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2021年10月5日号 1面

岸田政権と闘う広範な国民運動を

アジアの平和めざす国の進路を

 菅首相の退陣を受けた自民党総裁選の結果、岸田文雄氏が新総裁に選出された。十月四日、臨時国会で第百代首相に指名された。新内閣が成立し、新首相の所信表明演説が八日に行われるが、直ちに解散・総選挙となる見込みで、岸田政権の本格始動は総選挙後となる。
 岸田氏の総裁選出の過程や選挙の構図を見ると、主要派閥の細田派、麻生派などが大きな影響力を持っているのは明らかである。これまでの安倍・菅政権と実質的変化はなく「看板の架け替え」と見られている。すでに総選挙後の政権運営を見据えて「大規模補正予算」も語られている。
 岸田政権の行方を考える時、九年間続いた安倍・菅政権について振り返ることが重要である。

「構造改革」は先送り
 小泉政権以来の「構造改革」は、財界が国際競争に勝ち抜くための要求であったが、郵政や自治体合併、三位一体改革などいくらかはやられた。その結果、自民党は国民の支持を失って下野する羽目になった。民主党政権は自ら転んで政権を失った。
 財界が求めていた本格的な構造改革は、政権維持・選挙対策のために不十分にしか進まず、先延ばしされた。そうして、安倍・菅政権の約九年間でわが国は経済面でも技術面でも大きく立ち遅れることになった。国民生活はそれ以上に悪化した。悪政は極まり、国民の政治不信が募った。
 安倍政権の経済政策や外交は「口先だけ」で、選挙で勝つための手段だった。選挙に勝てば政策実現はうやむやになった。
 朝鮮民主主義共和国(朝鮮)のミサイル発射を「国難突破」選挙に使ったこともあったが、口実にすぎなかった。二十数回も首脳会談を重ねた対ロシア外交も同じように何も進まず、終いには「領土は返さない」とロシア憲法に決められるほど惨めな結果になった。「地球儀俯瞰(ふかん)外交」などと自慢してみたものの、実際はオバマやトランプにしがみつき大国面しただけで、わが国の国際的影響力は中国に遠く及ばなくなった。
 安倍政権は二〇一二年の登場時に「四つの再生」を掲げ、最大の課題を「経済再生」とした。アベノミクスの「三本の矢」、の裏付けは、日銀の大規模金融緩和緩和と国債買い入れをあてにした財政出動だった。そして日銀や年金基金(GPIF)まで総動員して株価だけは上げたが、消費が一向に増えないとみると安倍は「三%成長」などの当初目標について一切語らなくなった。大金持ち、資産家は懐を太らせ、所得格差は広がり、政府の借金は膨らんだ。
 一五年以降は「強い経済」「子育て支援」「社会保障」を「新三本の矢」と目先を変えて、わずかばかりの変化を大きな成果と誇張して宣伝したが、毎年決められる「骨太方針」も十分実行されず、「日経」など商業新聞ですら「何も成果がなかった」と酷評するまでになった。
 長期の大規模金融緩和、円安誘導政策で、購買力平価は切り下がり、実質賃金も目減りし、わが国は国際的にみても「安い国」に成り下がった。輸入物価が上がり、企業物価や国民経済を直撃している。
 多くの国民には二度の消費税増税、医療費窓口負担増、年金制度改悪(マクロ経済スライド)、生活保護制度改悪、介護保険制度改悪などの耐え難い犠牲が押し付けられた。
 安倍は、保持した権力を「森友・加計」問題や「桜」問題など縁故者の優遇に使った。警察官僚を動員し、検察の人事にも介入して優遇行為の隠蔽(いんぺい)も図った。官僚や言論界もますます「安倍一強」への「忖度(そんたく)」を迫られ、政治や「司法」に対する国民の不信は極まった。  安倍政権に、実効的な政策立案や実行の能力のないことは、コロナ禍へ対応の無策ぶりでさすがに明らかになった。
 安倍が政権を投げ出して、それを引き継いだ菅首相は、安倍政権の官房長官であり、そのまま安倍政治を引き継いだが、同じように国民の支持を失い、わずか一年であえなく退陣を余儀なくされた。
 岸田政権は「新しい日本型資本主義」などいうが、実質的には安倍・菅政権と同じ基盤の上で成立しており、大きな政策転換はできない。何より世界はコロナ禍で「需要不足」で、内外の経済・政治環境はいっそう険しいものになる。岸田政権が早晩立ち往生する可能性は高い。

