ホーム労働新聞最新号党の主張(社説など)/党の姿サイトマップ

2021年4月15日号 2面・解説

デジタル関連法

大企業奉仕、国民に監視強化

 デジタル関連五法案が四月六日、衆議院本会議で可決し参議院に送られた。同法案は、国際競争力低下にあえぐわが国IT(情報技術)大手企業に巨大な儲(もう)け口を提供するとともに、内外の危機が深まるなかで国民への監視・統制をいちだんと強化するためのものである。
 同法案は、各省庁に指示する権限を持つデジタル庁の設置のほか、行政が集めた個人情報を企業のために利用することを認めるなどの内容を含んでいる。

国民への監視・統制の強化
 目玉のデジタル庁は自治体などに対する強い権限を持ち、いわば「司令塔」として位置づけられている。  「国民総背番号制度」にほかならないマイナンバーカードについては、預貯金口座番号と紐付け、スマートフォン(スマホ)に搭載可能とする。
 新たに、医師免許などの国家資格をマイナンバーにひも付け、預貯金口座とのひも付けも促される。これまで納税・社会保障・災害対策に限定されていたマイナンバーの利用範囲を拡大させる。
 重大な問題は、行政が集めた個人情報を企業等に開放して「利活用」できるようにすることである。「新たな行政サービスや民間のビジネスに活用していく」ことが狙いだとしているが、本人の同意なしに個人データを利活用しやすくするものである。
 また、個人情報保護法制が一元化されることと「情報システムの共同化・集約」によって、「オープンデータ化(匿名加工制度)」の名の下、自治体が独自に定めている個人情報保護条例を制約する。
 昨年五月にはスーパーシティー法(改定国家戦略特区法)が成立したが、この特区では、企業・自治体・政府による個人情報を「データ連携基盤整備事業」に集約して民間企業にゆだねられる。大企業は、個人情報を自動運転や行政サービスなどに「活用」するのである。
 デジタル関連法案は、この構想を「全国化」させるものである。
 また「デジタル化」によって、国や自治体の窓口業務が大きく削減される。これは、高齢者を行政サービスから排除することにつながる。
 総じて、国民への管理をいちだんと強化し、徴税(収奪)を強化するものである。
 データ漏えいの可能性も高まる。そもそも、コンピュータプログラムに「完璧」はなく、何らかの不具合やバグ(ミス)はつきものである。菅首相は国会答弁で「保護に万全を期す」と述べたが、具体的保証はない。

競争力を失う日本IT企業
 こんにち、パソコンやスマホを通じて収集される膨大なデータ(ビッグデータ)は「二十一世紀の石油」といわれるほど、多国籍大企業にとっての「垂涎(すいぜん)の的」である。IoT(モノのインターネット)の普及は、世界のデータ総量をさらに数百倍、数千倍に増大させ、争奪をますます激化させている。より多くデータを誰が握るのかをめぐって、米国、中国、欧州を中心に争奪が激化している。
 こうした世界のすう勢のなか、わが国のデジタル化における立ち遅れが際立っている。
 コロナ対策でぶち上げたスマホアプリ「ココア」は使い物にならず、早々に投げ捨てられた。マイナンバーカードを健康保険証代わりに使えるようにしたものの、トラブルが相次いで実施は先送りになった。東京五輪を前に準備されているアプリも、七十三億円もの異常な開発費が下請構造によるピンハネと無責任体制を証明するだけに終わった。無料通信アプリ「ライン」でも、海外への情報漏えいの可能性など、データ保護めぐる企業のずさんな事件が相次いでいる。
 5G(次世代通信規格)によるサービスは、韓国などと比べて一年近くも遅れている。
 スイスの「国際経営開発研究所」(IMD)によると、日本のデジタル分野の競争力(二〇二〇年)は第二十七位で、前年から四つもランクダウンした。これは、米国はもちろんアラブ首長国連邦(UAE)、マレーシアなどにも劣る水準である。
 「デジタル後進国日本」という評価は、財界が危機あおりで喧伝している面もあるとはいえ、相当に事実を反映したものである。

