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2021年9月25日号 1面

アジアの緊張高める
日米の新たな策動

中国敵視の軍拡は亡国への道

 対中包囲に血道をあげる米国のなりふり構わぬ動きは、東アジアやインド太平洋地域での政治的・軍事的緊張を高めている。
 米国とともに中国への対抗を強めるわが国も、日米間だけでなく多国間の共同軍事訓練を頻繁に行うなど、戦争準備、軍備増強を急ぎ、米国に加担する動きを強めている。政府は防衛費国内総生産(GDP)一%枠の突破など軍事費を増大させている。また、国内でも過去最大規模の演習が行われれている。

軍事緊張高まるアジア
 陸上自衛隊の全部隊が参加する「陸上自衛隊演習(陸演)」が九月十五日から十一月末までの予定で始まった。
 実施される訓練は「出動準備訓練」「機動展開訓練」「出動整備訓練」「兵站・衛生訓練」「システム通信訓練」の五つの訓練で、作戦準備や輸送に焦点を当て、各種事態に対応できる即応性や作戦運用の実効性の向上を目的としている。演習には、全国の部隊から約十万人が参加するが、九州には、対中国を睨んだ南西諸島防衛を念頭に、全国の三つの部隊から約一万二千人の大部隊と約三千九百台の車両が集結する。
 また、 海上・航空自衛隊や米軍による輸送支援のほか、民間の各種輸送力を使った全国規模での機動展開や補給品等の輸送も実施される。
 これほど大規模な演習は一九九三年以来約三十年ぶり、過去最大規模であり、文字通り日本全土を戦争に巻き込む演習が繰り広げられる。
 また、八月二十五日には沖縄南方海上で英海軍の空母「クイーン・エリザベス」を中核とする空母打撃群との共同訓練が行なわれた。同空母が日本周辺で自衛隊と訓練したのは初めてで、米、オランダ両国軍も参加した。英海軍トップのラダキン第一海軍卿は「日経新聞」のインタビューで「インド太平洋地域に五年間は、英海軍の哨戒艦二隻を常駐させる」と表明し、中国をけん制する姿勢を示した。ラダキン氏は今後の日英間の協力について「自衛隊との間でお互いの施設や設備の共同使用や、最新鋭戦闘機F35を伴った両部隊の連携などが進む」と語った
 インド太平洋地域には仏、独なども相次いで艦船を派遣し、地域への関与を強めている。わが国も、安倍政権による集団的自衛権行使容認の閣議決定や安保法制制定などで、多国間の共同軍事訓練なども頻繁に行い、軍備増強、軍事大国化の道をひた走っている。

なりふり構わぬ米政権
 米国は、アフガン敗走の失地回復を図るためにも、本来の戦略的中心である対中包囲網の構築になりふり構わぬ姿勢を見せている。
 米英豪の三カ国は十五日、インド太平洋地域での新たな安保協力体制として「AUKUS(オーカス)」を創設すると発表した。これまでの日米豪印四カ国による協力体制「QUAD(クアッド)」は、経済協力が主体だったが、オーカスは安全保障面に特化したものである、米英豪の三国の軍事力を誇示して、中国を強くけん制・威嚇しようということである。
 オーカス創設にあたって、米国は豪州に最高レベルの軍事機密の一つである原子力潜水艦建造の技術供与を行なうことを発表した。これまで米国は原潜の技術を英国のみに供与してきた。豪州への技術供与は、米国が強いからではなく、米国の力の衰えを他国にカバーしてもらおうという弱さのあらわれである。
 豪海軍の原潜保有は、豪軍の作戦行動範囲を大きく拡大し、インド太平洋地域の軍事バランスを変え、地域での軍拡競争を激化させる。モリソン豪首相は、核兵器保有について可能性を否定しているが、現在、原潜を配備する六カ国はすべて核兵器保有国であり、明らかに核不拡散に逆行する動きである。
 また、豪政府の発表によれば、少なくとも八隻の原潜保有をめざすほかに、駆逐艦搭載の巡航ミサイル、戦闘機搭載のスタンドオフ・ミサイル、長距離対艦ミサイルなどの「長距離打撃力」を導入するなど、中国抑止を狙った軍備増強を本格化する計画である。
 豪州の動きに対して、非核政策を採るニュージーランドのアーダーン首相は「原子力船舶がわが国の領海に入ることを拒否する」と述べて豪州をけん制しているし、東南アジア諸国連合(ASEAN)のインドネシアやマレーシアも警戒感を露わにしている。
 こうした、バイデン政権の性急な対中包囲網構築の悪あがきは各方面に反発と警戒心も呼び起こしている。

