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2021年7月5日号 2面・解説

「枝野ビジョン
支え合う日本」批判(上)

与党と並び「日米同盟」進展

 東京都議選が終わり、政局は四年ぶりの衆議院議員総選挙へ向けて動き出している。
 この四年間だけ見ても、わが国を取り巻く環境は激変した。その中で七年八カ月の安倍政権とそれを引き継いだ菅政権の一年に対する審判が下される。
 短期的には、安倍・菅政権の新型コロナウイルス感染症対応に対する不満、東京五輪・パラの強行などで内閣支持率は低迷したままである。一方、野党の側も政権に対して明確な対決軸を示せず、こちらも支持率は低迷したままで、「政権交代」といっても現実味はない。だが、選挙前には「野党共闘」の動きや、「野党連合政権」などの幻想も振りまかれる。
 そういうの中で、野党第一党である立憲民主党代表の枝野氏が『枝野ビジョン 支え合う日本』(文春新書)を五月に出版した。
 枝野氏が本書の「はじめに」で述べているように「(総理になる)準備と覚悟の一端を示すことができた」ということで、これが立憲民主党の政策のすべてではないにしても、立憲民主党の基本的な政策のベースであるといえる。だが、野党共闘の中心に座る枝野氏の主張には、国の進路を危うくする内容が多く含まれている。批判的に紹介する。

「変わらぬ政治」強調
 本書は十一章で成り立っているが、第一章から第十章までは、「保守本流」を自認する枝野氏の理念、旧民主党政権の経験の総括、わが国の現状評価や内政の課題、めざす社会・政治などについてである。
 本書全体を貫いているのは、「立憲民主党の政権」になっても「今までの政治とあまり変わりませんよ。有権者の皆さん安心してください」というアピールである。一〜十章については次回に回し、まず、第十一章の「地に足の着いた外交・安全保障」から検討してみたい。

短期と中長期のごまかし
 枝野氏は、安心してもらうために「一、外交・安全保障における選択肢」の冒頭で「私は、短期的な外交・安全保障政策について、政権を競い合う主要政党問における中心的な対立軸にすべきでないと考える」と述べている。さらに、「外交・安全保障政策を真撃に考えれば、短期的に示し得る選択肢は、一見すると大きな違いにはならない。新しい立憲民主党の綱領も『健全な日米同盟を軸に』とその基本方針を明記しており、私は、それを進展させたいと考えている。さらに「それでも、中長期的には『何を目指していくのか』によって、将来大きな違いとなり、国民生活を大きく左右する」と、「短期的」政策と「中長期的」政策を分けている。
 もっともらしく見えるが、これはごまかしである。中長期がどの程度の期間かはともかく、中長期も短期の発展・延長線上にあるから、短期的な政策と相容れない中長期はあり得ない。だから、短期的といおうがいうまいが、枝野氏は、外交・安全保障政策を政党間の対立軸にすべきではないと言っているのである。

中国敵視の「領域警備」
 立憲民主党綱領や枝野氏がいう「健全な日米同盟」の「進展」とはどういうことか。これは鳩山・民主党政権のときに悪化した日米関係を念頭に、日米同盟による軍事行動も含めた関係の深化ということであろう。米国が歓迎しないはずがない。
 さらに、枝野氏は、「短期」の安全保障問題で「特に尖閥防衛を考えたとき、米軍による十分な関与が得られない場合に備えた、日本自身の対応力を強めることこそが求められる」と、尖閣防衛だけを焦眉の課題のように取り上げ、日本自身の対応力を強めるとしている。
 立憲民主党は六月、「領域等の警備及び海上保安体制の強化に関する法律案」を衆議院に提出。その内容は海上保安庁の人員、装備の強化と自衛隊が海上保安庁の警備行動を補完するための「海上警備準備行動」をとれるようにするというものである。尖閣を口実とした立憲民主党、枝野氏の「領域警備」は中国敵視で一貫している。

