月25日号 2面・解説

米国の衰退と多極化する世界

帝国主義の思い通りにならず

ウクライナ危機は冷戦終結後の世界秩序の崩壊を決定づけた
 ウクライナの戦況は予断を許さず、現状では停戦の見通しも立たない。米欧日などの帝国主義国は、ロシアへの過酷な制裁に踏み切る一方、武器供与を続け、停戦・和平に向けては何ひとつ動かず、ウクライナで多くの犠牲者が出ても「川岸から対岸の火事を見物」するような卑劣な態度をとり続け、帝国主義の残酷な本性をあらわにしている。
 過酷な制裁は、ロシアに直接打撃となるだけでなく、「返り血」を浴びる制裁国、さらに制裁に加わっていない多くの国々を巻き込む。コロナ禍で打撃を受けている世界経済に大きなリスクをもたらす。制裁が長期化すれば、世界経済のリスクはさらに国際関係を緊張させ、これまでの世界秩序を変化させ、世界の「多極化」は加速する。
 わが党は、すでに冷戦終結後の世界が、米国の一極支配から、帝国主義諸国と力をつけてきたBRICsなどの新興国・途上国を含めた「特殊な多極化」した世界となったとしてきた。
 この多極化は、かつてのような帝国主義列強間の力関係の相対化ではない。新しく成長を遂げた諸国は、連携もしながら、帝国主義諸国と時に手を結び時に反対し、取引きしながら自国の強化を図って進んできた。米国の衰退と併せて世界政治は複雑化、多様化しているのである。

米欧帝国主義と追随する日本は力の限界をさらす
 米欧帝国主義とそれに歩調を合わせる日本の常軌を逸した過酷な制裁だが、制裁に加わっている国は世界の中では少数である。多くの国が制裁に反対か、中立の態度である。
 米国は先の米中首脳会談で「ロシアを支援すれば制裁する」と示唆して中国に対する恫喝を行った。だが、中国は「各方面が共に当事者間の対話と交渉を後押しし、早期に停戦を実現し、民間人の犠牲、人道的危機の発生を防ぐことだ。長期的道筋としては、冷戦思考を捨て去り、ブロック対立をせず、均衡の取れた、実効性のある、持続可能な地域安全保障枠組を真に形成すること」という原則的立場を堅持して、米国の脅しに屈しなかった。
 岸田首相は、主要七か国(G7)の先棒を担いで、クアッドの一員であるインドと今年の東南アジア諸国連合(ASEAN)議長国のカンボジアを訪れ、対ロシア制裁に引き込もうと画策した。だが共同声明には「ロシア」の国名さえ盛り込めず、失敗した。
 世界を見渡せば、ロシア制裁に反対、あるいは中立という国が多数である。「西側」の帝国主義に好きなようにやられてきた中東、中南米、アフリカ、アジアの多くの国はそうである。米国が旗を振る「自由」や「民主主義」などという「価値観」は、「かれら」だけのものであって、それ以外の者たちには何の恩恵ももたらさなかったからである。

中東・中央アジアでの米英の地位は低下している
 昨年夏のアフガニスタン撤退の失態劇で、米国とそれに追随した北大西洋条約機構(NATOの)諸国は世界中に恥をさらした。米国は独・仏の反対を押し切ってイラクに攻め入って手痛い敗北を喫した。米英はシリア内戦にも介入したが、ロシアが支援するアサド政権がほぼ勝利を手中にした。こうして中東や中央アジアでの米英の地位は大きく低下した。
 それだけでなく、明らかにアラブ諸国の米国離れが進んでいる。
 シリアのアサド大統領が三月十八日、アラブ首長国連邦(UAE)を訪問しアブダビのムハンマド皇太子らと会談し、「シリア領土の一体性」を確認した。ムハンマド氏は「シリアはアラブの安全保障の柱だ」と強調し、シリア政治の安定や人道支援への協力を伝えた。UAEはアラブ諸国とシリアの関係改善の取り組みを主導しており、今年に入りシリアが参加資格を停止されているアラブ連盟復帰を求めた。アサド政権を認めない米国務省はプライス報道官が「アサド政権を正当化させる試みに深く失望し、困惑している」と語った。十五日には、米英独仏伊の五カ国が、シリアとの関係改善の動きを「支持しない」とする共同声明を出していたが無視された。  さらに、三月十五、十六日、英ジョンソン首相と米国家安全保障会議(NSC)高官が相次いで世界最大の産油国サウジアラビアを訪問し、原油を増産し、ロシを孤立へ加わるよう働き掛けたが、サウジはこうした要請に応じなかった。それだけでなく年内には中国の習近平主席を招き両国関係を強化することを明らかにしている。また石油代金の一部「人民元」による決済も検討されている。また、ロシアも加わる「石油輸出国機構(OPEC)プラス」の緩やかな石油増産協定を堅持している。
 イラン核合意やイエメン内戦など地域の課題は多いが、アラブ諸国への米英の影響力は小さくなった。
 さらに地域の大国であるトルコはNATO加盟国だが、ロシアやウクライナとの関係も深く、今回の危機で和平の調停役を買って出ている。昨年十一月には、中央アジアのアゼルバイジャンやカザフスタンなど五カ国で「チュルク諸国機構」を設立、この地域での影響力拡大を図っている。
 中東や中央アジアでも米欧帝国主義の影響力が及ばない地域が拡大している。

