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2021年7月25日号 1面

台湾危機あおる「防衛白書」
日米基軸の軍事大国化を加速

中国敵視の多国間軍事協力反対

 バイデン米大統領就任後初の日米首脳会談(四月)で、菅首相は米国に全面的に追随し、台湾を明記した日米共同声明を発表した。これまでの対中政策を大きく踏み越えて、わが国がすすんで対中国の「不沈空母」とすることに合意したのである。バイデン政権は、先進国首脳会議(G7)などとの同盟再構築で対中対抗策の強化をはかっているが、日本は一段と役割を担わされる。日米の軍事協力だけなく多国間の軍事協力も強化され、アジアの軍事的緊張は高まっている。
 こうした情勢を反映して、防衛省が七月十三日、二〇二一年度版「防衛白書」(以下「白書」)を発表したが、その内容は、これまでにも増して中国への対抗に踏み込んだ内容となっている。また「白書」の中だけでなく、実際にも中国を想定した多国間の共同訓練もいちだんと頻繁に、大規模になっており、わが国は米国の尻馬に乗って亡国の道を突き進もうとしている。

巻頭言でも中国対抗強調
 安倍前首相の実弟である岸防衛相は「白書」の巻頭言で、冒頭から「中国が東シナ海や南シナ海で一方的な現状変更を試みているだけでなく尖閣諸島周辺で領海侵入を繰り返し、海警法を施行するなど緊張を高めている。断じて受け入れられない」と中国への警戒を呼び掛けている。
 「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」ビジョン推進のために「唯一の同盟国である米国との連携は最も重要」「バイデン政権就任後初めての外国首脳との会談として日米首脳会談が行なわれ」と有頂天になり「ゆるぎない日米同盟の絆をさらに確固たるものとするべく、同盟の抑止力・対処力の一層の強化に努める」とはしゃいでいる。さらに「防衛省・自衛隊としても、同盟国である米国だけではなく、オーストラリア、インド、英独仏をはじめとする欧州諸国、カナダ、ニュージーランドなど、わが国が掲げる『自由で開かれたインド太平洋」というビジョンを共有する国々と積極的に協働」すると、多国間の軍事協力を推し進める考えを述べている。
 そして「インド太平洋地域における普遍的価値の旗手として、自由を愛し、民主主義を信望し、人権が守られないことに深く憤り、強権をもって秩序を変えようとする者があれば断固としてこれに反対していかなければなりません」と、「価値観」を全面に押し出している。昨年、一昨年の河野前大臣の、いわば「抑制的」な「白書」巻頭言とは大きく様相を変え、敵愾心(てきがいしん)をむき出しにして、中国への対抗を呼びかけている。安倍前首相の受け売りであろうか。

台湾問題を新たに
 今年の「白書」では、第一部の「わが国を取り巻く安全保障環境」の第二章「諸外国の防衛政策など」の中に第三節「米国と中国の関係など」が入った。これはこれまでの「白書」にはなかったものである。
 「一、米国と中国の関係(全般)」では、米中間の政治、経済問題を中心に主にトランプ政権以降の経過、「二、インド太平洋地域における米中の軍事動向」では、南シナ海で中国の動きと対抗する米国の動向や台湾問題をめぐる米中の動向、「三、台湾の軍事力と中台軍事バランス」では、中国の台湾統一政策、中国と台湾の軍事力の比較等々である。
 内容的には、単なる米中関係ではなく、台湾問題をめぐる米中関係と中台関係が中心である。
 言うまでもなく、台湾は中国の一部であり、わが国が台湾についてあれこれいう立場には全くない。ましてや中台の軍事バランス云々という記述の仕方は、台湾の「独立」を前提としたような話で、全くのお門違いである。「白書」のこういう項目建て自身が「内政干渉」である。中国がこの「白書」に強く反発するのも当然である。

