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2021年11月25日号 1面

軍備増強加速する岸田政権

時代錯誤の敵基地攻撃論を葬り去れ

 第二次岸田政権が発足し、来月の臨時国会でコロナ対策などを含めた大型の経済対策を審議、本格的な政策遂行に入る。だが世界経済の危機は深く、各国間の利害対立はますます激化し、岸田政権を取り巻く内外の環境はまことに容易ならざる情勢である。
 米国は対中巻き返し策の先兵としての役割をわが国に負わせ、中国との対立をあおっている。バイデン政権は、オバマ、トランプと続いてきた対中巻き返し策をさらに多方面で強めている。米国は、主要七カ国(G7)の同盟再構築などを足掛かりにして米日豪印(クアッド)や米英豪(オーカス)など経済、軍事面での対中包囲網を構築し、東南アジア諸国連合(ASEAN)などを抱きこもうと策動している。欧州連合(EU)やEUを離脱した英国も、それぞれ独自の立場から中国やアジアへの関与を強めようと「インド太平洋戦略」を策定、艦船派遣や米日との共同演習など軍事面での動きも活発になっている。中国も米国の対抗策に対して硬軟織り交ぜて対応しながら、「一帯一路」をはじめアジア各国との経済関係を強め、地域での存在感を高めている。
 これには中国が急速な経済成長を遂げ、世界経済の中心的な存在になったこと、そして国際政治への影響力の拡大などが背景にある。さらにインドやASEAN諸国も経済的比重を高めている。
 アジア地域は世界各国の争奪の中心となっている。  また、わが国の多く企業も二〇一〇年代以降、アジア諸国を中心に欧米を上回る対外直接投資を拡大してきた。わが国にとってもアジア地域での権益確保は死活的な問題であり、安倍前政権は一六年に「インド太平洋」戦略を提唱し、中国と対抗しながらアジアへの関与を強めてきた。
 岸田政権は、安倍・菅政権と続いてきた外交・防衛政策を引き継ぎ、米国と歩調を合わせて中国に対抗しようとしているが、これはわが国を存亡の淵に立たせる極めて危うい道である。

「安全保障戦略」改定へ
 安倍前政権は一三年に、集団的自衛権に踏み込む安保法制と併せて、わが国の安全保障政策の基本指針として「国家安全保障戦略」を定め、国家安全保障会議を設置した。「安全保障戦略」は、わが国の「能力・役割の強化・拡大」を第一に置き、日米同盟を基軸として強化しながらわが国の政治・軍事大国化をいっそう推し進めるためであった。
 岸田政権は、「国家安全保障戦略」の改定を政権公約として掲げ、参院選後の来年中に改定を進めようとしている。併せて一八年に策定された「中期防衛力整備計画(中期防)」も前倒しで改定し軍備増強に乗り出そうとしている。
 防衛省は十一月十二日、「国家安全保障戦略」の改定に向け、「防衛力強化加速会議」(議長=岸防衛相)を設置し、初会合を開いた。安全保障戦略の改定では、敵のミサイル発射基地などを破壊する「敵基地攻撃能力」の保有も議題となる。岸防衛相は会合で、中ロなどが極超音速兵器技術などを進化させていることに触れ、「あらゆる選択肢を排除せず議論を進めていくことが重要」と語っている。岸田首相も「安保戦略」改定について中国の位置付けを見直すと発言している。
 これはわが国防衛政策の根本的な転換であり、中国をはじめわが国周辺国との軍事的緊張を一挙に高める問題である。

