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2021年3月15日号 2面・解説

総務省が外資規制違反を「見逃し」

売国・腐敗行政の典型

 武田総務相は三月十二日、放送事業会社「東北新社」が外資規制に違反していたとし、認定取り消し手続きを進めると述べた。メディアに対する外資規制はどの国も行っている。一連の事態は、安倍前政権、菅政権によるメディア統制とゆ着をあからさまにしただけではない。「国益」を叫ぶ政府・与党の正体が、売国そのものであることが暴露されたのである。
  東北新社は二〇一七年三月、4K画質を持つ衛星放送の事業者認定を受けた時点で、放送法による外資規制に違反していた。外資による保有比率は、法定規則の二〇%を超える約二一%であった。

米投資銀行が保有
 同社はこの比率を「二〇%未満」と低く偽って申請していた。同社株式の外国人保有比率は、前年の一六年から一九%を超えていた。
 本来総務省は、この時点で同社の状況を精査してウソを見抜き、免許を認定せず、取り消し処分を行わなければならなかった。だが総務省もこれを「見抜けず」、措置を「怠った」。
 東北新社の株式を有する外資は、投資銀行のゴールドマン・サックスとメリルリンチ、香港上海銀行などで、その中心は米国金融大資本である。
 また東北新社は、一七年七月、複数の子会社に委ねていたCS(通信衛星)放送などを同社本体に集約する計画を発表していた。ところがわずか半月後の八月、この方針を突然撤回し、新たな子会社(東北新社メディアサービス)に4K放送を移管することを発表、十月に移管を完了した。
 本来、この時点でも外資規制の再審査が行われなければならなかったが、総務省はこれも「怠った」。この時点での外資保有比率は、二二%を超える完全な「違法状態」であったにもかかわらずである。
 一連の決定を総務省内で行ったのは、山田元情報流通行政局長である。東北新社による同省幹部への「接待攻勢」は、こうした違法状態を「見逃す」ことと関連していた可能性がある。東北新社の突然の「方針転換」に、何らかの「助言」を行った可能性さえ疑わせるに十分である。同社に「天下った」菅首相の長男は、その先兵役であったといえるだろう。

電波法による外資規制
 電波法では、放送事業者の議決権付きの株式のうち二〇%以上を保有する場合、放送免許を取り消すことが規定されている(第五条)。有効な免許の期限が切れる時点までに保有状態が「是正」されれば、処分は下されない(第七五条)。さらに同法は、外国人が議決権付きの株式の二〇%以上を保有しそうになった時点で、取得者を株主名簿に記載することを拒否する権利や、超過分の株式に議決権を認めない権利も規定されている(第五二条)。
 株主名簿に記載されない株主に対しては、企業は配当を支払わないことが可能である(判断は企業に委ねられている)。
 数年前、フジテレビや日本テレビの株式における外資保有割合が問題になったことがある。ただこの際は二〇%を超えてはいなかった。
 放送事業は世論に大きな影響を与えうる存在であるため、外資規制は安全保障上の理由が大きい。
 このような規定は、先進諸国ではほぼ共通して導入されている。世論が外国の意思で操作される可能性を排除することが理由である。独立国として常識的な措置といえる。
 戦後の対米従属政治の下では、株式保有率に関わらず、わが国メディアもまた総じて対米従属である。マスコミが対米従属政治をまったく暴露しないことは、株式保有比率とは直接の関係はない。
 それでも国家である以上、こうした規定は無意味ではないし、総務省の怠慢が許されてよいはずがないのである。

