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2021年11月25日号 2面・解説

COP26/「グラスゴー合意」採択

先進国こそ対策を急げ

 英国で十月三十日から開かれていた国連気候変動枠組み条約第二十六回締約国会議(COP26)は、成果文書「グラスゴー気候合意」を採択して閉幕した。
 会議序盤の十一月一、二日には約百二十カ国・地域の首脳級会合が開かれ、世界第三位の二酸化炭素排出国であるインドのモディ首相は、「二〇七〇年までに排出実質ゼロ」と初めて表明した。
 十三日に採択された「グラスゴー気候合意」では、「産業革命前からの世界の気温上昇を一・五度に抑える」という目標実現に向けた努力を追求すると決議した。「パリ協定」では「二度未満、できれば一・五度に抑える」との目標を掲げたが、今回「一・五度」を事実上、世界の共通目標に引き上げた。目標実現に向け、世界全体で温室効果ガス排出量を三〇年までに一〇年比四五%減、今世紀半ばごろに実質ゼロを実現する必要があることも盛り込んだ。だが、二酸化炭素排出量の多い「石炭火力発電」をめぐる各国間の溝は最後まで埋まらなかった。

有志国や企業らも宣言
 会議では参加国の全会一致の合意が必要な議題とは別に、有志国や企業、自治体、国際組織などの間で脱炭素につながるさまざまな合意や宣言も相次いだ。各国間の利害が対立して、全会一致に至らないからだ。
 温室効果ガスの一種「メタン」の排出量を三〇年までに三〇%削減する宣言は、欧州連合(EU)や米国が主導し、百カ国が加わった。中国は加わらなかったが、米中共同宣言で削減に向けて共同研究での協力が確認された。森林破壊を食い止める宣言には、ロシアやブラジルを含め百三十国以上が参加した。だが、石炭火力発電の段階的な廃止をめざす合意や四〇年までに販売する全ての新車を二酸化炭素を出さない「ゼロエミッション車」に切り替える合意には、国だけでなく自動車メーカーなどの企業も署名したが、日米中はいずれも参加しなかった。

米の対中対抗も反映
 バイデン政権は一月の政権発足直後から、ケリー元国務長官を任命し、気候変動対策の大統領特使として日本や中国を含む国々への説得を重ねた。会議でも議長国の英国と連携しながら、前向きな合意につながる雰囲気の醸成に奔走した。民主主義国家の代表を自任し、中国包囲網を強めるバイデン政権にとって、看板の気候外交によるリーダーシップを発揮することは、中間選挙対策でもあり、大きな命題だった。
 だが、厳しく争う米中にとって、協調が可能な数少ない分野である気候変動対策の議論でも、大きな溝があることが改めて浮き彫りになった。石炭火力発電をめぐる成果文書の表現の調整では、石炭火力廃止に向け圧力を強める米欧に対し、中国はインドを支持し、途上国側を代弁した。

新興国の反発は当然
 大国によるリーダーシップの限界も露呈した。排出量の少ない島国や最貧国は、気候変動で被害を受けた地域や人びとを救済する新たなメカニズムを求め続けている。だが歴史的に排出量が多い米欧は「補償」につながりかねないとして慎重な姿勢を崩していない。 先進国と途上国の間の不公平さを正すための資金協力についても先進国は年間千億ドルの資金援助の合意を達成していない。
 インドの代表は会議で「途上国は貧困撲滅の課題にいまなお直面している」とし「炭素予算の残りを使う権利がある」と唱えた(「炭素予算」とは、地球の平均気温が産業革命前から一・五度上昇するまで、人類がこれまで排出し、これから排出する温暖化ガスの総量のこと)。インドは「先進国はこれまでに人類の排出枠の多くを使った。これまでの気温上昇一・一度に先進国は大きな責任がある。排出枠の残りの分をこれから使えるのは途上国のはずだ」と主張し、さらに「先進国は石炭火力を今になっても廃止していない」と先進国を批判した。
 発電の七割を石炭に依存しているインドからすれば石炭火力「廃止」要求は、不公正で、かつ経済発展を阻害するということだ。インドの国全体の排出量は世界第三位だが、人口一人当たりの排出量は米国よりはるかに少ない。
 気候変動対策が国際的な課題として登場したのは一九八〇年代半ばからで、それまで先進国が利潤を最大限追求するために環境破壊もかえりみず、大量に温暖化ガスを排出してきた経過についてインドが主張するのは当然である。

若者たちは抗議の声
 気候変動対策を求めて全世界で若者たちが立ち上がっている。会議に先立って世界各国で若者たちのデモが行なわれ、今回の会場周辺でも若者たちが二万五千人のデモを行ない、各国政府に気候変動対策を求めた。
 だが、会議の合意内容は若者たちにとって失望するものばかりだった。各国が協力して温暖化対策を進めるというようなこととはほど遠い、利害のぶつかり合いに、若者たちは「リーダーたちが美辞麗句を並べ、現状維持の祝福と無駄なおしゃべりに終わった」と酷評した。

先進国こそ対策を急げ
 「グラスゴー合意」では気温上昇を「一・五度以下に抑える努力の追求を決意する」と明記したが、各国が掲げる全ての温暖化対策が実行されてもパリ協定の努力目標「一・五度」は達成できない見通しだ。
 国連「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」に加わる科学者らでつくる調査機関は、COP26開催前の各国の温室効果ガス排出削減をめぐる三〇年までの中期目標では上昇幅が今世紀末時点で二・七度に及ぶと分析。一方で、中国の六〇年カーボンニュートラル(排出量の実質ゼロ)宣言などを考慮すると二・一度まで、さらにCOP26期間中にインドが表明した七〇年カーボンニュートラル宣言などを考慮すると一・八度まで、それぞれ下がると試算している。しかし、一・五度には届いておらず、そもそも各国が対策を全て実行に移せるかも不透明である。

わが国の姿勢も問われる
 「グラスゴー気候合意」は、温室効果ガス排出削減対策を講じていない石炭火力発電について、当初案の「廃止」から「削減」に表現が後退した。電源の三割を石炭火力発電に依存するわが国政府や電力業界には「安堵(あんど)」が広がったといわれている。政府は、石炭火力を引き続き一定程度活用する考えを表明している。「COP26で日本は目立たなかった。石炭火力の必要性を訴えるインドなどの陰に隠れていればいいと思ったのではないか」と指摘する声もあり、この点でもわが国の立ち遅れは明らかだ。

資本主義は危機克服できぬ
 気候変動の根本的な要因は、利潤追求を最大命令とする資本主義的経済活動の結果である。温暖化ガスの排出をめぐっても「排出権取引」が市場で取引きされ、企業や金融資本は金儲(もう)けに走るなど、本来の温暖化対策とはかけ離れているのが先進国の温暖化対策でもある。
 先進国こそ温暖化対策を強化すべきであるが、資本主義的生産様式を廃絶し、転換する以外に温暖化からの出口はない。  (H)


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