ホーム労働新聞最新号党の主張(社説など)/党の姿サイトマップ

2021年6月25日号 1面

国民犠牲・中国敵視の「骨太」
デジタル化軸に巻き返し策す

悪あがきの菅政権打ち倒そう

 菅政権で初めてとなる「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」「成長戦略実行計画」が六月十八日閣議決定された。
 いわゆる「骨太の方針」は二〇〇一年の小泉政権以来、歴代保守政権の政策の基本として位置づけられてきた。近年は各省庁の予算要求のための施策の寄せ集めという声もあるが、資本主義の危機がいっそう深まる中、菅政権の大企業奉仕、対米従属の姿があらわになっている。

4分野が成長の源泉
 今回の「骨太の方針」の背景は「世界経済の変化が単なる景気回復にとどまらず、経済構造や競争環境に大きな影響を与える変化がダイナミックに発生している」とみて、世界的な課題として「カーボンニュートラル」「デジタル化」「国際的な取引関係、国際秩序の新たな動き」を特徴づけている。そして「内外の変化を捉え、構造改革を戦略的に進め、ポストコロナの持続的な成長基盤を作る」ことめざすとしている。そのために(1)脱炭素化、(2)デジタル化の加速、(3)新たな地方創生、(4)少子化対策・子育て支援が「成長を生み出す四つの原動力」として位置づけられた。
 菅政権の看板政策の羅列だが、多くの課題は小泉政権以来、歴代保守政権が様ざまに掲げてきた「構造改革」政策の焼き直しのようなものである。わが国が内政上抱える課題がこの二十年来ほとんど打開できず、停滞したままで、コロナ禍は、わが国のさまざまな立ち遅れをさらけ出した。骨太方針には財界・支配層の焦りがにじみ出ている。さらに、激変する国際情勢に対応し、「経済安全保障」など米国とともに中国への対抗策強化に踏み込むための政策も「骨太の方針」に盛り込まれた。

国民生活をさらに苦境に
 コロナ禍は、それまでも悪化していた国民生活をさらに苦境に追い込んでいる。多くの自営業者や中小零細企業が倒産・廃業に追い込まれている。何カ月も待たされる給付金や補助金の支給が間に合わず息絶えている。非正規・パートなど、とりわけ女性労働者は過酷な状況にある。「ポストコロナ」どころではなく、いま目の前で進んでいる国民生活の危機にどう対応するかが問われている。
 だが骨太方針では、雇用や社会保障面では、雇用調整助成金特例の段階的廃止やジョブ型雇用の普及・促進、裁量労働制の対象拡大、兼業・副業の普及・促進などが掲げられ、社会保障費の削減継続もうたわれている。労働者の苦境はさらに深まるばかりである。また病院の再編・統合、病床削減などの地域医療構想の推進なども進めるとしており、国民の生命・生活はいっそう危うくなる。
 また、コロナ禍対応で立ち遅れが明らかになったデジタル化の推進のために、行政手続きの大部分を五年以内にオンライン化することを盛り込んだ。菅首相肝いりの「デジタル庁」の発足が目玉商品となっている。この狙いは個人情報を含む「行政機関が保有する社会の基本的なデータ」を民間企業にも提供する「流通の促進」にある。
 経団連は昨年十一月に発表した「新成長戦略」で「多様な主体が連携してデジタル技術でデータを活用する」ことが「死活的に重要」だとしている。「行政のデジタル化」は毎年掲げられたが、この二十年間まったく進まなかった。特に各省庁と自治体間の連携がどのくらい進むのかは不透明である。だが、デジタル化推進でばく大な利権にありつけるNTTや電通など情報通信企業などにとっては垂涎の的であるということだけは確かである。
 さらに、マイナンバーカードを「二〇二四年度末にほぼ全国に行き渡ることをめざす」と同時に「国民の利便性を高める」として「健康保険証、運転免許証との一体化」を進めるとしている。国民への徴税強化や治安対策での国民監視体制の構築を急いでいるが、マイナンバーカードが普及しないのは、多くの国民が安倍をはじめ歴代首相の「ウソつき」「隠ぺい」体質を見抜き「政府を信用していない」からである。