菅政権と「対立」せず
 今年四月の日米首脳会談で菅政権は、これまでの対中外交を大転換させ「台湾」問題を明記した対中国対抗・敵視政策に踏み込んだ。そして米国の先棒をかついで主要七カ国首脳会議(G7サミット)などでも中国対抗で足並みを揃えるよう立ち回った。いまや日米豪印だけでなく英仏も含む多国間の合同軍事演習を実施するまでに軍事的緊張を高める政策を進めている。
 この六月から七月にかけても沖縄・先島だけでなく奄美群島一帯、さらに全国で、日米の合同軍事演習が実戦さながらにやられている。馬毛島への自衛隊基地建設、オスプレイ配備計画や離島へのミサイル配備も進められている。これが枝野氏がいう日本の「短期的」な外交・安保政策の現実である。枝野氏は、こうした「短期的」な現実に「対立軸」はないというのである。
 一九九五年九月、当時の自民党政調会長の加藤氏が自民党広報誌の対談で「村山政権ができて以来、安保問題では国内ではもはや争点ではなくなった」と述べた。その直後に沖縄で米兵による少女暴行事件が発生、以降の沖縄県民の闘いは安保問題での日本の状況を一変させた。そしてこんにちまで沖縄県民は粘り強く闘っている。沖縄を含むわが国にある米軍基地の現実は何一つ変わっていないばかりかいっそう悪化している。枝野氏はすっかりお忘れのようである。
 また枝野氏は、「日米同盟が基軸という基本方針の下、短期的には現実的に、そして中長期的には『人権・民主主義・地球環境・核軍縮・公平なルール作り』という五本柱で国際社会における役割を果たすことを目指し、リーダーシップを発揮していく」と述べている。「短期」の延長線上にだから「核軍縮」もふくめて今の自公政権とほとんど変りはない。
 本書では、「日本とその周辺の平和と安定のためには、日米二国聞にとどまらず、その同盟関係を基軸としながらも多国間の枠組みでの努力を重ね、東アジアにおける安定的な秩序を構築し、それを乱すことは許さないという国際合意を積み重ねることが重要である」とある。枝野氏がいう「日米同盟を基軸とした多国間の枠組み」というのは日米豪印(クワッド)のことであろう。これも安倍・菅政権と同じである。

尖閣問題もて遊ぶ
 枝野氏は本書の中で「現実的」「具体的」とたびたび強調する。だが「現実的」「具体的」な国際社会、とりわけ中国、韓国、朝鮮を含む対アジア諸国に対する具体的な外交政策は、中国敵視の尖閣防衛以外ひと言も述べられていない。
 来年は日中国交回復五十周年という大きな節目である。「東アジアにおける安定的な秩序を構築」するためには「現実的」「具体的」に世界とアジアで存在感を増している中国との「具体的」「現実的」な外交政策なしには何も進まないのではないか。経済規模ではとっくにわが国を追い越し、米国と肩を並べ、追い越すことがますます「現実的」になってきている。そういう隣国とどういう関係をもっていくのかが「短期的」にも「中長期的」にも問われている。
 中国に進出している日本企業は約一万三千六百社(二〇二〇年、帝国データバンク)、中国との輸出入などのビジネスを行なっている日本企業は約三万社あり、巨大市場を背景に強固で複雑なサプライチェーンで結ばれている。米国に進出している日本企業は約六七百社(同)と半分である。わが国の貿易に占める対中貿易の比率も過去最高になっている(二〇年、ジェトロ)。
 日中間の問題では些細な問題に過ぎない尖閣問題をもて遊び、中国を敵視し、南西諸島の「防衛力」配備強化でわが国の「国益」が守られるのか。安倍・菅政権と対立軸のない外交・安全保障政策が行きつく先は、米国といっしょになって国を亡ぼす道である。

「野党共闘」希望持てるか
 総選挙へ向けて「野党共闘」が叫ばれるが、こうした立憲民主党や枝野氏の外交・安全保障政策にアジアの平和・繁栄の希望が見い出せるだろうか。
 枝野氏に「今、必要なのは観念論から脱却した、地に足の着いた現実的な外交・安全保障論である」とお返ししておかねばなるまい。
 今回は「外交・安全保障」を取り上げたが、次回は、一〜十章の内政やめざす社会について取り上げる。       (H)


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