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2021年10月5日号 2面・解説

経済面から見る日中関係

長期の戦略的互恵関係を

 わが国と中国との国交正常化から来年で五十年を迎える。
 この間、わが国と中国との経済関係は飛躍的に拡大した。中国の改革・開放政策と相まってわが国の多くの企業が中国に進出し、中国国内で経済活動を行っている。だが、衰退する米国が台頭する中国を蹴(け)落とそうと悪あがきを強める中で、わが国も米国の尻馬に乗って対中国包囲網の構築の先兵を務める道に踏み切った。特に今年四月の菅前首相の訪米で、台湾問題を明記した共同声明に合意したことは、国交正常化以来の対中国外交を大きく転換するものとなった。わが国政府は安保・防衛政策にとどまらず「経済安保」として対中国政策を転換しようとしている。これは、中国との結びつきを拡大してきたわが国経済に大きな影響を及ぼすに違いない。
わが国企業の最大の進出先
 帝国データバンクによれば、中国には、約一万三千六百社(二〇二〇年)のわが国企業が進出している。二〇一〇年の約一万七百社から十年間で約三千社増えている。中国の経済成長に伴う人件費の上昇や景気の減速、中国政府が進める環境規制の強化対策で採算性が低下するといった要因でタイ、ベトナムなど東南アジア諸国への拠点の分散の動きもあるが、多くの進出企業が中国国内で活動している。(グラフ1)
 また、中国在留の邦人は約十一万一千人(二〇年)となっている。

業種別
 業種別では、製造業が約五千五百社と最多で全体の約四割を占めている。次いで卸売業が約四千五百社で約三割、サービス業(約千八百社)、小売業(約四百八十社)、運輸・通信業(約三百九十社)、金融・保険業(約三百五十社)、不動産業(約百八十社)の順となっている。

規模別
 企業規模別では、年売上げ高「十〜百億円未満」の企業が約五千二百社で最多。年売上高「一〜十億円未満」の約四千二百社と合わせると年商百億円未満の企業が全体の七割を占めており、米欧など主要先進国への企業支出と比べると中小企業の進出が多く、中堅〜大企業の進出はやや減っている。

進出地域別
 進出地域別では、中国東部の「華東地区」が約九千社と最も多く、そのうち上海市が約六千三百社で、行政省(市)別で最多、進出企業の約半数を占めている。さらに江蘇省の千九百社と合わせると「上海経済圏」に進出企業が最も集積している。次いで、大規模港湾のある広州市やハイテク産業の深セン市がある広東省や自動車産業が集積する湖北省などの「中南地区」に約二千二百社が進出している。他に、北京市などを含む「華北地区」に約千八百社、遼寧省など「東北地区」に約千四百社が進出している。港湾都市など輸送インフラが整っており、日本国内との生産・物流ネットワークの構築が容易な地域に多く進出している。
 また、中国経済の発展が内陸部に拡大するにつれて、中国国内市場の獲得のため、四川省や重慶市を含む「西南地区」や陝西省など「西北地区」へも進出する企業も出てきている。

関連ビジネスも含め3万社
 これらの進出企業の他に、中国との輸出入を行なう企業は延べ二万社あり、進出企業と合わせると中国関連ビジネスに携わるわが国企業は三万社を超えている。その多くの拠点が中国沿岸部に集中し、強固で複雑なサプライチェーン(供給網)が構築されている。

 ちなみに古くからわが国企業が進出しているタイの日系企業数は約五千八百社(二〇年)、インドネシアに約千五百社(一九年)、マレーシアには約千三百社(一八年)、最近増えているベトナムには約千九百社(一九年)が進出している。米国への進出企業数は約七千社である。中国経済と東南アジア経済も強く結ばれている。

国・地域別貿易
 わが国経済の屋台骨である貿易動向を見てみると、年間輸出の約二十%が中国向けである。二〇年にの中国向け輸出が、米国向けの十八%を上回って二十%となった。(図1)
 輸入では一貫して中国からの輸入がトップで、四分の一が中国からの輸入である。(図2)
 貿易総額でみても、年間貿易総額の二割以上を中国との貿易が占めている。二〇年の貿易総額の約二十三%が対中国、対ASEANが十五%、対米国が約十四%、図にはないが対EUが約十%となっている。(図3)
bbr> 対中「友好」外交の継続を
 こうしてみると中国経済・市場とわが国の結びつきは切っても切れない関係にある、岸田新政権は、菅政権が踏み込んだ歩みをさらに進め、「経済安保」担当大臣を新設して対中国包囲網をいちだんと強めようとしているが、時代錯誤というだけでなく、まさにわが国経済の首を絞める行為である。米国と肩を並べた中国対抗政策は、わが国経済の屋台骨を揺るがし、多くの中小企業も含めた日系進出企業の経営環境に跳ね返ることは必至である。これはまたわが国の国内経済、国民経済にも大きな影響を及ぼす。
 わが国経済界の中にも、中国との関係を危ぶみ、国交正常化以来の対中国外交の継続を求める声も多い。
 四月の日米共同声明について、故中西経団連会長は、当時の談話で、中国についてはひと言も触れなかった。無言だが不満の表現であろう。
 前号でも紹介したが、経済同友会の日中交流プロジェクトチームの報告書でも、「日中両国が協力できる点と、そうでない点を明確にし、『意見の不一致を認める精神』で、互いの立場や意見の相違があることを認めあったうえで、相互理解を深め、日中の目指す『戦略的互恵関係』を築いていくべきである」と述べている。ごく真っ当な意見である。
 中国とわが国は切っても切れない隣国であり、千年以上にもわたる往来の歴史がある。将来にわたっても隣国として共に生きていかねばならない。長期にわたる視野に立つべきで、目前の偏狭なナショナリズムに流されるべきではない。米戦略に追随して 菅政権が踏み込んだ中国敵視の対中国外交を岸田新政権がそのまま引き継ぐことになれば、日中の経済関係は険しくなろう。
 日中共同声明など四つの基本文書の精神に立ち戻って中国・アジアの平和、共生、互恵の国の進路を切り開くべきである。そのために広範な国民世論を喚起しよう。       (Y)


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