国策でIT企業に儲け口
 このような事態に対して、わが国財界は焦りを深めている。
 経団連は菅政権発足直後の昨年九月、「デジタル庁の創設に向けた緊急提言」を行っている。そこでは、「経済社会のあらゆる分野においてDX(デジタルトランスフォーメーション)に集中的に投資」すること、「地方公共団体も含めた行政各部においてすべての施策・事務を一体的に見直」すことなどを求めている。
 経済同友会も十一月に同様の提言を行い、デジタル庁の「司令塔化」や大規模な規制改革、海外からの導入を含む人材育成などを要求している。
 事前に財界と「調整済み」だったのであろう、菅首相は昨年秋の自民党総裁選で「デジタル庁新設」をぶち上げ、この要求に応える意思を鮮明にさせた。
 デジタル化は、このように信頼を失墜し、競争力を失いつつあるわが国IT(情報技術)企業に「官製市場」の儲け口を提供しようとするものである。あわよくば、国内市場で儲けて「力を蓄え」させ、国際競争力を高める余力を保証しようというものである。
 IT企業だけではない。持続化給付金を請け負った電通(平井デジタル改革相は同社出身)や、竹中平蔵氏が会長を務めるパソナなどの企業のような関連企業も儲けに与ろうとうごめいている。
 デジタル庁の人材は民間企業からも集められるが、これは米国のように企業と政府の人事が「回転ドア」化し、官民のゆ着をますます強めることになる。

支配層の危機対応策
 デジタル化はIT大手に奉仕することだけでなく、わが国支配層の危機対応策でもある。
 こんにち、コロナ禍はリーマン・ショック以降の世界の危機を加速・深刻化させている。世界資本主義は末期症状を呈し、生産関係の移行期、「社会革命の時代」を迎えている。世界的に「格差」が広がり、各国内で階級矛盾が深まっている。昨年の米大統領選挙とその後の推移は、米国が一種の「内戦状態」にあることを示した。
 各国支配層は人民への抑圧を強化し、自らの支配を再編しようとしている。国民への監視と統制、弾圧強化をもくろんでいる。まさに「軍事監獄」化である。デジタル化は、そのための手段でもある。
 今回の日本におけるデジタル関連法案においても、個人情報保護委員会は民間企業への立ち入り調査などの権限があるが、行政機関に対しては「資料提出要求」「勧告」などだけしかない。これにより、警察は「捜査照会」によってますます個人情報を入手できるようになる。
 これは、同様の法律・機関を有する欧州諸国などにさえ大きく劣る点である。
 情報をめぐり中央省庁の権限が強まり、地方自治体の自主性も奪われる。
 「オープンデータ化」について、国会では、自治体独自の国保料減免施策などが行いにくくなる(デジタル化によりプログラムやデータのカスタマイズが必要となるため)可能性が指摘されている。
 デジタル関連法の階級的性格を見逃してはならないのである。

構想の破綻は必至
 菅政権が「デジタル化」の旗を振ったとしても、わが国IT大手が国際競争力を高めて市場争奪戦に勝ち残ることは「望み薄」である。
 NTT、日立製作所、富士通などのわが国IT大手の国際競争力が、米国のGAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)はもちろん、中国のBAT(バイドゥ、アリババ、テンセント)に追いつけるとは、企業幹部でさえ考えていないだろう。
 何しろ、政府のデジタルインフラの基盤は、アマゾンのクラウドサービス上につくられている。わが国は、米巨大資本の「手のひらの上」で踊っているにすぎない。
 大企業のための「デジタル化」は不要で、デジタル庁は必要ない。
 そもそも、関連五法案の関係資料には四十五カ所もの誤りが含まれており、法案の体をなしていない。政府は、デジタル関連法案を直ちに撤回し、廃案にすべきである。
 国民大多数の利便性と個人情報保護に最大限に配慮する方向に、カジを切り替えるべきである。マイナンバー制度は廃止すべきである。       (K)


Copyright(C) Japan Labor Party 1996-2021