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2021年8月5日号 2面・解説

「脱炭素」が迫る産業構造の転換

気候変動めぐる争い激化

 世界各地で大規模な風水害、干ばつ、熱波などが相次ぎ、甚大な被害が出ている。気候変動はもはや「異常」気象ではなく常態化し、企業家たちも地球環境の「持続可能性」を口にせざるを得なくなった。気候変動は単なる自然現象にとどまらず、生産や資源、経済、社会、国際政治などあらゆる面に影響を及ぼしている。資本主義の行詰りはこの点からも明らかである。
 国連気候変動枠組条約第二六回締約国会議(COP26)が十一月、英国で開かれる。
 それに先立って二十カ国・地域(G20)の各種会議などでも気候変動対策について議論されているが、先進国と新興国、産油国、海洋国なさまざまな利害が錯綜、対立し、合意形成は容易でない。
 気候変動枠組の第一回締約国会議(COP1)は、一九九五年独ベルリンで開催された。九七年のCOP3では温室効果ガスの削減目標を決めた「京都議定書」が採択された。「議定書」は先進国と新興国の対立で、新興国を拘束するものではなかったし、先進国内でも米国が「議定書」の承認を拒否、さらにロシア、カナダ、日本も二〇一二年からの「議定書」の延長に反対するなどしたので「議定書」は葬り去られた。これらの政権は、米国・共和党に典型だが、化石燃料産業や原子力産業と強く結びついており、気候変動対策に事あるごとに反対してきた。
 だが、この間にも気候変動による地球環境の悪化はいちだんと進み、ますます人類の生存そのものを脅かすほどになった。
 一方、技術革新が急速に進み、再生エネルギーの開発や省エネルギー技術も進んだ。リーマン・ショック後の世界経済停滞の中、新たな投資先、儲(もう)け先として再生エネや省エネが俄然注目されるようになった。
 締約国会議は毎年開かれたが、いずれも成果は少なかった。ようやく、一五年(COP21)の「パリ協定」で、「産業革命前と比較した気温の上昇幅を『二度を十分に下回り、一・五度に抑える努力をする』と途上国を含むすべての国が削減目標を掲げて公表する仕組みとなり、約百九十カ国・地域が批准した。合わせて、同年、持続可能な開発目標(SDGs)が,国連サミットで全会一致で採択され、三〇年までの国際目標が決められた。

脱炭素で進むエネ転換
 気候変動対策を進める上で中核的な技術が再生エネルギー、省エネルギーといわれている。水素やアンモニアの利用なども含めて従来のエネルギー政策の大転換となる。
 導入量が増加すれば価格は低下し、低下すればさらに導入量が増加するように、太陽光パネルの国際価格は、直近の十年間で一〇分の一に(一九七五年と比較すれば一〇〇分の一)、風力は三分の一、蓄電池は四分の一に下がっている。発電コストは劇的に下がり、今までの化石燃料発電や原子力発電からの転換を容易にしている。
 エネルギー転換は必然的に大きな産業構造の転換を引き起こす。産業構造の転換は当然、企業の存廃、労働者の雇用などの生存諸条件を大きく変える。労働運動にも大きな影響を与える。

米「パリ協定」に復帰
 バイデン米大統領は、今年一月の就任直後、トランプ前政権が離脱した地球温暖化対策の国際的枠組みである「パリ協定」へ復帰する大統領令に署名した。バイデン政権は、落ち込んでいる米国経済の再建を図るため、環境・インフラ投資に八年間で二兆ドル(約二百二十兆円)を投じる計画で、地球温暖化対策を最重要政策の一つとして位置付けている。
 就任後の四月には「気候サミット」を主宰、中国も含めて主要排出国が目標年度、排出削減目標などを議論した。米国は自身の経済対策に有利になるよう各国に同調を求めているが、必ずしも足並みが揃ったわけではない。しかも、国内の分裂と対立が激しく、来年の中間選挙の結果次第では議会も不安定化する可能性がある。バイデン氏の願望通りに米国が気候変動対策で引き続き主導権を発揮できるかはまったく不透明である。

