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2021年3月25日号 2面・解説

米国/財政出動、
金融緩和に大わらわ

国内矛盾の緩和は一時的

 米連邦準備理事会(FRB)は三月十七日、連邦公開市場委員会(FOMC)を開いた。要点は、現在のゼロ金利政策を少なくとも三年続ける方針を示したことである。緩和政策の継続は、バイデン政権による史上最大水準の景気対策を支えるものでもある。それでも国民生活の改善は不可能で、世界的バブルを膨らませるものである。
 FOMCは、フェデラルファンド(FF)金利誘導目標の〇〜〇・二五%への据え置き、このゼロ金利政策を少なくとも二〇二三年末まで維持することを決めた。米国債を毎月八百億ドル買い入れ、住宅ローン担保証券(MBS)も同四百億ドル買い入れる量的緩和政策の継続も決めた。

危機深化が背景
 緩和策の「三年継続」を表明した最大の理由は、米国経済の危機が深まっていることである。
 パウエルFRB議長は「景気は回復しつつある」と述べた。
 FOMCは二一年の国内総生産(GDP)成長率予測を六・五%とした。達成できれば、三十七年ぶりの高成長である。これは、コロナ禍以前の水準をほぼ回復するレベルである。これは一面にすぎない。
 一方、米国民の生活は依然として厳しさを増している。二月の雇用統計では、非農業部門雇用者数が前月比三七・九万人増となり、予想の二十万人を大幅に超えた。ただこれは、政府のコロナ対策による規制措置が緩和され、一時解雇されていた労働者(主に接客、小売)が再雇用された「効果」である。
 被雇用者総数は依然、コロナ禍以前と比して雇用者数は九百五十万人も少ない。長期失業者数は一月とほぼ同数の約四百十万人で、生産年齢人口に占める雇用者の割合は五七・六%で、一年前の六一・一%から低下している。失業率は六・二%だが、「やむなく非正規で働く人」など不完全雇用者を含める(U6失業率)と、実質的一一・一%と二ケタの水準である。雇用情勢は、依然として深刻なのである。

財政だけでは解決できない
 「コロナ禍以前のレベルを回復」できたとしても、それはバイデン政権による景気対策に支えられてのもので、いずれ息切れする。
 その景気対策だが、一兆九千億ドル(約二百十兆円)で史上二番目の規模となっている。内容は、道路や橋りょうなどのインフラ整備、年収七万五千ドル(約八百十万円)以下の国民への現金再給付、失業給付増額の延長、州政府への支援などである。
 この政策は、トランプ政権が行ったものよりもいくらか「低所得者向け」ではある。ブーシェイ大統領経済諮問委員会(CEA)委員は、景気対策で「格差を食い止める」などという。
 だが、トランプ前政権下で実施された富裕層減税は恒久的だが、今回の給付金は「一回限り」である。富裕層優遇策が撤廃されない限り、中長期には、「格差」はさらに開く。
 しかも、パウエル議長が認めるように「経済の回復は一様ではない」。サービス業などエッセンシャルワークに従事する労働者は低賃金状態を脱することができず、「大きな雇用喪失の打撃を受けている」(パウエル議長)のである。
 また議長は、「サービス分野で働く低賃金の労働者やアフリカ系米国人、ヒスパニック系の人が大きく雇用喪失の打撃を受けている」とも述べている。確かに、二月の人種別失業率は、白人が五・六%に対して、黒人九・九%、ヒスパニック八・五%に達している。
 「黒人の命も大切」(BLM)運動が高揚する基礎は、今後も変わらないということになる。

