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2021年10月25日号 2面・解説

IMF「世界経済
見通し」を下方修正

世界経済は抜け出せない危機

危機深める世界経済
 世界全体の総生産(GDP)は二〇二〇年で約八十五兆ドル、前年の約八十七兆四千億ドルからコロナ禍による経済への打撃でマイナスとなった。
 世界経済は〇八年のリーマン・ショックから〇九年にかけて後退、中国の財政政策をはじめ各国の金融緩和政策で一旦は回復したものの、世界的な需要不足で一八年から景気後退が明白となった。コロナ危機が広がる以前に世界経済の危機は拡大しつつあった。そして一九年末からコロナ感染が中国で拡大、二〇年にはパンデミック(世界的大流行)となって主要国も新興国も経済活動に大打撃を受けた。
 世界経済全体の成長率を実質GDP成長率で見ると、〇九年の▲〇・〇八%の後、一〇年に五・四%へ回復したが、その後はほぼ三%台で推移し、十九年に二・八%と下がり、二〇年には▲三・一%と劇的に下落した。
 主要国をはじめ各国は、経済対策で大規模な金融緩和を進め世界的な「カネ余り」で、株・債券など資産バブルをつくり出したが、貧富の格差はいちだんと拡大し、世界的な需要不足は回復しなかった。コロナ禍が広がって経済活動がストップするなか、各国とも緊急経済対策としてさらなる財政出動を余儀なくされ、各国政府の財政運営はいちだんと困難を抱えることになった。コロナ収束には世界的なワクチンの普及など課題も多い。世界は「先食い経済」で辛うじて生き延びているにすぎない。社会不安は増大し、経済危機を回避し、人民の不満を抑え込むための財政出動という構図は、いちだんと危機の火種を大きくしている。
 世界資本主義が直面する問題は、脱炭素のための環境、エネルギー政策転換、気候変動から引き起こされる自然災害対策、干ばつなどによる食料危機など、資本主義の利潤追求の結果もたらされている人類生存の危機なども待ったなしである
 また、急速に進むデジタル化は、戦後の米国によるドル支配を脅かそうとしている。中国人民銀行による「デジタル人民元」の発行が目前となっており、「一帯一路」政策などと結び付いて「デジタル人民元」の流通が国際化すれば、ドル支配の終えんに結びつく可能性がある。

IMFの短期経済予測
 国際通貨基金(IMF)は十月十二日、「世界経済見通し」の改定を発表し、二一年の実質成長率の見通しを五・九%と前回七月の予測から〇・一ポイント引き下げた。新型コロナの感染再拡大による供給制約が響き、成長に下振れリスクがあるとの懸念を表明し、米欧などのインフレが長引く可能性にも警戒感を示した。  「見通し」では、世界経済の回復の「勢いが弱まった」と指摘した。夏のデルタ型の流行で自動車関連の部材不足など供給網の目詰まりが拡大していることで、短期的には供給不足による高インフレが続く。来年は供給制約が和らいでインフレも落ち着くとの見方を基本としつつも、原油などの国際商品価格が上昇する現状を踏まえ「インフレの先行きに大きな不確実性がある」と強調した。予測では世界経済の成長率は二二年に四・九%、中期的に三・三%程度に減速するとしている。
 米国は、バイデン政権による大型の財政出動とワクチン普及で、春以降、需要を急回復したが、供給制約が響いて、二一年の成長率は前回予測から▲一ポイントの六%に大幅下方修正、二二年の成長率予測を五・二%とした。
 わが国は、緊急事態宣言が長引き、二一年の成長見通しは前回より〇・四ポイント低い二・四%、経済再開が進むユーロ圏は〇・四ポイント高い五%成長を見込んだ。
 新興・途上国では中国も成長が鈍る。公共投資が想定より小さいとして今年、来年とも〇・一ポイント下方修正し、それぞれ八%、五・六%を見込む。中国恒大集団の経営危機、不動産バブルの調整といったリスク要因もある。

政府債務残高高止まり
 またIMFは十三日に、「財政モニター」を発表、世界の政府債務残高が高止まりする見通しを示した。二六年に先進国は国内総生産(GDP)比で一一八・六%とコロナ危機前の一九年を約一五ポイント上回る。米欧日などが巨額の財政支出を続け、新興国の債務も膨らんでいる。このため、金利の急上昇や資本流出の懸念が世界経済のリスクとして大きくなっている。報告書によると世界で表明されたコロナ対応の財政措置は約一六・八兆ドル(約千九百兆円)に上る。政府と企業、家計の債務は二〇年に二百二十六兆ドルと前年から二十七兆ドル増え、残高も増加額も過去最大になった。世界全体の政府債務のGDP比は二一年に九七・八%と、コロナ前の一九年(八三・六%)を大幅に上回る水準となっており、今後も高止まりが続き、二六年でも九六・五%と財政改善の動きは緩慢と予測している。
 米バイデン政権は一兆ドルのインフラ投資と三・五兆ドルの子育て支援・気候変動対策計画を進めているが、増税だけでは足りず、財政への負荷がかかる。米国の財政赤字は二一年がGDP比一〇・八%で、二二〜二六年も五〜七%程度と高水準で推移する。二六年の債務比率は一三三・五%と二一年から減る見込みはない。
 欧州連合(EU)でも総額七千五百億ユーロ(約九十八兆円)の復興基金が本格的に稼働する。IMFは米欧の大規模な財政出動が二六年までに世界のGDPを四・六兆ドル押し上げると見込む。
 だが、こうした財政支出が世界的な金利上昇を招き、新興国などに逆風となるリスクも増大する。新興国の債務比率は二一年の六四・三%が二六年に六九・八%といちだんと悪化すると見通した。ワクチン普及の遅れなどで経済の回復が先進国より鈍く、税収増は望みにくい。報告書は、新興国における債務の短期化や税収低迷が続けば、さらに「政府の債務返済能力を低下させるリスクがある」と指摘している。
 各国・地域の政府と中央銀行はコロナ対策で大規模な財政出動と金融緩和を拡大して危機を先送りしてきた。だが、今春以降は状況が変わりつつある。インフレの加速や不動産価格の高騰を受け、利上げや資産購入の縮小に動く中銀が相次いでいる。米連邦準備理事会(FRB)は十一月にも量的緩和の縮小(テーパリング)開始を表明する構えだ。米長期金利は一・六%台と上昇圧力が強まっている。世界で金利上昇が広がれば、財政悪化の懸念が強まり、新興国からの資本流出といった危機につながる可能性がある。
 IMFは大きな混乱が生じる恐れは小さいと楽観視しているが、いつ金融危機が勃発しててもおかしくない状況である。  (H)


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