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2022年3月15日号 1面〜2面・社説

ロシアはウクライナ
侵攻をやめ即時停戦を

ロシア経済制裁とウクライナ
軍事支援反対、米欧はNATO
拡大をやめ平和解決をめざせ

 米欧帝国主義諸国はロシアへの過酷な経済制裁に踏み切り、ウクライナへの大量の武器供与などで事態をいっそう悪化させている。わが国、岸田政権もロシア制裁に加わった。制裁はさらに事態を悪化させ、世界を危機に陥れるだろう。
 戦火の拡大に対して、ロシアの即時撤退を求めて全世界で反戦の声が高まっている。この声をさらに広げなければならない。労働運動も行動を起こすべきである。
 冷戦終結後の米帝国主義を中心とする世界支配が劇的に崩れる中で、わが国の独立・自主の生き方が深刻に問われている。岸田政権は、経済制裁から直ちに離脱して、制裁に加わっていない中国、インドなど新興国、世界の大多数の国々とともに平和的解決の外交的努力を開始すべきである。米国にロシアの死活的脅威となっている北大西洋条約機構(NATO)東方拡大策の放棄とウクライナへの軍事支援の中止を、ロシアに即時停戦を強く求めるべきである。

1、経済制裁は事態をさらに悪化させる
 ロシアによるウクライナ侵攻は本格化し、双方の戦死者、民間人の死傷者は増え続けている。国外への避難民も二百五十万人を超え日々増え続けている。ロシアとウクライナの協議は断続的に行われているが、停戦に向けた歩み寄りは全く見られない。また、トルコ、イスラエルなどが和平の仲介に乗り出しているが、いまのところ進展はない。これ以上の犠牲を出さないためにも、ロシアは即時停戦し、軍隊を撤退すべきである。
 だが、米英や欧州連合(EU)、それにわが国も停戦、和平へ向けた外交努力を行なうどころか、ロシアに対する過酷な制裁に踏み切り、事態をさらに悪化させている。NATO諸国は、ウクライナに対する武器供与や軍事費援助、ロシアの同盟国ベラルーシへの制裁など和平に逆行する動きを強めている。断じて許されないことである。
 「戦争反対」というのなら、直ちにロシアへの制裁をやめ、ウクライナへの武器供与や軍事援助を停止せよとの声を上げなければならない。ロシアの重大な脅威となっているNATO東方拡大を撤回させなくてはならない。

