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2021年9月15日号 1面

菅首相退陣 総選挙へ

国の生き方の根本的転換を

 菅首相が政権を放り投げた。政局は総選挙へと動いている。菅首相は内外共に行詰って、退陣を余儀なくされた。
 自民党は総裁選を経て支持率最低だった菅首相から看板を掛けかえ、総選挙での挽回をもくろんでいる。
 おおかたの予想では、政権交代につながるような選挙結果にはならないと言われている。米国も中国もそう見ているようで、バイデン米大統領も、九月二十四日の日米豪印(クワッド)の対面での初会合に退任直前の菅首相を呼びつけた。菅首相が踏み込んだ四月の日米共同声明の流れに念を押す意図と思われる。念押しされれば菅首相も首を横に振れず、新首相も菅路線を継承せざるを得まい。
 十七日告示の自民党総裁選の候補者の中に安倍・菅政治に代わる政策を打ち出している者はなく、新政権も安倍亜流か、手直し程度の政権になるだろう。
 だが、米国のアフガン敗走に見られるように世界の流れは大きく変わっており、わが国の生き方が大きな岐路に立たされている時代である。支配層・財界の一部には「反中国」でない新たな生き方を模索する動きも出ているが、全体として小泉政権以来の対米追随・構造改革路線の政治・外交では世界の流れに対応できず、早晩行き詰まらざるを得ないだろう。

世界は大転換のさなか
 アフガンからの敗退にみられるように米帝国主義の力の限界は明らかである。バイデン政権は中国の台頭を抑えようと躍起になっている。だが、世界は米国の思うようにはいかない。
 米帝国主義はアフガンのぶさまな敗走劇で、英仏独など欧州諸国の「信頼」を損なった。欧州連合(EU)では米国に対する不信と不安からEU独自の五千人規模の即応部隊の創設に向けた動きも始まっている。米欧間の結束はむしろ弱まる方向である。
 荒廃したアフガンの戦後復興への動きでは中国の影響力が強まっている。中ロが主導する上海協力機構(SCO)もアフガンや周辺国との関係を強化して、ユーラシア中央部で政治的影響力を拡大している。
 中国は、いち早くコロナ危機を克服中で、昨年来、巨大IT(情報技術)企業への規制強化や都市部と農村部の貧富の格差是正など国内の安定に力を入れ始めた。米中対立を乗り切るためにも内政の安定は欠かせないからだ。中国経済が米国経済を追い抜くのは時間の問題と言われている。「デジタル人民元」の本格的な運用・流通も始まろうとしており、米国が対立国への経済制裁などの手段にしてきた基軸通貨「ドル」の覇権は揺らいでいる。
 中国の台頭を阻止することは米国にとって最大の戦略的課題である。もはや手遅れとも思われるが、最後の悪あがきを続けており、各国を巻き込んで情勢を極めて不安定にしている。「アジア太平洋」に米欧日豪など各国が軍艦を繰り出して中国を威嚇、挑発し、東南アジア諸国連合(ASEAN)は地域の不安定化に警戒心を高めている。韓国も、日米英などの共同訓練を続けている英空母「クイーン・エリザベス」の釜山寄港を拒否した。注目すべき動きである。
 バイデン大統領は対中包囲網を形成するに当たって「民主主義対専制主義の戦い」などと言って、先進七カ国(G7)の協調体制を再構築し、豪印なども巻き込んで中国と対峙(たいじ)しようとしている。だが、欧州諸国は自主的傾向を強めており、豪印は中国との経済関係が深く、協調体制は危ういものである。
 世界をくまなく見渡してみれば、先進諸国と新興国、途上国との経済格差はますます広がっており、資本主義の危機は格差の拡大に拍車をかけている。コロナワクチンでも先進国と途上国の格差は広がっており、一握りの先進国に対する新興国、途上国の不満は増大している。
 G7などは民主主義や人権などを「普遍的価値」と称して他国に押し付けているが、世界では「民主主義」や選挙制度は形ばかりで実際は「専制主義」的な国の方が圧倒的に多いのが実際である。貧しい国の方が多いからである。中国は経済発展を切望している多くの途上国を「一帯一路」などの経済戦略で引き付けてますます影響力を拡大するだろう。だから、バイデン流の「民主主義対専制主義」では中国を打ち負かすことはできない。アフガンでの歴史的な敗北がそれを証明している。
 米国を頂点とした東西冷戦崩壊後の世界秩序は終焉を迎え、大きな転換の最中である。米国と肩を並べて「反中国」を叫ぶのは、アジアの中で孤立へひた走る道である。

新たな国の進路を
 日米安全保障条約締結七十周年を迎えた。
 この七十年間に世界は大きく変わった。冷戦崩壊から三十年でもすっかり変わった。各国間の力関係も変わり、米国主導の世界ではなくなったにもかかわらず、わが国は日米安保に縛られて世界で自主的に生きる道を閉ざされている。
 日中国交回復から五十年になるのを目前に、菅政権は「一つの中国」という外交原則を投げ捨て、対中包囲網構築の先兵役を担う道に踏み込んだ。米国は「台湾防衛」を口実にわが国を対中国の最前線に立たせようとしている。わが国は、対中外交で「後戻りできない」ところに立たされているのである。だが、わが国の存亡にかかわる重大局面で、与党内から国の生き方を問う声は出ていない。歴代の保守政治家は、困難な中でも日中の外交関係を進めてきたはずである。
 「反中国」の大合唱に加わっている立憲民主党や共産党など野党も全く無責任である。衆議院選向けのの四野党の共通政策合意を見ても、国の生き方を根本的に転換するような政策は全く見えない。
 歴史の大きな転換期に、国の生き方を根本的に転換する広範な国民運動が切実に求められている。(H)


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