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2022年3月15日号 2面・解説

バイデン米大統領の一般教書演説

米国の凋落隠せず

 バイデン米大統領は三月一日、連邦議会で今年の施政方針を報告する一般教書演説を行った。今年の演説も昨年に続いて異例の遅い日程だった。

4分の1はロシア非難
 今年の一般教書演説は昨年の施政方針演説の半分程度の長さだった。しかも演説では、昨年の成果や米国内の課題、政策などを後回しにし、冒頭からロシアのウクライナ侵攻を非難する演説となった。対立する共和党議員を引き付ける狙いもあったのだろう。演説全体の四分の一がロシア非難に費やされ、経済制裁をはじめさまざまな制裁措置、ウクライナへの軍事、経済支援などに言及した。
 バイデン氏は、ロシアの軍事進攻に対して、欧州の同盟国を団結させるために「注意深く準備した」と述べた。米国は事態の平和的解決のための外交的努力はやらなかったし、真偽は分からないが、あたかも最初から罠(わな)を仕掛けたかのような発言だった。
 また「米軍はウクライナでのロシア軍との紛争には関与しない」と明言したが、ウクライナへの武器提供など軍事支援を行なうと述べた。さらに北大西洋条約機構(NATO)同盟国の防衛のためポーランドなどへ米軍を増派すると述べ、ロシアへの敵対と圧力を強化すると表明した。
 演説では、ウクライナで多くの犠牲者が出ていることにはひと言も言及はなかった。また、独・仏などのロシアとの平和解決の努力にも触れなかった。バイデンは、和平のための外交努力はやらずロシアを叩き潰すことだけしか語らなかった。
 バイデン政権は発足時から世界を「民主主義対専制・強権政治」の二つに分けて、昨年末には「民主主義サミット」を開催するなど、「西側」の同盟を再構築して力の衰えを補うことに躍起になってきた。
 今回のロシア非難の演説も、米国が世界を「民主主義と専制政治」に分断し、中国やロシアを敵視し、世界を不安定化させている張本人であることを自己暴露するものだった。

成果乏しい内政
 昨年の施政方針演説では、内政について、コロナ対策、米国救済計画、米国雇用計画、技術革新、米国家族計画、医療保険制度、税制改革などについて大型の財政政策を行い、米経済を再建すると打ち出していた。外交では、トランプの「米国第一」から同盟重視への転換、気候変動対策、対中・対ロ政策、アフガニスタンからの撤退・テロ対策を強調した。さらに大統領選挙や議会占拠事件に見られるような国内の対立・分裂を修復するため、人種・女性・ジェンダー、銃規制、移民問題、選挙、民主主義再建などについての方針を述べた。
 だが、今年の演説は、内政の課題や方針についても昨年のほぼ半分の長さだった。演説全体の半分は、経済、財政、雇用、家計、ワクチン接種などコロナ対策などの方針について、残りの四分の一で、女性、保険医療、共和党が進めている選挙権への攻撃に反対すること、犯罪防止などの社会問題が深刻であることについて述べた。  バイデンとしては、演説の日程を遅らせて、わずかでも内政で前進、成果があるように見せようとしたが、看板政策でほとんど成果がなく、演説内容もお粗末なものとなった。バイデンの狙いは失敗した。
 バイデンは演説で、処方薬の価格引き下げや気候変動対策、育児のコスト削減なも優先課題として訴えた。これらはいずれも民主党支持層の左派に配慮したもので、いずれも看板政策である一・七五兆ドル(約二百兆円)規模の大型歳出法案に盛り込まれていた政策である。だがこの看板政策は党内の左右の対立で法案を可決できず、宙に浮いたままである。バイデンは、左派の支持を固めるため、法案の中で支持を得やすい政策をわずかにでも切り出して成立をめさざるを得ないのだが、これも実現が危ぶまれている。看板政策で成果がなかっただけでなく、「米国救済計画」での大盤振る舞いで各州で放漫財政がまん延している。またコロナ禍の影響による供給不足で急速なインフレが進行するなど内政はあちこちで行き詰まっている。政権発足時の演説では大型経済対策など内政で大風呂敷を広げたが、掲げた公約を実現できず、演説でも焦りがにじみ出た。
 外交面ではロシア非難一辺倒に終始し、最大の競争相手である中国についてはわずか二回触れただけで、先に発表した米国の「インド太平洋戦略」やアフガニスタン撤退についてはひと言も言及しなかった。

政権運営も不透明
 バイデン氏は演説で最後に「われわれは一年前よりも強くなっている。そして一年後は、今日よりも強くなっているだろう」と虚勢を張ったが、力の衰えは隠せなかった。
 バイデン氏はロシア非難の演説の中で、不人気の原因であるガソリン価格高騰に触れ、「戦略石油備蓄から三千万バレルを放出する。こうした措置でガソリン価格を抑える」とわざわざ付け加えざるを得なかったのである。
 この一般教書演説について、米CNNの世論調査では「非常に良かった」と回答した人はわずか四一%で、過去十五年間の一般教書演説後の世論調査で最低の低さだった。またインフレ対策と暴力犯罪対策について過半数の人が、不十分だと回答した。また圧倒的多数の人が「地球の反対側の紛争より経済の方が重要だと感じている」(六四%対三六%)という結果も出るなど散々な評価だった。
 この一年間のバイデン政権の支持率は下がりっぱなしである。無様なアフガン敗走劇を演じた昨年九月以降も支持率は下がり続け、今年二月時点で三七%と政権発足以来最低となった。不支持率は五五%にのぼっている(ABC・ワシントンポスト紙調査)。
 バイデン政権を待ち受けているのは、十一月八日の米議会中間選挙である。選挙では上院の三分の一議席(三十四議席)と下院の全議席(四百三十五議席)が改選される。
 元来、米中間選挙では大統領与党に厳しい結果となることが多く、このままの低い支持率では、民主党の苦戦は必至である。しかも現在、上院(定数百)は民主、共和両党は議席は五十議席ずつの同数で拮抗しており、上院議員選挙で一議席でも共和党に及ばなければ、バイデン政権はレームダック化し、以降の政策遂行は難しくなる。内政の行き詰まりを打開は難しく、ウクライナ危機など激動する世界情勢にバイデン政権はうまく対処できるか、きわめて危うい。米国内の分断、対立、階級矛盾はいちだんと深刻になり、次期大統領選挙へ向けても米国内の政治闘争は激化は避けられない。(H)


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