2、経済制裁は世界経済の危機をさらに深める
 米国が主導したたロシア制裁は、ロシア経済と国民生活に大きな打撃を与えるだけでなく、制裁参加国にも「返り血」どころでない打撃となろう。さらに世界経済全体に大きなリスクとなって、経済危機の進行を加速させる。
 リーマン・ショック後の世界経済は、大規模な金融緩和で空前のバブルをつくり出して、多国籍大企業がばく大な利益をむさぼる一方、大多数の労働者・人民を貧困の底に突き落とした。富の偏在と絶望的な貧困が世界中に広がり、不満と政治不信が拡大した。コロナ禍で各国はさらなる金融緩和と財政出動に追い込まれた。コロナ危機は収束が見えない中で、資本主義の危機を加速させ、その「破局」を不可避にしている。今回のウクライナ危機は世界経済危機をさらに加速・深刻化させている。帝国主義諸国は生き残りをかけ、危機をロシアなど他国に転嫁しようと襲い掛かっている。
 米国、EUはロシア中央銀行の各国内の資産凍結などを手始めに、国際的な資金決済網の国際銀行間通信協会(SWIFT)からロシアの主要七手銀行を締め出した。わが国もこれに追随した。ロシアは金融面のほか、海運、航空、鉄道などもしゃ断や迂回などを強いられ、物流・貿易などが縮小している。またロシア進出企業の合弁の解消、撤退、事業停止などが相次いでいる。米国はロシア産石油、天然ガスの輸入を禁止した。EUもロシアへの石油、天然ガスなどエネルギー依存を減らすことを決めた。ドイツはガスパイプライン「ノルドストリーム2」の事業認可を取り消した。
 こうした制裁は、短期的にはロシア経済の打撃となり、国民生活を直撃し、政治を不安定にしかねない。こうやってプーチン政権を揺さぶり、その瓦解を狙っているのだろうが、これは制裁参加国にも跳ね返る。とくにロシアとの経済的結びつきが強い欧州では、エネルギー供給の不安定化、価格上昇、貿易や投資の縮小、金融面での影響が大きい。また独・仏などEU中心国よりも東欧や旧ソ連圏の小国への打撃が大きいと見られている。長期化すればEU内部の不安定化につながるであろう。
 ロシアからの資金の流出、通貨ルーブルの下落が続き、国債の債務不履行(デフォルト)の危機も増大している。そうなれば国民は耐え難い犠牲を強いられる。さらに多額のロシア債権を保有する欧州などの金融機関にも跳ね返り、新たな金融危機の火種となり得る。
 西側による制裁の世界経済への影響は、エネルギー・鉱物・食料、貿易・サプライチェーン(供給網)、投資、金融、サイバー、国際関係など多方面に広がると見られ、すでに影響は広範囲に出始めている。
 ウクライナ危機以前から、供給不足や物流の停滞などで石油、ガスなどエネルギー、小麦など穀物、鉱物などの原材料などの価格が高騰していたが、制裁によってさらに拍車がかかっている。世界的なインフレの進行はコロナ禍で拡大した貧富の格差をさらに拡げる。米国でもインフレが深刻だが、とくに非資源国・食料輸入国は深刻となろう。
 だが、世界は制裁一辺倒というわけもでもない。踏み切っているのはEUと米国、英国、日本など四十カ国程度に過ぎない。ロシアの最大の貿易相手国である中国やロシアとの伝統的な友好国であるインドなどは制裁には加わっていない。アジアでは日本、韓国、台湾のほか東南アジア諸国連合(ASEAN)ではシンガポール一国だけである。制裁に参加しない中国の存在感はさらに高まろう。危機の広がりは一様ではないが、各国の経済は深く結びついており、世界経済は大きく揺さぶられる。
 コロナ禍で世界は歴史的な経済危機は深まり、経済回復もまだら模様である。それはまた、各国の労働者・国民各層の生活をいっそう苦しめ、階級矛盾の激化は各国内の政治を揺さぶり、資本主義の世界体制の寿命はさらに縮まることになる。

3、冷戦終結後の世界秩序は劇的に変化した
 冷戦終結後の世界は、米国を頂点とした世界秩序が生まれたかのようであった。だが、「米国一強」は一時的で、統合されたEU、急速に台頭した中国、ソ連崩壊後の後退から復活したロシア、インドなど新興諸国が成長し、各国間の力関係は大きく変化した。BRICsに見られるように米国の力が及ばない多国間関係が生まれた。
 この多極化は、かつてのような帝国主義列強間の力関係の相対化ではない。新しく成長を遂げた諸国は、連携もしながら、帝国主義諸国と時に手を結び時に反対し、取り引きしながら自国の強化を図ってきた。米国の衰退と併せて世界政治は複雑化、多様化した。
 米国は世界覇権の維持のため中東など世界各地でさまざまな悪あがきをしてきた。だが、独・仏なども反対する中で強行したイラク戦争で敗北を喫するなど全世界で反米の嵐にさらされた。さらに昨年のアフガン撤退劇に見られるように決定的に力の衰えをさらした。
 ソ連崩壊後、NATOの東方拡大など「西側」から押し込められてきたロシアは、こうした米国の衰退を見極めて反撃に出たといえる。ロシアのウクライナ侵攻は、冷戦終結後の世界秩序が最終的に崩壊して、これまで帝国主義に政治的・経済的に搾取・収奪・支配されてきた新興諸国・途上国が、公然と米国を中心とする帝国主義諸国の支配に対抗、反撃が起こる時代となることを示唆(しさ)している。
 三月二日の国連緊急特別総会で、ロシア非難決議が可決されたが、中国、インド、南アフリカ、ベトナムなどが棄権し、不投票、反対も含め賛成しなかった国が五十カ国以上出た。世界がロシア非難で一致したわけではない。新興国・BRICsは共同歩調をとっている。
 米欧日は非難決議を口実にロシアへの攻撃を強めているが、世界の大多数の国がロシア制裁には参加していない。世界は「多極化」しているのである。プーチンの国際的発言権は大きな打撃を受けるが、多極化した世界の今後の動向はより複雑になろう。こういう世界でわが国の生き方が厳しく問われている。

