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2021年12月15日号 2面・解説

「民主主義サミット」のお粗末な醜態

バイデン政権の悪あがき象徴

 バイデン米大統領が呼びかけた「『民主主義』サミット」が十二月九日、十日とオンラインで開かれた。百九カ国・地域の首脳の他、NGO(非政府組織)など民間団体も参加した。「サミット」開催は大統領就任時の公約だが、主要な狙いは中国への対抗策の強化とロシアへのけん制である。これに対して、中国は「分裂と対立を扇動する米国の行動は世界に大きな動揺と災いをもたらすだけだ」と批判、ロシアも「冷戦時代の思考の産物で、イデオロギー対立と世界の分裂をあおり新たな分断を生み出す」と強く非難した。当然である。
 サミットのテーマは「権威主義に対する防御」「汚職への取り組みと戦い」「人権尊重の促進」の三つで、各国首脳らのスピーチのほかにも討論会などが行なわれた。さらにこのサミットは今回限りのものではなく、来年も開催して参加国の取り組みの進捗状況などについて再び話し合うとされた。

米国の狙いは対中包囲網
「民主主義サミット」について、米・ホワイトハウスは「民主主義国が公平で持続可能な経済的、政治的進歩を実現できず、国民の不信を招いたため、政治が二極化し、民主主義の規範や制度を弱体化しようとする指導者が台頭している。(中略)権威主義的指導者たちは、ジャーナリストや人権擁護家を標的にし、選挙に干渉し、民主主義を弱体化させるために国境を越えて手を握り合っている」などと現状についての危機感を強調している。そして現在の国際社会は「民主主義と専制主義の戦い」であり、バイデン大統領が「同盟国」と協力してその立て直しを図ろうというものである。
 「民主主義サミット」と訳されるが正しくは「民主主義のためのサミット」が正式名称であり、実際のところ、米国が「民主主義国」と認定した国の集まりというものではなかった。参加国の顔ぶれにはどうみても「民主主義国」とは呼べない国も少なからず含まれていた。
 バイデン氏は二月の外交演説でも「米国は戻ってきた」「同盟国は最大の資産」と言い、トランプ前政権の「米国第一主義」からの転換を打ち出した。そして中国とロシアに対して「米国に対抗しようとする中国の野心」「民主主義にダメージを与えようとするロシアの意志」などと憎悪をむき出しにして「立ち向かう」と宣言した。
 今回のサミットはそうしたバイデン外交の一環であり、同盟国を率いて中国とロシアに立ち向かうための会合であった。だが、今回の参加国の顔ぶれを見るとバイデン政権が進めてきた同盟関係重視とはかなり趣きは違った。

米国の思惑は成功したか
 今回の参加国のうち、ヨーロッパからの参加は三十八カ国・地域だったが、北大西洋条約機構(NATO)加盟国だが「強権」的色彩を強めているトルコとハンガリーが除かれた。一方、中国が影響力を増しつつある中東諸国では参加国はイスラエルとイラクの二カ国のみで、米国ににとって重要なエジプトやサウジアラビアなど湾岸産油諸国も入っていない。これでは米国の「中東離れ」と見られるのは当然だ。
 さらに中国との間で綱引きが激しくなっている東南アジア諸国連合(ASEAN)からはフィリピン、インドネシア、マレーシアの三カ国だけの参加で、米国と関係が良好なベトナムの他、タイ、シンガポール、マレーシアなど重要な国は招待されなかった。中央・南アジアからはインド、パキスタンなど四カ国だったが、中国やアフガニスタンと関係が深いパキスタンは参加を見送った。アフリカからは十七カ国、東アジア・オセアニアからは台湾を含め二十一カ国・地域、北米・中南米からは二十七カ国といったところで、米国の恣意的な選別がうかがえる。招待されなかった国が米国に対し不快感や不信感を持つことは明らかである。
 米国の最大の外交課題の一つはいうまでもなく中国の台頭を抑え込むことであり、今回のサミットが中国への対抗策の一つであることは明らかだ。そのためには「民主主義」であるか否かにかかわらず多くの国との関係構築が重要と思われる。にもかかわらず相変わらず「民主主義とは何かを教えてやる」というような傲慢な姿勢で世界の半分(百九カ国・地域)を選別して召集をかけた。
 米国はとうに世界のリーダーの地位から転げ落ちているが、このような世界をさらに「分断」するようなやり方では、世界で存在感を増しつつある中国と対抗するのは容易ではあるまい。
 今回のサミット参加国が公表される同じタイミングの十一月二十二日、中国はASEANとの首脳会議を開き、慣例を破って習近平国家主席が出席した。そしてASEANとの関係を最高ランクの「包括的戦略パートナーシップ」に格上げするとともに、新型コロナのワクチンの提供など多額の援助を約束するという積極的姿勢に出た。ロシアのプーチン大統領もサミット直前の今月六日にインドを訪問、モディ首相と首脳会談を行なって軍事や安全保障面での連携強化に署名した。
 バイデン政権の対中対抗、対ロけん制策に中国もロシアも着々と対抗策を進めており、米国の思惑通りに進む保証はない。