中国対抗の経済安全保障
 今回の「骨太の方針」で見逃せないのは「経済安全保障に関わる戦略的な方向性として、基本的価値やルールに基づく国際秩序の下で、同志国との協力の拡大・深化を図りつつ」進めるという点である。四月の日米首脳会談で菅政権は米国と連携していちだんと中国への対抗を強める道に踏み込んでおり、先端技術面でも中国との距離をおきながら日米の結びつきを強める方向を打ち出している。
 経済安全保障について「半導体、人工知能(AI)、量子、5Gなどの育成・強化」を打ち出し、経済安全保障に関わる情報収集・分析・集約・共有などに必要な体制強化を構築すること、「安全保障の観点から非公開化を行うための所要の措置を講ずるべく検討」することも明記されている。これらは皆、中国に対抗するためである。
 半導体は「国際戦略物資」として一国の産業競争力の死活がかかる分野である。わが国は一九八〇年代に世界市場の五〇%以上を占めていたが、今では一〇%にまで落ち込むなど競争力を失っている。これは当時の日米半導体交渉にみられるように米国による不当な圧力に屈し(日米半導体協定)、さらに韓国・台湾企業を含む猛烈な巻き返しによって市場撤退を余儀なくされたからである。
 米国は中国と「技術覇権」をめぐっても激しく争っており、「同盟国」を巻き込んだ対中戦略を展開しようとしている。菅政権がいう「経済安全保障」は、日本経済の産業競争力強化戦略を米国による対中封じ込め戦略の枠組みの中に位置づけるものである。これは、日本の産業政策をますます米国の対中戦略に従属させ、「国益」を大きく損なう道である。米国はいつでも日本を抑え込むことができるのである。

悪政遂行の「骨太の方針」
 政府の経済財政政策の基本を「骨太の方針」として最初に掲げたのは二〇〇一年の小泉政権である。小泉構造改革で郵政民営化や「三位一体改革」による地方切り捨てなどが急速に進み、派遣労働の拡大など労働者への犠牲の押しつけも強まった。一方、竹中平蔵らの悪党は目玉政策にたかって私腹を肥やした。
 歴代保守政権は、経済財政諮問会議(これは財界の代表が二人入ることが決められている)で原案が示され、毎年六月に閣議決定される、こうした手法を踏襲してきた。「官邸主導」とか、選挙で選ばれたとか、「議会制民主主義」というのは形ばかりで、その政権は企業社会という基盤の上に成り立っている政権であり、企業家たちの「共同の事務所」である。まさにそういう政治が行われているのである。
 そして、安倍政権になってからの「骨太の方針」は散々な結果となった。毎年、華々しく政策が打ち上げられるが、その実効性はまったく検証されず、次から次へと看板を掛けかえた。「デフレ脱却」「三本の矢」「女性活躍」「地方創生」「一億総活躍」「働き方改革」「人生百年構想」「人づくり革命」などである。
 だが威勢のいいスローガンと実際の狙いは別で、「人生百年構想」は定年を七十歳延長と年金の支給年齢引き上げが狙いであるし、「働き方改革」は電通の新入女性社員が長時間労働で過労死自殺した事件を受けて急きょで出てきたものである。長時間労働の是正や非正規社員の待遇改善はまったく進んでおらず、劣悪なままである。
 一方で、国の進路を誤る悪政だけがまかり通ってきた。一三年の特定秘密保護法、一五年の安全保障関連法立、一七年の共謀罪法、「モリカケ問題」の封殺、一八年、沖縄・辺野古新基地の埋め立て強行などなどである。
 第二次安倍政権の七年八カ月は、日銀の異常な金融緩和の継続は株高など資産バブルとなり貧富の格差は拡大したが、「成長戦略」はほとんど成果なく、国内総生産(GDP)は停滞したままだった。「デジタル後進国」になり果て、増えたのは国の借金と国民の怒りだけである。
 そして、コロナ禍の拡大のなかで安倍政治は行詰り、政権を放り投げたのである。

菅政権打倒の戦線を
 「安倍政治を継承する」という菅政権だが、コロナ禍の収束が見えない中で、感染症対策、経済対策も場当たり的で右往左往するばかりである。外交政策では、先の主要七カ国首脳会議(G7サミット)にみられるようにバイデンの太鼓持ちを演ずるなどいちだんと対米追随と政治軍事大国化の姿勢を強めている。
 今回の「骨太の方針」も、安倍時代に散々だった「骨太の方針」と変わらず、資本家自身が「持続不可能」と言わざるを得ないこんにちの資本主義の危機を打開する道は示せない。
 しかし、資本家が生き延びるための悪あがきは国民大多数に犠牲を強いる。それだけは確かで、無力な野党に幻想を抱かず、悪政をすすめる菅政権を打倒する広範な戦線と強力な国民運動の組織化に力を入れよう。(H)


Copyright(C) Japan Labor Party 1996-2021