4、岸田政権によるロシア制裁に反対し、平和解決へ踏み出すことを要求しよう
 わが国、岸田政権は、ロシア非難を声高に叫び、米英欧などとともに経済制裁にも加わった。ウクライナへの防衛装備品の供与も決めた。
 安倍、菅、岸田など歴代政権は凋落する米国と歩調を合わせて、アジアでの盟主の座を狙って中国への対抗を強めてきた。昨年四月の日米共同声明で台湾問題に踏み込み、台湾有事を口実にした軍備増強に突き進んでいる。
 安倍元首相や高市政調会長らは、ウクライナ危機と台湾有事を結びつけて中国への対抗といっそうの軍備増強を叫んでいる。二月二十七日の「米国との核共有」発言などを契機に、日本維新の会など一部野党も呼応して「核共有」議論を進めるという策動も強まっている。「敵基地攻撃能力」や核武装の議論が公然と語られている状況を許してはならない。
 中国への軍事的対抗のための日米の軍事的一体化も格段に進んでいる。多国間の共同軍事訓練も頻繁にやられている。さらに日米豪印(クアッド)、英米豪(AUKUS)などの中国包囲網づくりが進み、アジアでの緊張も高まっている。わが国支配層、岸田政権が進めている「国家安全保障戦略」などの改定は、米国との軍事一体化をいっそう進め、中国や朝鮮民主主義人民共和国、ロシアなどとの軍事的緊張を高めるものである。これは、アジアでの緊張をますます高め、わが国を国際的孤立に導き、国民生活も犠牲にする亡国の道である。
 だが、国会論戦などを見ても、野党は安全保障政策で自公与党と明確に対決できていない。日米基軸路線では新しい日本の生き方を提起できないのは明らかである。それだけでなく、共産党は、中国を覇権主義と攻撃し、北京冬季五輪ボイコット」を声高に叫んだり、「中国人権非難決議」「ロシア非難決議」でも政府を弱腰となじるなどして、帝国主義の側に立って、アジアでの緊張をあおる極めて犯罪的な役割を果たしている。
 安倍、菅、岸田など自民党政権の積極的な対外政策の背景は、わが国の相対的な衰退と世界での地位の低下である。多国籍企業が市場・資源・技術など国際競争を勝ち抜くために、「強い政治」の復活を必要としている。だが中国の台頭など多極化した世界で岸田らの内外政治でわが国の「復活」は可能だろうか。別の道が求められている。
 いま全国各地でロシアの軍事侵攻に反対する反戦の声が高まり、集会やデモなどが行なわれている。労働組合なども即時停戦に向けた見解を出している。こうした平和を求める行動は当然である。だが、ロシアを一方的に非難し、米国やNATOの策動への批判を避けては事態の解決にはつながらない。より歴史的に見れば、凋落する米国の世界覇権維持のためのさまざまな悪あがきが背景にあることをきちんと見なければならない。そして、これ幸いとばかりに「次は台湾だ」とはしゃぐ米国やわが国支配層への批判を強めなければならない。
 凋落する米国によるロシア制裁に追随してアジアの緊張を高める道は戦争を含む亡国の道である。
 岸田政権に対して、直ちにロシア制裁をやめることを要求しなければならない。中国などアジア諸国と手を携えて、ウクライナ危機の平和的解決へ向けて積極的な外交努力を求める世論と闘いを発展させなければならない。今こそ、労働者がその先頭で闘うことを呼び掛ける。


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