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2021年5月15日号 6面・解説

バイデン大統領の議会演説

薄氷踏むバイデン政権、
亡国の菅政権

 米国のバイデン政権は、一月の発足以来、トランプ前政権からの転換を強くアピールするため、気候変動対策やコロナ対策での迅速な動き、矢継ぎ早の大型経済対策など新たな動きに乗り出している。先の日米首脳会談をはじめ主要先進国(G7)との「国際協調」の再構築など中国を強くけん制する外交活動も活発化させている。そのなかで以降の米国の内政・外交の基本となる大統領就任後初の議会演説が行われた。
 バイデン米大統領は、四月二十八日、上下両院合同会議で就任後初の議会演説(施政方針演説)を行なった。

異例ずくめの議会演説
 演説は、コロナ感染予防のため、聴衆も制限され、通常なら議員や来賓千人以上で埋まる議場は、上下両院議員を含む二百人に限られた。また、連邦議会占拠事件を受け、フェンスやバリケードなどが設置された厳重な警備体制の下で行なわれた。就任から九十九日目という遅さもあり、異例ずくめの議会演説となった。
 バイデン氏は「今回の集まりは従来と多少異なっており、我われが特異な状況にあることを思い起こさせる」「百年で最悪のパンデミック(世界的大流行)。大恐慌以来の最悪の経済危機。南北戦争以来最悪の我われの民主主義への攻撃」というなかで「国家の再建と民主主義の復興、米国の将来を勝ち取ることについて話したい」と演説の八割以上をコロナ禍からの復活をめざす内政、経済政策に割いた。何よりも深刻な国内の分裂を修復し、中国の台頭を抑え込むためである。

中間選挙で集票を狙う
 施政方針演説では、まず新型コロナウイルス対策、ワクチン接種の加速をアピールした。そして「米国救済計画」では、広がった階級格差の是正、貧困削減のための給付金に成果があったとし、年内に「子供の貧困を半減」できると強調した。さらにインフラ投資を中心とした雇用創出のための「米国雇用計画」や最低賃金の引き上げなどをぶち上げた。これらは「ブルーカラーための青写真」と銘打たれ、労働者層への支持拡大を意図したものである。
 こうした格差是正と経済再生へ向けた戦略は、政権の足場を固めるとともに、来年十一月の中間選挙でトランプ支持者を含めた反対勢力の取り込みを狙ってのものである。
 昨年の大統領選挙と同時に行われた下院議員選挙(全員改選)と上院議員選挙(三分の一改選)の結果、定数百の上院では民主党、共和党の議席は五十対五十となり、副大統領の一票でかろうじて議決が通る状態になっている。民主党内から一人でも造反が出れば、議会での議決はできなくなる。バイデン政権の政権運営はまさに綱渡りで、来年十一月に行われる中間選挙で一議席でも後退すれば、過去にオバマ、クリントンら歴代民主党政権が中間選挙で敗北し、レームダック(死に体)化した轍(わだち)を踏むことになる。
 しかも、昨年の大統領選挙の激戦とそれ以降の動きにあらわれているように、共和党も中間選挙へ向けて対決色をますます強めている。共和党の地盤であるいくつかの州では投票制限など共和党に有利になるような選挙制度の見直しの動きも出ている。バイデン氏は、大統領令の頻発と議会では民主党単独での突破以外に今のところやりようはない。

政策遂行の裏付けは脆弱
 一般家計への現金給付を中心とした一・九兆ドル(約二百十兆円)の追加経済対策の財源は国債発行で、第二次大戦後最大の財政赤字となり、これには民主党系の経済学者からも「高インフレになる」という批判が出ている。
 また、八年間で二兆ドル(約二百二十兆円)規模の投資計画は、まだ始まっているわけではなく議会の高いハードルを越えて初めて動き出す「これからの話」にすぎない。その中身は高速鉄道など交通インフラ整備、脱炭素化への投資などで、雇用を生み出すというものだが、八年間という時間を考えれば年間の投資額はそれほど多くはない。
 しかも、その財源は法人税の増税や富裕層への増税で賄うとされている。
 この計画に対する国内の反発、抵抗は根強い。法人増税に対しては産業界だけでなく、民主党内からも「企業の活力を削ぐ」との批判があるし、また脱炭素化に対しては、ガス、石油などエネルギー業界から強い反対の声がある。しかも企業も富裕層もさまざまな「脱税」への抜け道をもっている。
 法人増税の動きに対してすでにヘッジファンドなどが海外に拠点を移す動きを見せているし、企業の海外移転が加速すれば経済再建どころではなくなる可能性もある。
 したがって、財源を含むこの計画も、中間選挙での票取り込みをかなり意識したなりふり構わぬものである。だが、中間選挙で民主党が一議席でも失えばバイデン政権は政策遂行力を失う。