主導権確保を狙う欧州
 気候変動対策では、欧州連合(EU)は世界に先行して規制の強化、構造転換を進める政策をとり、ノウハウも蓄積してきた。独メルケル政権はいち早く原発の凍結、廃止を決めたし、各国とも再生エネの導入に力を入れている。また、温暖化対策の国際ルールづくりの議論をリードしてきた。
 脱炭素の目標達成に向けて欧州委員会はすでに、投資の流れを環境関連事業に向ける仕組みを来年から導入するための基準「欧州タクソノミー」や、環境規制の緩い国からの輸入品に関税をかける国境炭素調整措置(CBAM)を含む包括案を公表している。包括案にはガソリン車やディーゼル車など内燃機関車の三五年までの事実上の販売禁止や自動車や冷暖房の燃料に炭素価格を課すことなども含まれている。
 環境ルールづくりで主導権を確保したい欧州は、米日との対立・摩擦も辞さないという強い姿勢を貫いている。

存在感を増す中国
 中国は「二〇三〇年までにCO2排出のピークアウト」「六〇年カーボンニュートラル」の目標(二〇年、国連総会での習近平演説)を掲げている。
 中国は二酸化炭素排出量では世界最大で、「六〇年」目標には先進各国からは批判もある。だが、中国の巨大な人口と産業構造、国内の貧富の格差解消のためのインフラ整備の必要性などを考えると、「六〇年」目標を達成するための政策の継続性を保障する政治体制があるということが重要な点である。
 中国は、一〇年代以降、急速に再生エネの導入を進めており、昨一年間だけで風力発電を前年の二・七倍、太陽光発電も八割増で、これは原発百二十基分に相当すると言われている。しかも、国策として再生エネ、EV(電気自動車)化を進めている。中国企業は太陽光パネルで世界の約八割、風力設備は約五割のシェアを占めている。またEV電池・車載電池でも三割以上を占めるまでに急成長している。EVの生産に欠かせないレアアース(希土類)の生産・加工の九割のシェアを中国が握っている。
 脱炭素をめぐっても中国の存在は大きくなっている。

日本の立ち遅れ鮮明
 コロナ禍でわが国のデジタル化での立ち遅れが鮮明になったが、気候温暖化対策でも大きく世界に立ち遅れている。これは、これまでの自公政権、旧民主党政権に大きな責任がある。
 例えば、温室効果ガス排出削目標について、〇八年に福田政権は「五〇年までに現状から六〇〜八〇%削減」目標を閣議決定した。〇九年に鳩山政権は「五〇年までの八〇%削減」、一二年にも野田政権が同じく「八〇%削減」を閣議決定したが、自民党政権でも旧民主党政権でもこれを実現するための政策は何一つ実行されなかった。全くの空手形だった。
 一一年の福島原発事故は世界に衝撃を与え、ドイツは原発廃止を決めたが、わが国はいまだに原発にしがみついている。普通の企業なら主力工場が十年間も操業停止ならとっくに倒産である。
 一九七〇年代の石油ショックを「省エネ」で乗り切ったわが国だが、九〇年代から欧米と比較してもエネルギー消費量は減らず(IEA調査)、「省エネ」でも世界に遅れを取るようになった。また、温暖化対策での評価は主要排出国五十八カ国中、四十五位(独シンクタンク報告)という惨憺(さんたん)たる状況になっている。
 菅政権は、慌てて「五〇年カーボンニュートラル」を打ち出したが、具体的な政策は乏しく、ますます世界との差が開くと思われる。米国や欧州はコロナ危機後の成長戦略として「脱炭素」など環境とデジタルなどIT(情報技術)に巨額の投資を計画している。わが国の投資計画は米欧に比べても一〇分の一程度と貧弱で、国家財政の制約も大きい。財界からも悲痛な声が上がっている。

資本主義の歴史的転換期
 コロナ禍は、すでに進行していた経済危機をさらに加速した。気候変動は、単なる自然災害ではなく、階級、民族、国家などの相互関係の大きな変動要因となっている。デジタル技術の急速な発展が資本主義的生産様式の変革を迫っているように、急激な気候変動もまた産業革命以来の生産様式の行き詰まりを示している。「脱炭素」の流れはエネルギー構造、産業構造を大きく転換する。故に企業家もまた血眼になって生き残り競争に入っている。「社会革命」の時代。歴史的変革の流れは早まっている。(H)


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