アフリカ・中南米などでも米欧批判の声高まる
 先の国連緊急特別総会での「ロシア非難」決議では五十カ国以上が棄権、不投票、反対に回って、世界がロシア非難一色ではないことが示された。
 とりわけアフリカでは、アフリカの五十五カ国が参加する世界最大の地域機関であるアフリカ連合(AU)のうち約半数の二十六カ国が反対または棄権、不投票だった。
 決議を棄権した東アフリカ・ウガンダのムセベニ大統領は、「日本経済新聞」の取材で、ウクライナをめぐる日米欧とロシアの対立について「アフリカは距離を置く」と表明し、アフリカの混乱に責任があるとする欧米がウクライナに肩入れする状況を「二重基準」などと批判、中国などアジアの新興国との協力強化に期待を示した。ムセベニ氏は「互いが互いを脅かさないことが重要だ」として、アフリカは巻き込まれるべきでないと語った。また、欧州が歴史的にアフリカを搾取したことや、NATOのリビア空爆でカダフィ政権が崩壊したことが地域へのテロ拡散につながったなどと述べ、ウクライナへの肩入れは「二重基準」「欧米の浅薄さ」などと批判した。ウガンダは来年百二十カ国が参加する「非同盟運動」の議長国に就任する。
 また、南アフリカのラマポーザ大統領は十七日、NATOの東方拡大が地域を不安定化していると非難し、ロシア非難の呼び掛けに抵抗すると表明した。「ロシアに対し非常に敵対的なスタンスを取るべき」という主張に対して、「われわれがめざすアプローチは対話だ」と強調した。
 また西アフリカ・マリでは、暫定政権とフランスの関係が悪化し、テロ対策のために駐留してきた仏軍を主力とする部隊が二月に撤収を余儀なくされた。代わりにロシアの民間軍事会社が入ることになった。
 二〇一〇年のいわゆるチュニジアの「ジャスミン革命」から始まった北アフリカ・アラブ諸国の「民主化」革命もその後とん挫し、米英が画策した「民主化」とはほど遠い状況になっている。
 アフリカでも中国やロシアの影響力は広がっている。  中南米・ブラジルのボルソナロ大統領も、ウクライナ侵攻直前に訪ロしプーチン大統領と会談、肥料の買付などを決め、制裁には加わっていない。

アジア、ユーラシアでは中ロの影響力拡大
 中国、ロシアなどが主導しインド、パキスタンなど九カ国が加わっている上海協力機構(SCO)は、加盟国の総人口は世界の半分近くを占める三十億人の人口とほぼユーラシアの大半をカバーする。
 東南アジア諸国連合(ASEAN)も、加盟国内の結束を強めつつある。

世界の多極化の流れはさらに加速する
 今回のウクライナ危機で、NATO諸国は一時的に結束を強化し、溝が広がっていた米国との協調も強まっているように見える。だが、英国はEUを離脱、EUも独自の即応部隊の創設を決めた。しばらくはロシアとの対峙が続き、欧州諸国とロシアとの分断は深まると思われる。一方で世界の多極化は見てきたように加速している。単純にユーラシアでの欧州と中ロとの「新冷戦」になるとも言えない。
 世界は「特殊な多極化」の流れの中で複雑、多様な国際関係となる。
 こうした時代に、アジアでの盟主の座を狙って米国と歩調を合わせながら、中国を敵視しながら軍事大国化の道に踏み込んでいるわが国、岸田政権の外交・安保政策はまったく「時代錯誤」と言わねばならない。
 労働者、労働組合は、時代の流れを正しく認識して、独立・自主の国の進路のために闘おう。(Y)


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