戦略的自立を進めるEU
 突然のオーカス創設と豪州への原潜供与の動きは、フランスの強烈な反発を呼び、ドイツなど他の欧州連合(EU)諸国も米国への不信感を増大させている。
 今回の豪州の原潜保有について、もともと仏豪間では次期潜水艦の建造契約が決まっていた。これを一方的に破棄されたフランスは「裏切り」と激怒、米仏関係では歴史上かつてなかった駐米大使の召還という事態にまで発展した。仏豪関係も同様に悪化している。バイデン米大統領は「フランスはこの地域の重要なパートナー」と取り繕っているが、今後のフランスと米英豪との関係に大きな影響を及ぼすことは間違いない。
 こうした中、EUは戦略的自立性を持った動きをさらに進めようとしている。
 EUのフォン・デア・ライエン委員長は、十五日の欧州議会での施政方針演説で、危機対応へ新組織を立ち上げ安保情報共有などで軍事・安保分野での統合を進める考えを表明した。EUでは五千人規模の即応部隊の設置などの検討を進め、「欧州防衛連合」としてEUの戦略的自立性を高める方針を明らかにしている。来年EU議長国に就くフランスとともに、欧州の防衛に関する首脳会議を開き、統合を前進させる考えである。
 自立への動きが加速する背景には、アフガン撤退をめぐる混乱がある。欧州首脳による米軍の撤収延期要請にもかかわらず、米国は八月末に予定通り撤収。米国抜きではアフガンにとどまる力のない欧州勢も撤収を余儀なくされ、大混乱に陥った。こうしたことでEU内には米国に対する不信と過度に米国に依存した安保体制を見直す機運が高まっている。
 さらに、EUは十六日、「インド太平洋協力戦略」を公表。「世界の中心は経済面でも地政学的にもインド太平洋に向かっている」(ボレルEU外相)とEUとしてインド太平洋地域に積極関与すると表明した。すでに独、仏、がそれぞれ「インド太平洋戦略」を策定しているが、EU全体としても「インド太平洋」地域の国々・地域と幅広い関係の構築する方向に踏み出した。
 バイデン氏は、トランプ前政権の「米国第一主義」を転換するとして、日米欧の同盟関係を足掛かりに対中国包囲網の構築を目指してきたが、米国自身が同盟の亀裂を深めている。

戦争と破滅への道を許すな
 米国とEUとの亀裂が深まる中、米国が頼れるのは日米豪印の「クワッド」と米英豪の軍事同盟「オーカス」くらいになった。
 アジアではわが国が米国の最大の支柱である。安倍・菅政権は、米国の対中戦略の尻馬に乗って、アジアでの政治・軍事大国化の道を突き進んできた。
 そして今年四月の日米共同声明では、「一つの中国」を投げ捨て、「台湾海峡の平和と安定の重要性」を盛り込んだ。
 麻生財務相が七月、「日米で一緒に台湾を防衛しなければならない」などと日米で中国と闘うと発言するなど、内閣の中からも中国との戦争を公然と口にするものまで現れた。今年の「防衛白書」でも「台湾」問題が加えられた。
 自民党総裁選挙で、各候補者は、対中国外交では濃淡があるにしても、中国や朝鮮民主主義共和国(朝鮮)を念頭においた安保防衛問題については、日米同盟、軍事力の増強は同じように必要だと語られている。「敵基地攻撃」を公然と口にする者まで出ている。
 日本国家基本問題研究所の桜井よしこらは、十九、二十日、「日経新聞」などに意見広告を出し、総裁選四候補者に対して「問われるのは日本を取り巻く安全保障環境の急速な悪化に対処する覚悟だ。専制国家・中国の国防費はわが国のそれをはるかに凌駕(りょうが)し、わが国固有の領土である尖閣諸島を脅かしている。尖閣そして日本の安全保障にとって極めて重要な台湾を守るため、中国こそ脅威と位置づけ、抑止力を強化できるのか。机上の空論はいらない」などとして、尖閣防衛のための自衛隊の投入、防衛の西欧並みへの引き上げ、敵基地攻撃能力の保持など八項目についての態度を迫っている。
 マスコミも、こうした悪質なキャンペーンと変わらない中国・朝鮮脅威論を垂れ流し、世論づくりに加担している。
 議会野党も、この点では政府・与党と争わない体たらくである。
 しかし、世界は冷戦崩壊後の米国中心の秩序が崩れ去り、それぞれ自国の利害をかけて自らの道を探っていく時代である。他国の脅威をあおり立て、戦争と破滅へとつながる安倍・菅らの時代錯誤の道を許してはならない。国民の多くは平和なアジアを望んでいる。発展していくアジアで、中国も含めて共に平和的環境のなかで「共存」「互恵」の道を探るべきである。
 広範な国民運動で、戦争と亡国の道に反対しよう。(Y)


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