緩和継続の狙い
 緩和政策の「継続」表明は財政ファイナンスであり、投資家に「緩和後退懸念」が拡大して株価などの資産価格が下落することを防ぐもくろみもある。ゼロ金利解除を見越して上昇しつつあった長期金利を低位に抑え込む狙いもある。
 昨年春のコロナショック以降、米長期金利はFRBの金融緩和によって、一・〇%付近に抑えられてきた。物価上昇率を勘案した実質金利では、おおむね▲一・〇%前後というマイナス圏にあった。しかし二月に入ると長期金利は一%台半ば以上に上昇、FOMC直前には一・六%を上回った。これは、株価乱高下の大きな背景となった。
 長期金利の上昇は株価下落につながりやすく、併せて、政府累積債務を増大させる。パウエル議長は「(緩和縮小は)話す時期ではない」「議論をしていない」とまで発言しているのは、こうした狙いからである。今回のFOMC直後、長期金利は下落した。
 他方でFRBは、大手銀行への資本規制緩和を打ち切る意向も示した。
 米銀に融資や国債購入をしやすくする「特例措置補完的レバレッジ比率(SLR)」である。リーマン・ショック後、米銀は投融資の拡大を制限されたが、FRBはコロナ禍を理由に、二〇年四月に一年間の期限付きでレバレッジ比率を緩和した。FRBはいくらかの「政策正常化」要素を盛り込みたかったのだろう。
 SLRの打ち切りで、市中銀行による国債購入額を減少させて金利上昇圧力が増す可能性がある。当面は量的緩和政策で乗り切れるかもしれないが、先々は不安であろう。

危機はさらに深まる
 緩和策の長期継続は、世界経済のバブル化をさらに促進させて危機を深めるものである。
 FRBによる緩和政策とトランプ前政権による景気対策で、民間が保有する資金量は約二十兆ドルと、この一年間で二五%も増えている。欧日の緩和政策も加わってまさに「カネ余り」である。
 この資金量増大は、第二次世界大戦中以来七十七年ぶりの伸び率である。バイデン政権下の政策は、これをさらに加速させる。
 大戦中のマネー増大が、戦後に一〇%以上のインフレを引き起こした事実を鑑みれば、米経済の直面する危機が理解できよう。
 財政危機も深刻化する。
 大規模な財政出動により、政府累積債務は過去最大の二十九兆ドル(約三千百五十兆円)に達している。政府だけではない。企業債務(非金融部門)も約十一兆ドル(約千百九十五兆円)の債務を抱え、この水準はリーマン・ショック直前の水準を大きく超えている。
 仮に、長期金利の上昇でFRBが利上げを迫られることになれば、政府も企業も、債務負担が重くなる。その危機が深まれば、政府はドル紙幣の乱発でしばし延命できたとしても、企業破綻の頻発は避けがたい。
 世界経済も無縁ではない。すでに、米長期金利の上昇に引きずられる形で、ドイツなど欧州の長期金利も上がり始めていた。ラガルド欧州中銀(ECB)総裁は、「資金調達環境が時期尚早な逼迫(ひっぱく)にさらされる恐れがある」と懸念を表明していた。
 また、先進国の低金利の下で資金が流入してきたアジアの高利回り債券への影響も避けがたい。アジアのジャンク債からの資金逃避が起きれば、企業倒産の連鎖、失業者急増となる。
 FRBによる「緩和長期化」の表明は、こうした危機に当面の「安心感」を与えるものではある。一方、これがどこまで維持できるか、保証の限りではない。
 FOMC内でも、「三年」どころか二三年中に利上げを見込むメンバーは七人もおり、十二月時点から二人増えている。さらに早く、二二年中の利上げを想定するメンバーも四人いる。
 コロナ禍も「変異株」の登場などで予断を許さない。FRBの金融政策も「波乱含み」となることは必至である。

抜け道のない危機に
 FRBは「二%」の物価目標を維持しているが、思惑通りに進む保証もない。
 「米国外」からの影響もある。とくに、中国がいち早くコロナ禍から立ち上がり経済を軌道に乗せつつあることがある。これが米国の景気政策とも相まって、資源を中心とする国際商品市況を上昇させている。
 もう一つ指摘したいのは、中国による「デジタル人民元」の発行である。
 金融緩和政策の長期化は、一般的に「ドル安傾向」の長期化でもある。この環境下での「デジタル人民元」の発行は、ドルの信用低下を加速させる要素である。
 以上のように、米国など世界の支配層は、経済を回復させたいが、それに伴って不可避的に起きるインフレ高進や金利上昇は避けたいという「虫のいい」、矛盾した立場に立たされている。緩和政策を止めたくても止められない、さながら「アリ地獄」に落ちた状態なのである。
 まさに資本主義は末期症状を呈している。矛盾は、私的所有に基づく資本主義の下では解決できない。先進的労働者が「次の社会」を展望した闘いを強めるべきい時期である。 (O)


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