傲慢な歴代米政権
 共和党、民主党ともに歴代米政権は「米国は世界に民主主義を広める使命がある。時には軍事力による人権擁護の介入は必要だ」(クリントン政権のゴア元副大統領)と民主主義の伝道者のように振る舞ってきた。ブッシュ政権では「米国が発展途上国に民主主義を教えてやるのだ」と言わんばかりにネオコン勢力が政権の中枢を担い、アフガン戦争やイラク戦争に踏み切って、今年夏のアフガンからのぶざまな撤退劇ような大失敗を繰り返している。こうした傲慢ともいえる米国の対外姿勢は多くの国の反発を招いてきた。
 しかも足元の米国内を見れば、所得格差の拡大による貧困や人種差別などで国内の分断がいちだんと激しくなっている。階級対立の激化は政治対立をいちだんと深刻化している。昨年の大統領選挙の結果を受け入れないトランプ支持者が今年一月には米議会に多数乱入して死者も出す事件を引き起こしたり、激しい党派対立の影響で共和党が多数を占める州の多くでは、民主党支持者が投票しにくくなるような選挙法改悪が相次ぐなど、とても「民主主義国」と言える状況ではない。
 中国もサミットに先立って、「中国の民主」白書と「米国の民主の状況」の報告書を発表した。報告書は、米国の人種差別や相次ぐ銃器犯罪などを取り上げ、「米国は自身を民主主義国と言っているが、実態は白人至上主義などがはびこっている」と述べ、米国が他国に「民主主義」の説教をする資格などないと批判した。

支持回復あせるバイデン氏
 バイデン政権にとって来年十一月の連邦議会中間選挙は最大の難関である。民主、共和両党の対立に加えて、民主党内の「左派」と中道派が激しく対立して、目玉政策の経済政策関連予算法案の成立も危ぶまれる事態であり、さらにガソリン価格高騰などで政権支持率が低下し続け、四割台に低迷したままである。中間選挙対策で支持率回復のために国際社会でリーダーシップを発揮する姿を誇示したかったバイデン氏であろうが、「サミットの成果はあまりなかった」ようで、来年の中間選挙で敗北すれば、政権はレームダック化する。そうなれば、来年の再度のサミット開催など吹き飛んでしまう。わが国政府関係者の中からでさえ「参加国について日本側はできるだけ包括的に対応すべきだと伝えたが、結果はそうならなかった。それ以上にオンラインでこうした会議を開いても実質的にはほとんど意味がないだろう」と失望の声も上がっている。

戦略的自立を志向する各国
 バイデン大統領の米国を中心にした同盟構築の呼びかけにもかかわらず、各国はそれぞれの国益に沿って「戦略的自立」をめざす動きを強めている。
 ドイツやフランス、さらに欧州連合(EU)は昨年来、独自の立場から「インド太平洋戦略」を策定して、インドや東南アジア諸国への関与を強めようとしている。対中国ということでは共通点もあるが、必ずしも米国と利害と足並みが一致しているわけではない。さらにアフガンからの撤退劇で大混乱したEUのNATO加盟国の間では米国に対する信頼は地に堕ち、EU独自の即応部隊の創設へ舵を切っている。来年前半のEU議長国はフランス、G7議長国はドイツとなり発言力は増大する。
 米日豪は「クアッド」にインドを取り込んだように見えるが、先の印ロ首脳会談に見られるようにインドは「戦略的自律性」を保ち、中国やロシアとの「上海協力機構」にも加わっている。
 地域大国のトルコやイランも米国の存在感が薄れた中東や中央アジアでの影響力拡大を図っている。
 来年一月には「地域的な包括経済連携協定(RCEP)」がわが国、中国、豪州、ASEANの六カ国など十カ国で発効し、人口、国内総生産(GDP)、輸出貿易額とも世界全体の三割を占めることになる。中国と台湾が同時に加盟申請している環太平洋連携協定(CPTPP)についても加盟国の間では「同時加盟を認めていいのでは」という声も上がり始めている。
 現代の国際社会が「民主主義と専制主義の戦い」などという認識は時代錯誤も甚だしい。
 資本主義は末期で「社会革命が始まっている」時代である。現代資本主義の頂点に君臨してきた米国の衰退は早まっている。米国と歩調を合わせる時代は終わりを告げており、わが国の生き方も深刻に問われている。       (Y)


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