敵基地攻撃論を公約
 先の総選挙で、自民党は外交・安保政策について、(1)日米同盟を基軸に「自由で開かれたインド太平洋」の推進、(2)中国の軍拡などに対応するため来年度から防衛力を強化。新たな国家安全保障戦略、防衛大綱、中期防衛力整備計画を速やかに策定。(3)GDP(国内総生産)比二%以上も念頭に防衛関係費増額をめざす(4)相手領域内での弾道ミサイル阻止能力保有を含め、抑止力を向上(5)「経済安全保障推進法(仮称)」の策定などを公約として掲げた。
 岸田首相も、自民党政調会長当時の今年三月、「敵基地攻撃能力」の保有に向け議論を加速するよう政府に求める考えを示し、「自民党内は(保有を)考えるべきだという意見が大勢だ」と述べた。また、自身のツイッターでも「敵のミサイル発射能力そのものを直接打撃し、減衰させることができる能力の保有が必要だ」「わが国がミサイル阻止力を保有しているという意思を示すことが攻撃の抑止につながる」と投稿している。
 また、自民党総裁選でも高市ら右派が敵基地攻撃論を公然と主張したし、岸田氏も言及した。
 茂木自民党幹事長も新聞のインタビューで「ミサイル能力の向上で脅威が深刻化しており、厳密な言葉で言えば、「敵基地反撃能力」も含めてさまざまな選択肢を検討していく必要がある。党としては有力な選択肢だと思っている」と語るなど自民党としての姿勢を明らかにしている。
 敵基地攻撃能力については、安倍前首相が実現に意欲を示してきたが、だが、任期途中での政権投げ出しで、自らは結論を出さず、検討を次の内閣に委ねた。また、菅政権でも結論を先送りして来た経過があり、岸田政権が進める「安全保障戦略」の改定で、敵基地攻撃論の議論は本格化する。だが自民党内にも慎重論がある。また公明党も難色を示しており、進めようとすれば政権内部の矛盾も深まる。
 しかし、南西諸島へのミサイル配備、空母「いずも」「かが」を改修しF35B戦闘機を離着艦可能にして機動力を飛躍的に高める計画など、具体的な軍備増強は着々と進んでいる。

対立軸示せぬ立憲
 総選挙で敗北した立憲民主党は、外交・安全保障政策で「対立軸を作るべきではない」ということで、曖昧な「現実的政策」に終始し、平和を願う多くの国民の支持を得ることはできなかった。共産党も中国非難を公約の一つに掲げ、対中敵視に加担した。選挙敗北を受け、党再生に向けて真剣な議論が求められる。
 一方、議席を大幅に増やした日本維新の会は、(1)防衛費の国内総生産(GDP)一%枠を撤廃し、防衛体制を強化。領域内阻止能力の構築について検討を進める(2)安全保障上重要な土地の取引などについて厳格に規制を強化(3)日米同盟を基軸とし、日米英印豪台などと防衛力を強化(4)中国の武力による現状変更を防ぐため、日米間で台湾有事のルールを早期に策定することなどを選挙公約に掲げた。
 維新の会は国民民主党と憲法改悪でも共同歩調をとっている。維新の会は閣外とはいえ右から自民党の安保・防衛政策を後押しする危険な役割を果たそうとしている。

アジアの緊張高める
 現在、米国もバイデン政権での国家安保戦略を策定中で、東アジアでの防衛協力体制について日米での擦り合わせを米国は要求してくるだろう。また、米国もわが国の防衛費の増額を要求し、菅前政権も受け入れている。それを受けて、岸田政権は新しい補正予算案で防衛費として過去最大の七千億円を計上し、哨戒機や機雷などの防衛装備品を新規で購入することを決めた。補正予算での防衛装備品の購入は安倍前政権でもやらなかったことで、異例のことである。また、来年度当初予算の五兆三千四百二十二億円と合計すると二一年度の防衛費はおよそ六兆円となり、GDP比一%を超える。
 日米間に加え多国間の共同・合同軍事訓練も活発化している。今年夏の英国の空母打撃群との訓練をはじめ仏、独海軍などとの共同訓練も行なわれた。十日には、四国南方海上で豪軍艦に対して米軍以外で初めて「武器等防護」を実施した。十七日には南シナ海で海自潜水艦が初めて参加した対潜水艦訓練が行なわれた。「中国の脅威」をあおってますますエスカレートするばかりである。南西諸島防衛を口実に、奄美・沖縄諸島へのミサイル配備も増強されている。
 米国家安全保障会議(NSC)のキャンベル・インド太平洋調整官は十九日の講演で、来年クアッドの首脳会議を日本で開催し、バイデン米大統領が訪日することを明らかにした。キャンベル氏は、オーカスの拡大にも意欲を示し、「アジアや欧州の国々がこの先、参加することを期待している」と語っている。
 米国の中国への対抗は緩和どころではない。だが、バイデン政権は国内問題で足元がふらついており、わが国への要求はさらに強まろう。軍事的な緊張を高め、いっそう敵対する安保・外交政策にはわが国支配層内部にも動揺が生まれる。中国抜きにわが国経済はやっていけないほど結びつきは強い。
 中国を敵視しながら米国と歩調を合わせて政治・軍事大国化の道を進める岸田政権の道ではわが国の未来はない。中国・アジアとの平和・共生の道にこそわが国の将来がある。そのためにも広範な国民運動を構築してわが国の対中国政策の転換を求めていくべきである。     (Y)


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