拡大する多国間訓練
 安倍前政権は一四年に集団的自衛権容認の閣議決定、一五年に安全保障関連法を成立させ、わが国の防衛安全保障政策を大転換させた。以来、日米安保条約に基づく日米の軍事協力や「専守防衛」の枠をはるかに超えて、米国以外の軍隊との多国間の共同軍事訓練が、年を追うごとに、より頻繁に、より大規模に行われるようになってきている。それもわが国の周辺海域だけでなく、インド洋、南シナ海、南太平洋、西太平洋などにも広がっている。また、国内の自衛隊基地や演習場でも米軍以外の外国軍隊との共同訓練がやられるようになっている。
 最近でも、四月にベンガル湾で仏海軍と、五月には米豪仏海軍と佐世保を中心に、さらに霧島演習場で国内では初めて仏陸軍も加わって、六月には沖縄東方海空域、インド洋、グアム西方海空域、関東南方海域、豪州北方海空域で海自と米空母も含めた訓練がほぼ連日、七月に入ると中国共産党創立百周年に合わせて奄美駐屯地をはじめ全国各地の駐屯地・演習場で陸自と米陸軍の最大規模の共同訓練「オリエントシールド」が行なわれた。
 さらに、豪と米国の両軍と英日韓などの多国間共同訓練「タリスマンセイバー」が、七月十四日から豪州国内と周辺海域で始まっている。前回一九年は八カ国による訓練だったが、今回は仏独などが加わって十一カ国が参加する訓練始まって以来最大規模の訓練が展開されている。
 バイデン政権は、G7を足掛かりに対中対抗を強めようとしているが、わが国もまた米日豪印(クワッド)を中心として軍事協力を推進し、アジアでの軍事的緊張を高めている。

麻生の妄言を許すな
 報道によれば、麻生副総理兼財務相が五日、都内で講演し、中国が台湾への圧力を強めていることを踏まえ「台湾で騒動になり、アメリカ軍が来る前に中国が入ってきて、あっという間に鎮圧して『中国の内政問題だ』と言われたら、世界はどう対応するのか」と指摘した上で「台湾で大きな問題が起きると、間違いなく『存立危機事態』に関係してくると言っても全くおかしくない。日米で一緒に台湾を防衛しなければならない」と述べ、中国が台湾に進攻した場合「存立危機事態」にあたる可能性があるという認識を示したというのである。
 言うまでもなく、わが国は、七二年の日中国交正常化の際の日中共同声明で「台湾は中国の領土の不可分の一部であるとする中国政府の立場を『十分理解し、尊重し、ポツダム宣言第八項に基づく立場を堅持する』」と表明しており、麻生の今回の発言は日中関係のもっとも根本的な日中間の合意を完全に否定するものである。
 台湾への中国の「進攻」が起これば、「台湾を防衛する」ために日米で中国と闘うというのである。これは中国側からすれば「侵略戦争」そのものである。副総理という政権中枢の発言として、断じて許されるものではない。かつてなら麻生が辞職に追い込まれるか、内閣総辞職ものである。

麻生批判できぬ野党
 だが、こうした麻生発言に対して野党である立憲民主党や共産党もひと言も追及の声さえ上げていない。「赤旗」でも一切報道なしである。「安保・外交問題を対立軸にすべきではない(立憲・枝野代表)」という立憲民主党や「中国は覇権主義、中国共産党は共産党の名に値しない(共産党・志位委員長)」などとマスコミあげての中国叩きの大合唱に加わっているのだから、そういう体たらくだろうが、麻生のような発言を野放しにすればかつての中国侵略と同じ道をたどる、まさに亡国の道を歩むことになる。麻生追及の声を上げれば「台湾」や「尖閣」問題に言及せざるを得ず、「共闘」に響くのか?追及しないから、結局は麻生らの思う壺である。
 総選挙を目前にして目先の「票」と「議席」欲しさに節操もなく「野党選挙協力」にうつつを抜かし、国の生き方が真剣に問われる問題でまともに闘わない腰抜け野党の責任はきわめて重い。

世界は激変している
 衰退著しい米国は、昨年の大統領選挙をめぐる大混乱に見られるように国内での深刻な分裂と対立に引きずられながら、必死に中国と対抗し、蹴落とそうと悪あがきを続けている。だが、客観的にみれば米中の力関係はすでに逆転の流れの中にある。この流れを押しとどめる力は既に米国にはない。世界は、中国やアジア諸国も含めて、複雑で強固なサプライチェーンで結ばれており、この流れを断ち切ろうとするバイデン政権の対中対抗策はまさに時代錯誤で、成功するはずがない。
 わが国の生き方も深刻に問われている。「白書」巻頭言で、岸防衛相が言うほどわが国は「旗手」とは見られていないし、中国をにらんでいくら強がりを言っても、日中間の力の差は歴然としている。
 中国と敵対し、アジアで孤立する亡国の道ではなく、アジアの一員として「平和」と「互恵」の道を歩むべきである。 (H)


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