野党の無力な選挙政策
 立憲民主党など野党各党も、総選挙へ向けて態勢をつくっている。この間「野党共闘」などの動きも進められているようだが、余程のことがない限り、このままでは「政権交代」の可能性は低い。
 各野党が多くの政策で自公政権と明確な対抗軸を示していないからである。国民(有権者)から見てどこが違うのか、どちらを支持すべきか対立軸が不明だ。
 この責任は、主として野党第一党である立憲民主党にあると言わざるを得ない。
 立憲民主党は選挙政策として『政権取ってこれをやる』を発表している。
 その第一番目に「政権発足後、初閣議で直ちに決定する事項」として、補正予算、コロナ対策など七点をあげているが、そのうち四つは森友・加計、桜問題や学術会議の人事などで、政権の基本的な姿はまったく見えてこない。
 二番目以降が基本政策のようなものであろうが、「多様性を認め合い『差別のない社会』へ」「地域を守り、地域を生かす」「住まいの安心と住宅政策の転換」「平和を守るための現実的外交」「分配なくして成長なし! みんなを幸せにする経済政策」「気候危機に歯止めをかける 自然エネルギー立国の実現」となっている。
 個別政策では、自公政権との違いも少しはあるが、安保・外交政策のような基本的な政策ではほとんど違いはない。枝野氏はその著書で「外交・安全保障政策について、政権を競い合う主要政党問における中心的な対立軸にすべきでないと考える」と書いており、今回の選挙政策「現実的外交」でも「健全な日米同盟を基軸とした現実的な外交、安全保障政策」をかかげて「尖閣防衛」「朝鮮の核・ミサイル」「竹島、北方領土問題解決」などを政策にあげている。
 だが、「現実的」には、米国が台頭する中国を抑え込むために、わが国に「台湾海峡」問題も含めて、中国包囲網を形成することを迫っている。これが日米同盟の現状である。
 米国は、わが国を含めた日米豪印の「QUAD(クアッド)」による対中包囲網構築、さらに米英豪の「AUKUS(オーカス)」の軍事同盟による中国への軍事的圧力・威嚇を強めている。日本と英国との安全保障協力も強められようとしている。米国の性急な対中包囲網構築に対して、仏独など欧州連合(EU)諸国は戦略的自立の方向をめざして動き出している。東南アジア諸国連合(ASEAN)も米国の動きに警戒心を高めている。ニュージーランドも豪州の原潜保有の動きに「原子力船舶が領海に入ることは許さない」と反発している。
 これが現実で、こうした現実にどう対処するのかが問われているのである。立憲民主党の安保防衛政策は、現実を無視した空論である。
 立憲民主党がさまざまな政策が言う「現実的」というのは、立憲民主党が政権をとっても「自公の政策とそれほど変わりませんよ」ということのようである。
 共産党も、香港、台湾、ウイグルなどを口実とした中国非難の大合唱に加わって、この点では、米国と共同歩調である。言語道断である。
 そういう立憲民主党との「野党共闘」が成立したといって手放しで喜んでいる共産党の姿は惨めである。枝野氏が「共産党と連合政権を組む気はない」とはっきり言っているにもかかわらず、すり寄って「閣外協力」と譲歩する姿は哀れというほかない。
 低賃金にあえぐ非正規や女性の労働者やコロナ禍で犠牲を押し付けられる自営業者、低米価にあえぐ農家など皆立ち止まるわけにはいかない。自公政治の終焉を望む多くの国民が「野党共闘」に期待を寄せるのは理解できるとしても、その野党自身が、自公政権と対して変わらぬ政策しか打ち出せない「現実」に希望を託すことはできない。

激動の世界でどう生きるか
 世界は米国の衰退と中国の急速な台頭、さらにEUの戦略的自立など旧来の世界秩序は大きく崩れようとしている。ASEANなど新興国の成長、米国のアフガン敗走後の地政学的な力関係の変化などを見ても世界は大転換のさ中にある。
 コロナ禍は資本主義の危機をいっそう早めている。気候変動や急速な技術革新の進展などを見ても資本主義的生産様式と相容れない根本的変革が迫られる時代である。どの国も自らの道を自分の頭で考え、自らの力で切り開いていく時代である。世界の中でわが国が長期にどういう道を歩むのか、どういう位置を占めるのか、真剣に問われる時代である。政党も労働組合もこうした問いに真摯(しんし)に答えなければならない。(H)


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