中韓は警戒、米国は認可?
 菅政権は常々、外国資本による国内投資を「安全保障上の問題」と力説してきた。
 菅首相は一月二十一日の参議院本会議で、外国資本による土地の買収問題に関して「長年にわたり議論されてきた課題であり、この政権で成果を上げられるよう、しっかりと取り組んでいく」と述べた。
 これは中国を念頭に、防衛施設周辺や離島などの土地所有者や利用実態を調査・把握する法案の提出を念頭に置いたものである。国会で取り上げられたのは、中国資本による北海道山林の買収と、韓国資本による長崎県対馬の自衛隊基地近隣地の買収である。
 新法では、領海や排他的経済水域(EEZ)の起点となる離島、自衛隊施設、原子力発電所などを「安保上の重要施設」として指定し、周辺の土地を調査対象とする。さらに、土地買収計画の届け出を事前に求めることも検討されるという。
 右派メディアは「最優先で新法制定に取り組むことを期待したい」(産経新聞)などと、こうした動きを大歓迎し、排外主義をあおり立てている。
 また菅政権は、コロナ禍を口実に、半導体や医療品などのサプライチェーン(供給網)の「中国依存」を解消するため、成長戦略会議で議論を開始した。菅首相は昨年十月、同会議で「強靱(きょうじん)なサプライチェーンの構築」の討議を指示している。
 菅政権は、多国籍大企業によるサプライチェーンの見直し(脱中国)に、一件あたり最大十五億円の補助金まで出して支援している(海外サプライチェーン多元化等支援事業)。これは、米国よる対中制裁への対応という面もある。
 菅政権はこうした政策を進める一方で、米国金融資本を中心とするメディアの株式保有を「見逃し」、追認していたのである。中国や韓国資本による土地保有は「警戒」し、米国資本による電波・放送事業の保有は「見逃す」。これらの二重基準、ご都合主義を売国的と言わず、どう言うというのか。
 一連の事態は、わが国政治の売国的本質を改めて浮き彫りにさせている。このような政府・与党に、「国益」を語る資格がないことはいうまでもない。

メディア支配と表裏一体
 菅政権下で発覚した「接待問題」は、安倍前政権以来の言論統制と表裏一体の関係にある。インターネット時代においては、新たに「接待」が発覚したNTTもまたメディアの一つであることは指摘するまでもない。
 政権とメディア企業幹部とのゆ着は、政権へのいわゆる「忖度(そんたく)」を広範につくり出した。政府・支配層による世論操作の強化である。
 安倍前首相は年十数回にもわたって、マスコミ幹部との会食やゴルフを続けていた。買収費用の原資は、国民の血税を元手にした政党助成金であり、官房機密費である。
 田崎・時事通信社特別解説委員は十年以上にわたって、定期的に安倍前首相、菅現首相らと会食を続けていた。安倍前政権は一四年、「友人」の籾井・三井物産副社長を、NHK会長職に送り込んだ。同会長は「政府が右と言うことを左とは言えない」などと、NHKの「政府広報機関」化を正当化した。
 自民党の大西衆議院議員は一五年、安全保障関連法案に批判的なマスコミを「懲らしめる」「広告料収入がなくなることが一番。経団連に働き掛けてほしい」などと発言した。
 NTTによる接待が発覚した高市元総務相は一六年、政府が「政治的公平に反する」と判断した放送局には停波を命じることができると答弁した。報道機関への露骨な介入・干渉である。
 こうしたなか、安倍前政権に「批判的」とされた、NHKや民放報道番組の主要キャスターが相次いで降板する事態も起きた。
 菅官房長官(当時)は、会見で特定の新聞記者に対して「答える必要はない」と回答を拒否した。コロナ禍以後は、会見に参加する記者を制限することまでした。
 菅政権はこの姿勢を引き継ぎ、強化している。
 首相補佐官(政策評価、検証担当)に柿崎・共同通信論説副委員長を起用、安倍前政権に「批判的」とされてきたメディアの取り込みも策している。
  *  *  *
 ブルジョア民主主義の範囲であっても、安倍・菅政権下で進むメディア支配・統制は度し難いレベルにある。
 その「強面の皮」をはげば、そこには米国資本の保有・支配を認めるという著しい売国性に貫かれている。
 われわれは、メディア関係者の心ある、勇気ある行動に期待する。
 同時に、われわれ自身の役割を再認識し、政府・与党、支配層による世論誘導、思想攻撃と敢然と闘う意思を改めて表明するものである。(K)

※その後、国会において、東北新社が違法状態を総務省に報告していたことが暴露された。総務省の「見逃し」が意図的であることが明らかになった。


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