2021年12月5日号 1面
コロナ禍からの回復は世界の各地域、国でバラツキがある。新たな変異株の世界的な感染再拡大などもあり、収束にはほど遠い状況であるが、今年夏以降の急速な原油の高騰は、コロナ禍にあえぐ世界経済をさらに大きく揺さぶっている。 原油高騰の要因は 今夏以降の原油の高騰には、直接的には三つの要因が指摘されている。 ハリケーンの影響で米国がシェールオイルの減産を強いられたこと。さらに地球環境問題なども加わって米国の石油企業は採算や環境を重視するようになり、かつてのように相場が高騰してもすぐ増産とは動かなくなっていること。 石油輸出国機構(OPEC)にロシアなどを加えた「OPECプラス」が、コロナ禍で落ち込んだ需要の以降の見通しが不透明ということで大規模な増産を控えていること。 さらに天候異変で欧州の風力発電や中国の水力発電が減り、ロシアが欧州向けの天然ガス供給を削減したことなどで世界的な天然ガス需給の逼迫が石油価格に跳ね返っていることなどである。 エネルギー価格の高騰を受けて、米欧では物価も急騰している。米国とユーロ圏の消費者物価指数の伸び率は約十三年ぶりの高水準となっている、物価の高騰が続けば、米欧の中央銀行の金融引き締めの動きが予想を超えて加速し、新興国などの経済に大きな影響を及ぼしかねない。原油価格高騰は世界経済の新たな波乱要因となっている。 産油国との溝広がる 来年の中間選挙を控えて、ガソリンの高騰は米バイデン政権の支持率低下の大きな理由の一つとなっている。 バイデン政権は、ガソリン価格を引き下げるためといって十一月二十三日、戦略備蓄原油の五千万バレル放出を発表、わが国や中国、インド、韓国、英国に協調放出を求めた。岸田政権も、米国の要請に従って、国家石油備蓄から異例の放出を決めた。これは緊急事態対応という備蓄の本来の目的とはかけ離れたものである。 しかも、備蓄原油の協調放出が価格抑制の効果があるかは疑わしく、繰り返し使える策ではない。放出は産油国の反発を招き、溝を広げた。 OPECプラスは十二月二日の会合で新たなコロナ禍で需要の落ち込みが予想される中でも、増産ペースの「現状維持」を決定した。だが「オミクロン株」の感染拡大次第では来年一月の会合で減産に踏み切る可能性も出てきて、原油価格の高騰は長引く様相である。 地域経済に打撃 農漁業が地域経済の基盤となっている地方では、影響は大きい。 熊本県ではトマト、スイカ、イチゴなどのハウス栽培が盛んで、中でも八代市はトマトの全国的な主産地だが、燃料代がかさむ冬場に燃料高が重なって影響は大きい。ハウスを加温する暖房機の設定温度を下げたりして重油を節約しているが、生育にも影響する。ここ数年トマトの単価が振るわない中でのコスト増は農家にとって痛い。原油高はハウスのビニール、発泡スチロールなどの生産資材の値上がりにも直結、肥料や飼料価格も高止まりが続いている。 熊本では、十一月から養殖ノリの摘み取りが始まったが、漁船の燃料代に加えてノリ乾燥施設では大量に重油を使う。昨年はコロナの影響での外食需要が減少し、ノリの販売額は前年比で一二%落ち込んだ。需要回復が進まない中でコストだけが増加することに漁業関係者は危機感を募らせている。 ガソリン高騰は運送業者の経営にも大きな打撃となっており、全日本トラック協会など運輸団体は二日、「燃料価格高騰危機突破総決起大会」を開催して政府与党に対して緊急の対策を求めた。 コロナ禍による消費の低迷などで打撃を受けている生産者や運輸業界は原油高でさらに大きな犠牲を強いられている。岸田政権は緊急の対策を直ちに講じるべきである。(Y) 生産者や業者の声 熊本県八代市・トマト農家 重油価格は、去年70円弱/リットルだったのが、今は100円を超して、40%ぐらい上がっている。私のところでは、昨年のトマトの出荷が240トンで、市場価格は平均302円/キロだったので、7000万円ぐらいの売り上げだった。農協から諸経費等を引かれて手取りは5000万円弱だった。このうちから、重油代が400万円くらいになる。地域では、大体平均的な額だ。規模の大きい農家では1000万円を超すところもある。燃油高騰対策では「施設園芸セーフティネット構築事業」があり、生産者と国が半分ずつ出して基金をつくって、最近3年の価格に比べて値上がり分の9割を補填する。加入している人には値上がり分の9割の補填が来るが、貰った分の2割は、次に備えて基金に戻すことになっている。ただし加入は自由なので、加入率は分からない。加入していない人のダメージはものすごいものだ。さらに農業資材の値上がりもコスト増に響いてきている。最近は、気候変動問題も話題になって、「油代が高い方が二酸化炭素を減らすのにつながる」という人もいるが、農家にとってはとてもきついことを分かってほしい。 熊本市植木・スイカ農家 スイカの場合はそんなに油を炊きはしないが、近くの農家はハウスのカーテンを増やしてなるべく節約する方法を考えているようだ。特にトマト農家が心配だ。秋に植えて、年を越して5、6月まで採るので、八代の人たちが一番心配していると思う。イチゴも大変だろう。本当は、昔から言うように冬場はダイコン、ジャガイモ、サツマイモなど土の中で太る野菜を食べ、夏は空中に生って体を冷やすナス、キュウリ、トマトを食べるのがいい。その感覚を、消費者自身も変えていく必要があると思う。燃料の高騰は、産油国も先々を考えて高く売ろうとしているので、増産はしないと思う。国がその辺の事情をよく考えて農業どうするのか考えるべきだ。 京都府・軽トラック運送業 29台の軽トラで、ひと月900万円くらいの収入のうちからガソリン代が一番多大きい。今年初めの頃は月60万円くらいだったのが、10〜11月には月100万円に跳ね上がった。他に、修理代が20〜30万円、車庫代が50万円、自動車保険料が20数万円、事務員の給料などのほか年に数台は車の買い替えも必要だ。非常事態宣言が出ていた昨年の4月頃は、巣ごもり需要でさばき切れないほど荷物が増えた。全体として個人宅配の仕事は増えているが、今年の夏の非常事態ではそれほど荷物は増えなかったので、経営は厳しい。飲食店への食材卸や弁当の配送などはゼロになった。さらに観光客、修学旅行の激減で地域経済はガタガタだ。最近はギグワーカーの影響で若い人の仕事のやり方が荒くなって、置き配などのクレーム、トラブルも多くなっている。大手の宅配業者も神経を使っている。とにかく何があってもいいからガソリンを安くしてほしい。
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