ホーム労働新聞最新号党の主張(社説など)/党の姿サイトマップ

2021年6月15日号 2面・解説

G7サミット/
中国への対抗強める

米日の包囲網は破たん必至

 衰退する米国が台頭する中国を抑え込むことは、国内問題では鋭く対立する民主党、共和党ともに一致する数少ない課題である。
 昨年のサミットではドイツのメルケル首相が出席を拒否した。どうやって「西側」諸国の結束を取り戻すかは、バイデン氏にとって第一級の外交課題である。バイデン氏は四月の米議会での施政方針演説でも「われわれは戻ってきただけでなく、私たちがここに居続けるということ、単独で進むことはないということを示さなければならない。同盟国を率いていくのだ」「あらゆる危機に単独で対処できる国はない」と述べるなど、力の衰えを認めつつも、同盟国の中でのリーダーシップを強調した。

中国包囲の策動強化
 米国はG7サミットへ向けて念入りに準備を重ねた。
 五月初めから、G7外相会合、気候・環境相会合、貿易相会合、保健相会合、二年ぶりの対面形式の財務相会合などの準備会合がやられ、それぞれの課題についてG7としての意見のすり合わせが行なわれた。
 外相会合では、初めて「台湾海峡の平和と安定の重要性を強調し(中台)両岸問題の平和的解決を促す」との共同声明が出された。貿易相会合では、新疆ウイグル自治区を念頭に「強制労働の排除」、保健相会合では、中国に対抗して十億回分のワクチン提供などが合意された。また、財務相会合では法人最低課税率などで合意したほか、中国が開発を進めるデジタル人民元へのけん制を強めた。
 さらに、サミット開会前日には、議長国のジョンソン英首相との会談で、中国を念頭に「法の支配や人権、公正な貿易など民主主義に基づく価値」を守るために米英が協力するという「新大西洋憲章」が署名された。

中国批判に奔走した菅首相
 こうして開かれたG7サミットで、菅首相は、中国を連日名指しで批判した。「東・南シナ海における一方的な行動や人権状況はG7の価値観とは相いれない」と強調し、各国首脳に連携して行動するよう求めた。また、「産業補助金をはじめとする市場わい曲的な措置、デジタル保護主義、重要技術の流出といった経済面でもG7の価値観とは相いれない」と中国を批判した。菅首相はバイデン大統領と協議しながら首脳宣言での対中抑止の文言の明記に奔走した。

中国抜きに決まらぬ世界
 今回のG7サミットでは、米国が主導する形で、インフラ投資のための新しい資金支援制度でも合意した。米政府高官は「質の高い選択肢を示すことで、中国の『一帯一路』を打ち負かせる」と強調した。今回のG7サミットは西側諸国が世界を率いることができる最後のチャンスともいわれていたが、G7が結束して中国の急速な台頭と対抗できるだろうか。
 二〇〇一年には、G7全体の国内総生産(GDP)のわずか六%しかなかった中国の経済規模は、二〇年には四割近くまにで増大した。数年中に米国の経済規模を追い抜くと見られており、米国一国で中国と対抗するのは難しい。
 しかも、中国は欧州連合(EU)の最大の貿易相手国で、東南アジア諸国連合(ASEAN)や他のアジア諸国との経済的結びつきも強い。何かと張り合うインドでさえ中国が最大の貿易相手国である。また、経済力とともに米国の脅しに対抗する軍事力も強化されている。  中国の政治的な発言力も増大して、国際政治の中でその存在感はますます大きくなっており、世界は中国抜きでは何一つ決まらなくなった。G7が世界をけん引する力はすでにない。

結束容易でないG7
 確かに、独仏も昨年来「インド太平洋」戦略を打ち出し、中国も含めたアジアへの関与政策を強めている。
 だが、メルケル首相は、G7が合意した巨額のインフラ投資計画について、「一帯一路」を進める中国を敵視したものではないと述べた。メルケル氏は、新疆ウイグル自治区や香港問題では「批判する」と述べる一方、投資計画については「何かに対抗」するのではなくアフリカ諸国など援助を必要としている国に資金を効率的に行き渡らせるという前向きな目的だと強調した。
 フランスのマクロン大統領はサミットに先立つ記者会見で、インド太平洋地域におけるフランスの立場について「中国に従属することも、米国になびくこともしない。第三の独立した道を進みたい」と独自の外交路線を強調した。また、「中国はこの地域の全ての国にとって不可欠な経済パートナー」との認識を示している。
 深刻な分裂を抱える米国だけでなく、各国それぞれ、国内に難題を抱えており、共通する利益もあれば相反する利益もある。バイデンが掲げる中国への対抗のためのG7の結束も容易ではなく、米国の思惑通りにはいかない。

時代錯誤の菅政権
 菅首相は、四月の日米共同声明で、これまでの対中政策を投げ捨て、米国の口車に乗って、台湾海峡や尖閣問題を口実に中国への対抗を公然と打ち出した。今回のG7サミットでも、菅政権の時代錯誤の姿勢が際立った。
 台湾は中国の一部で、こんにちも経済的・人的に密接に結びついている、「独立」を叫ぶ一部の勢力をそそのかし、政治的、軍事的緊張をあおっているのは米国である。
 アジアでの政治・軍事大国化のめざすわが国の保守勢力や財界の一部には、米国の戦略にそそのかされて中国敵視の道を進もうとしている。
 すでに誰の目にも明らかなようにに日中の力関係は大きく逆転し、中国の背中はますます遠くなっていいっている。中国と敵対してはわが国が生きていく道は開けない。来年は日中国交正常化五十周年の節目である。財界の中にも亀裂が生まれ、深まりつつある。
 菅政権は、G7が対中対抗で結束したかのような世論をつくろうとしているが、中国敵視はわが国の「国益」を損なう、亡国の道である。

大激動に備えよう
 冷戦後の世界の主要な矛盾は、米帝国主義を中心とする帝国主義諸国とその他諸国との矛盾となった。
 米国を頂点とする帝国主義諸国は、地球全体の一 割にも満たない人口で、他の圧倒的多数の人口を占める諸国を支配下におこうとしている。被抑圧諸国、人民を収奪し、貧困に押しとどめることが一握りの帝国主義諸国の豊かな生活の条件である。英独仏など欧州の帝国主義も、独自外交を展開したり、米国に迎合して制裁を叫んだり、二面的で欺まん的な対応をとったりしている。
 だが、帝国主義諸国の繁栄や軍事力を支えるエネルギー資源も、その圧倒的量が途上国に埋蔵されている。この資源を奪い、また生産拠点や市場として確保するためには帝国主義列強は同盟を必要としており、この局面ではまだ列強間は同一性が主要な傾向である。これは今回のG7でも示された通りである。
 こんにちの世界は、台頭する中国をはじめインド、ロシアなども含めた「特殊な多極化」をする世界で、この傾向は強まっている。
 技術革新の急速な進行とともに資本主義的生産関係そのものが立ちいかなくなる情勢が急速に進んでいる。資本家でさえ「このままでは資本主義は持続不可能」と口にせざるを得ないほどの危機である。そしてコロナ禍は危機の進行を加速させている。世界は不安定化の様相をますます強めいる。
 そうした情勢の下で、世界はこの帝国主義とその他諸国との対立の激化に突き動かされながら、帝国主義列強間の矛盾、先進資本主義諸国における独占ブルジョアジーとプロレタリアートを中心とする人民との矛盾など各種の矛盾と対立を激化させている。
 先進的労働者は、予想される世界的大激動に、政治的、組織的、思想的準備を怠ってはならない。(H)


Copyright(C) Japan Labor Party 1996-2021