中国への対抗姿勢を鮮明に
 バイデン氏は、技術革新など研究開発分野で「中国や他の国々が急速に迫ってきている。われわれは未来の製品や技術を開発し、優位に立たねばならない」と投資計画でも中国への対抗姿勢を明確にした。

同盟再構築は進むか
 台頭する中国をどう抑え込むかは、民主党、共和党ともに一致する数少ない課題である。トランプ前政権が「米国第一」で突っ走り、バラバラになった「西側」諸国の結束を再び取り戻し、どのように中国と対抗するか、バイデン氏にとっても第一級の外交課題である。
 バイデン氏は「われわれは戻ってきただけでなく、私たちがここに居続けるということ、単独で進むことはないということを示さなければならない。同盟国を率いていくのだ」「あらゆる危機に単独で対処できる国はない」と演説で述べた。バイデン氏は就任以来、気候変動サミットでの中ロの取り込み、日米首脳会談での同盟強化、インド、オーストラリアを含めた「クワッド」の連携強化、先進七カ国(G7)での対中ロでの連携確認など同盟再構築に奔走している。
 その「同盟国」である英国は欧州連合(EU)を離脱、独・仏などは「インド太平洋」戦略を策定して、成長するアジアへの関与を強めようとしているが、それはそれぞれの思惑からである。昨年末にはEUと中国は投資協定で合意した。中国もまたコロナ禍のなか外交攻勢を強めている。東南アジア諸国連合(ASEAN)も独自の発展をめざしている。
 「同盟国を率いていくのだ」と虚勢を張っても、かつてのG7とはその内部も大きく変化しているし、世界経済に占める位置も年々低下している。米中の経済力、各国間の力関係も大きく変化している。時代錯誤も甚だしい。

米国の深刻な状況を吐露
 バイデン氏は演説で、人種、性的少数者、女性、移民制度、銃規制、暴力、腐敗、ギャング、飢餓など米国が抱える深刻な社会状況について「赤(共和党)か青(民主党)かの問題であるべきでない。米国の問題だ」と述べ一致して解決することを訴えたが、深刻な状況を解決する道は示せなかった。それだけでなく人種差別、アジア人へのヘイトクライム(憎悪犯罪)、銃乱射事件など深刻化している。
 バイデン氏は、演説の最後に、中国への対抗を念頭に「われわれは民主主義は永続性があり、強固であると証明し、困難を乗り切るだろう。独裁者は未来を勝ち取ることはない。米国が勝ち取るのだ」と述べたが、米国の「民主主義」が資本主義の末期とともに瓦解の淵に立たされていることを吐露するものである。

わが国の進路が問われる
 バイデン氏の議会演説は、ひと言で言って、大言壮語とは裏腹に「薄氷を踏む思い」で政権を担っていかざるを得ない状況を反映したものとなった。
 先の日米首脳会談で、菅政権はそういう米国の状況に目をつぶり、アジアでの政治大国化をめざして、日米同盟関係を強化して中国と対抗していく道を担うことを約束した。一九七二年の「日中共同声明」を投げ捨て、台湾海峡、尖閣問題を口実に、わが国は軍備拡大、戦争準備の道にいちだんと踏み込んでいる。日米だけでなく仏英独豪などとの軍事協力も強まっている。
 わが国がアジアの一員としてアジア諸国と共生、共存の道を進むのか、アジアの孤児として見捨てられる道を進むのか、大きな岐路に立たされている
 だが立憲民主党は、泉政調会長の談話で、日米共同声明が「インド太平洋地域、とりわけ台湾海峡の平和と安定の重要性について認識を共有」したことなどを「評価します」と、菅政権の米国追随の姿勢を肯定し自公政権と同じ立場を表明した。共産党も、人権問題や台湾問題で中国非難の合唱に加わって帝国主義の中国対抗政策に加担している。
 保守層、企業家のなかにも動揺が生まれている。亡国の道を進むのか、アジアとともに繁栄の道を進むのか岐路に立たされている。
 今こそ、自主・独立の道をめざす国の進路を広く訴え、広範な戦線を形成していくチャンスである。(H)


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