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2021年4月15日号 3面

東京五輪を中止せよ(2)

財界のための五輪

 国力を誇示するという五輪の性格は、東京五輪だけではない。
 ナチスが主導した一九三六年のベルリン五輪に典型的だが、そもそも五輪は主催国支配層、政権による国威発揚と国民統合、政権浮揚策の場である。冷戦時には、米ソ両超大国が五輪を舞台にそれぞれの威信をかけたし、東西ドイツなどの分断国家はその「正当性」を争った。新興諸国にとって五輪を開催できるということは、一定の「国際的地位」を得たことを内外に示すセレモニーでもある。

五輪は巨大な儲け口
 八四年のロサンゼルス五輪以降は、大会組織委員会が徹底的な商業主義路線を突き進んだ。スポンサー制度の導入による企業からの資金獲得、大会マークやマスコットのライセンス商品化、放送権までがビジネス化された。五輪の開催費用は約四兆円とされる(東京五輪は「簡素化」を名目に約半分)が、その約四割がスポンサー収益である。
 大企業にとって、五輪スポンサーとなるメリットは巨大である。
 たとえば、クレジットカードを展開するVISA(米国)は、競技チケットを販売する際の電子決済を独占することで数十億ドル以上の売上を得ている。信用経済が未発達な新興諸国における市場開拓も期待できるわけだ。
 世界の多国籍大企業にとって、五輪は巨大な「儲(もう)け口」である。

成長戦略推進の契機に
 また、五輪は、主催国企業に技術革新を加速させ、新たな産業を生み出す契機ともなる。
 六四年の東京五輪を機にインフラ建設、旅行産業・食品産業などが発展した。
 東海道新幹線が五輪をめざして建設されたことは有名である。高速道路や主要幹線道路も同時期に建設が始まった。環状七号線が開通したのはこの時期で、五輪に間に合わせるため「土地収用法」を初適用して民間地を収用(強奪)した。
 観光客のためのホテル建設なども急速に進んだ。高級ホテルとして知られるホテルニューオータニやホテルオークラなども、みなこの時期に開業している。
 また、選手らの食事を満たすために冷凍食品の開発が進み、こんにちではファミリーレストランなどで導入されている「セントラルキッチン方式」の初期形態が生み出された。
 米国の衰退と中国の台頭という歴史的激動期、わが国財界は競争力の低下に焦りを深めている。財界に突き動かされ、安倍前政権と菅政権は競争力強化のための成長戦略を遂行しようとしている。五輪は、これを加速させる機会として位置づけられているのである。
 菅政権のブレーンの一人である竹中平蔵氏が「『オリンピックだから』という勢いが働く」と述べている通りである。五輪を口実に、さまざまな財界のための政策を強行させようとしているのである。

金融都市としての狙い
 東京五輪は、石原都政時代の二〇〇六年、都議会決議によって誘致運動が始まった。同年八月には、国内候補地選定において福岡市を破り、政府のお墨付きを得た。
 気運を盛り上げるため、石原都政は「東京マラソン」を仕掛けた。ボランティアの大規模動員による開催は、東京五輪のモデルケースともいわれた。
 こうした経過を経て、一六年の東京招致は失敗したものの、二〇年の誘致が決まった(二一年に延期)。
 東京都は五輪招致と連動させる形で、世界から資金を呼び込む「国際金融都市・東京」構想をめざした取り組みを加速させた。東京を拠点とするわが国金融資本は、英国の欧州連合(EU)離脱、中国・香港の混乱などを「追い風」と考え、この構想を推し進めようとしている。
 これは金融大資本による収奪をさらに強化し、マネーゲームをあおって「格差」をいちだんと広げるものである。
 ただ、金融業の基礎である情報技術(IT)分野におけるわが国の立ち遅れは著しい。昨年には東京証券取引所の取引が終日停止した。国際金融都市構想が成功することはきわめて「望み薄」である。
 コロナ禍を理由に「中止」を求める世論が高まっていることは歓迎できる。併せて、国際金融都市構想などの暴露を強めることが重要である。   (O)


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