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2022年2月25日号 1面

ウクライナ危機口実に
した岸田政権の軍備増強反対

安倍の「核共有」検討発言糾弾

 安倍元首相が二月二十七日のテレビ番組で、米国の核兵器を自国領土内に配備して共同運用する「核共有(ニュークリア・シェアリング)」について、「世界の安全がどう守られているか議論をタブー視してはいけない」と日本も是非を話し合うべきだと語った。北大西洋条約機構(NATO)に加盟するドイツやベルギーなどが米国の核兵器を共同運用していると指摘し「さまざまな選択肢を視野に入れ議論すべきだ」と主張した。「被爆国として核廃絶目標は掲げなければならない」と断った上での発言としても、米国と核兵器を「共有」して運用するということは日本が事実上「核武装」に乗り出すということである。安倍が「非核三原則を守る」というのはまったくの詭(き)弁である。

与野党幹部が相次ぎ発言
 この安倍発言に呼応するように与野党の幹部から相次いで「核共有」について「議論すべき」という声が上がっている。
 新聞報道などによれば、自民党の高市政調会長は三月一日、非核三原則のうち核兵器を「持ち込ませず」について「国民の安全が危機的な状況になった時に限り、例外をつくるかどうかの議論を封じ込めるべきではない」と記者会見で語った。同日、福田総務会長も「どんな議論も避けてはいけない」と述べた。また日本維新の会の松井代表(大阪市長)は「核共有について議論するのは当然だ」と大阪市役所での記者団の質問に答えた。さらに「非核三原則は戦後八十年弱の価値観だが、核を持っている国が戦争を仕掛けている。昭和の価値観のまま令和も行くのか」と述べて「米国の原子力潜水艦をリースしてもらうというような議論もすべきだ」とも語った。国民民主党の玉木代表も、記者会見で「核共有が現実的かどうかも含めて検討が必要だ」と語り、「持ち込ませず」の解釈についても「何を意味するのか。どこまで形通り順守するのか。安全保障環境の変化の中で議論すべき課題だ」と述べた。
 一方、公明党の山口代表は、「非核三原則を維持すべき」として反対を表明している。
 岸田首相は、二月二十八日の参院予算委員会で「非核三原則を堅持するわが国の立場から認められない」と答弁し、林外相や岸防衛相も「認められない」と言明した。政府は、慌てて火消しに回っているが、「火のないところに煙は立たず」である。

危機口実に軍備拡大狙う
 ウクライナ危機は、政府が進めている軍事費の増額、軍備増強の格好の口実になっている。
 衰退する米国は世界での覇権を維持し、政治、経済、軍事で急速に力を伸ばしている中国を抑え込むため、わが国への同盟強化の要求をいちだんと強めている。わが国支配層も、アジアでの盟主の座を狙って、強大化する中国に対抗し、日米豪印(クアッド)などでの連携を強化している。軍事面でも日米の軍事作戦訓練の高度化や多国間の軍事訓練などを頻繁に重ねている。米国は昨年、米英豪の軍事同盟「AUKUS」を結成し、豪州へ最高の軍事機密である原子力潜水艦の技術供与も決めた。先に発表された米国の「インド太平洋戦略」は、米国単独では中国に対抗できないので同盟国の力を統合して対処しようというもので、わが国支配層にとってはまさに「渡りに船」である。こうした流れに乗って、与党や一部野党の幹部から「核共有を議論すべき」というような声が公然と上がっているのである。政府は「敵基地攻撃能力」論も公言している。これは、世界的な核軍縮を求める声に背を向け、核を背景に中国や朝鮮民主主義人民共和国への威嚇をさらに強め、アジアでの緊張を高めるきわめて危険な動きであり、亡国の道である。

核持ち込みは周知の事実
 米国との「核共有」は、冷戦時代に当時の西ドイツに配備したことが始まりで、現在、NATO加盟国のドイツ、イタリア、トルコなど五カ国が採用していると言われている。そうしたことに日本も公然と加わろうということである。
 かつて米国統治下の沖縄には千三百発の核兵器が貯蔵されていた。山口県の米軍岩国基地にも一時期貯蔵されていた。日米は沖縄の施政権返還を合意した一九六九年の首脳会談で、返還時に核兵器を撤去するが、有事の際は沖縄に核兵器を再導入するという密約を交わした。この密約の存在は二〇一〇年にわが国政府も認めた。
 また、非核三原則でいう「持ち込ませず」の実態は、米軍艦船の日本寄港時の「事前協議」が建て前にすぎず、核持ち込みが「暗黙の了解」のうちに行なわれてきたことは周知の事実である。
 政府や与野党の幹部が「国是」「非核三原則を守る」といっても、この間さんざん「有名無実」化されてきたのが実際である。しかも安倍らはこれを公然と投げ捨てよと言っているのである。
 岸田政権は、今年末にまでに「国家安全保障戦略」(NSS)「防衛大綱」(大綱)「中期防衛力委整備計画」(中期防)の三文書を改定する作業に入っている。米国の衰退を支えながらアジアでの政治・軍事大国化を進めるためのいっそうの軍備増強を許してはならない。
 野党は安全保障政策では明確な対立軸を示して、真正面から政府・与党の軍拡路線と対決すべきである。

安倍や高市らを許すな
 冷戦崩壊から三十年、米国を頂点とした「世界秩序」は大きく揺さぶられている。ウクライナ危機がどう展開するかまだ予断は許さない。だが、ロシアなど当事国だけでなく、欧州や米国、日本など世界各国を巻き込んだ政治、経済危機は世界に広まり、世界政治がいちだんと不安定になることは確実である。
 安倍や高市ら右派は、中国や台湾問題、さらにウクライナ危機を口実に「米国に頼らぬ『自立』した防衛力で有事に備えよ」と叫び、一部野党も巻き込んで軍事大国化、憲法を改悪して、戦争と亡国の道を突き進んでいる。この道ではわが国の将来はない。アジアの平和と互恵、共生の国の生き方を求める広範な国民世論を高めて、中国敵視政策を転換させ、戦争と亡国の道を打ち破ろう。(H)


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